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番外編①
【ちびテンタ君の毎日】1
しおりを挟むテンタクルボールの朝は早い。
日が東の山縁を照らす前に、地面から根っこを外してぴょこぴょこと活動を始める。
朝イチのお仕事は、飲み水の確保だ。川の水を、ヒトの身体ではそのまま飲めないので、山を登り一番キレイな湧き水を汲んでくる。骨は折れるが、クロードのため。テンタクルボール達の最優先事項はクロードの生活を豊かにすることなので、労力は惜しまない。
テンタクルボールは触手で水を吸い上げ、繋がった別個体の根を伝って水を移動させる。
触手を繋いだ小さなテンタクルボール達は、己の身体を管のようにして水を運ぶ。
日が昇り始める頃、ヴィンセント達のいるテントの傍まで水を運び終える。
すると、テントからのそのそヴィンセントが起き出した。ふわぁ、と欠伸をしているが、彼は眠気など感じていない。
それはテンタクルボール達の共通認識だった。
そもそも、植物系モンスターであるテンタクルボールは眠らない。光合成をする関係で日の光を浴びる事は重要だが、睡眠は不要だった。
同化体であるヴィンセントも同様だ。
しかし彼は人間らしい生活を続けているため、クロードと共に、寝床へ入る。
そしてクロードの寝顔を眺めては上機嫌で夜を明かす。寝てはいない。寝っ転がっているだけだ。
寝るより有意義な夜を過ごしていると、本人は思っている。クロードが呼吸して動いて、また朝目覚めると思うと嬉しくて仕方がないらしい。
ヴィンセントの溺愛ぶりはテンタクルボール達の共通認識だ。不動の感情である。
ちなみに世界樹の森を出て数ヶ月は経つが、クロードはまだ、この事実に気付いていない。
「朝飯でも作るかー。うーん、肉……は重いか?卵?あったっけ。あー、あと果物と、ミルクか……」
クロードの口に入る物なので、食材もヴィンセントが厳選している。容量が無限に近いバッグからポイポイと野菜や果物が飛び出して、テンタクルボール達は小さな触手でそれを受け止める。
ササッと湧き水で野菜を洗う。
別の個体がヒュンヒュンと触手を振り回し、野菜を切り刻んでいく。
ヴィンセントは、昨夜の焚き火の燃え残りからもう一度火をおこし、厚手の鍋をぶら下げた。魔獣の肉の脂の部分をポイッと入れると、熱でジュウジュウと音を立て始める。
そこに卵を二つ落とし、両面焼いてパンの上に乗せる。
鍋には切り刻んだ野菜を投入し、軽く塩とハーブを入れて炒める。
火の通った野菜もパンに乗せチーズも一切れ。もう一枚のパンで挟んで木の皿に乗せた。
触手が簡単に切り分けた果物を摘まみ、ナイフで皮を剥く。
テンタクルボールの触手は大雑把な切り方しかできないので、種を抜いたり皮を剥くのはヴィンセントがやっている。
テンタクルボールはそれぞれ個体で動いているとはいえ、ヴィンセントと『同じモノ』なので、結局この料理は全てヴィンセントが作っていることになる。
しかしヴィンセントは、そんなことは気にもせず毎朝小さい触手に囲まれて、楽しそうに食事の準備をしていた。
クロードが起きてきて湧き水で顔を洗い、ヴィンセントの元にやってくる頃には出来たての朝食が湯気を立てている。クロードの眉が下がり『今日こそ手伝おうと思ったのに……』と呟くのもいつものことだ。
温めたミルクにはちみつを入れ、木のカップに注ぐ。
「熱いから気をつけてな」
「うん。ありがとう、ヴィンセント」
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