24 / 100
三話
1-3
しおりを挟む「お前はいつから知ってたんだ。あのウィトリーとかいう貴族」
「え? 全く面識はないけど。ただテンタクルボールの採取のために出資を募ったら即行で名乗りを上げてきたから怪しくない? って調べたよね。明らかに不審だよね」
「……不審なのか?」
「そりゃそうだよ。今いる出資貴族が参加してきたのは、テンタクルボールに関する論文を僕が発表してからだもん。……普通、テンタクルボールなんて『ちょっと貴重で高価な素材が採れる植物』くらいにしか思ってないよ。冒険者の中でもこれが当たり前だよね。だから最初はみんな、人工飼育で種子を定期的にとれる工場でも作るのかなって思ってたっぽいよ」
苗床工場……と、想像してゾッとした。
人間に植え付ける必要はないから、家畜とかに植えるってことだろうか? それにしても触手に寄生された生き物を人工的に作るなんてのは、だいぶ悪趣味だ。倫理的に問題あるだろうが。
「だーけーど、ウィトリーは違うでしょ。最初っから出資額も大盤振る舞いだったから、これは『不老不死の薬』を狙ってるなって判ったよ。僕の論文を差し置いて、結論を知ってたってことだよねコレ。僕より前に同じ事をしようとした人が、いるのかな? って思うよねー」
「……それがクロードだっていうのか」
「さあ? でも、僕から見た感じ、彼から研究者の匂いはしないなあ。ただ触手から好かれそうないい身体してるなとは思うけど」
なんだそれ。触手に人間の味の好き嫌いとかあるんですか? 初耳ですけども?
「あ、その目信じてないな?」
「どう信じろって?」
「ほんとだもーん。見てよ小テンタくん達、みんな彼の着てた服に集まってスンスンしてるよ。ほら見て」
小テンタくんってなんだ。チビ触手のことか。おーおー水槽いっぱいにうぞうぞ触手がいる様は、なかなか迫力がある。触手に混じってたまに麻の布地がチラチラと見えた。あれは昨日クロードが着ていた服……か?
「採取した精液にも寄ってきたし」
「オイ」
「唾液、涙、その他排泄物にも反応したしほぼ消化したし」
「……オイ!」
「あ、ちゃんと本人に了承とって頂いてきたから。同意だからね」
いやいやここで囲われてるクロードが逆らうわけないだろ! 俺がいない内に何やらかしてくれてんだこのド変態が!
思わず椅子から立ち上がった俺に、アレンはにっこり笑って小さな籠を差し出してきた。は? とガラ悪く問いかけると、『採取の時間じゃない?』と突然の雇い主モードになる。
「とにかく、今判ったのは『異様にテンタクルボールに詳しいウィトリー家』と、『たぶんウィトリー家にいたクロード君は触手にモテモテ』ってことだけだよ」
「身も蓋もない言い方すんな」
「よくかみ砕いた素晴らしい言葉じゃない?」
俺は深いため息をついて、アレンの手から籠を受け取った。毒気を抜かれてぷらぷらと研究室を出ようとして、アレンに呼び止められる。
「あのさあ、体液はなるべく飲まない方がいいよ」
「……は?」
「とっても丈夫な検体が増えるのは僕が喜んじゃうだけで、ヴィンセントは望んでないなら、やめときな」
ス、と青い目が眇められて、アレンからふざけた表情が消える。ひやりとした空気がその言葉には込められていた。冒険者として何度か修羅場をくぐり抜けてきたが、なかなかこの『貴族然』とした空気の威圧というのは、感じる機会がない。
210
お気に入りに追加
641
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる