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さえない熊獣人のおじさんはいつの間にかイケメン翼人に囲い込まれて溺愛されてる
後日・後編【了】
しおりを挟む「おお……やはり」
ザワッと白熊獣人達が顔を見合わせて騒ぎ出した。
「幼い頃から帝国に使われていたと聞いております!」
「実家から出たのは10歳になる前でしたが。……それから数年でこの崖の上にきました」
「なんと!そんなに小さな頃から!!……ああ、碌なものを食べさせてもらえなかったのか。こんなに身体が小さくて……」
「小さくないですよ。熊獣人としては普通です」
「白熊獣人は皆私達のような大きさに育つのです!!市井の熊と一緒にしてはいけません!」
ガッと両肩を掴まれてマテウスは相手を見上げた。
確かにヴァルラムを含め騎士の全員がマテウスより身体が大きかった。これでもマテウスは、翼人のカイルより胸板が厚い。背は追い抜かれてしまったが、ウエイトに関してはまだまだ勝っているのだ。
……そう思っていたのだが、白熊獣人達の様子を見ていると、自分が痩せの乞食になった気分になる。小さい、細い、貧相、とはやし立てられているようで落ち着かなかった。
「……それで、皆様は何の御用なのですか?」
少し冷たい声が出てしまったのは否めない。
ビクッと白熊騎士達が身体を竦めるくらいの冷ややかさだった。
家の中から外の騒ぎを傍観していたアルベルトは、マテウスに近づいてきて、すいっと自然にその腰を抱き寄せた。誰もが目を疑う、突然の出来事だった。マテウスの肩を掴んでいた騎士はハッとしたようにアルベルトを見る。
力のある竜族だと判ったからだろう、騎士達全員に緊張が走った。
「なんだ、マテウスの仲間だと思ったから放っておいたというのに」
「同じ種族ではあるようです」
「同種でも敵対することはあるな。人間達がいい例だ。……しかしお前はカイルの大事な番。傷つけさせるわけにも、攫われるのを見ているわけにもいかない」
「そうなんですか?」
「竜族の常識では、そうなんだ」
ぶわりとアルベルトの周囲にマナが集中する。発する威圧の力も普通ではなかった。
戦争をしにきたのだからかなり手練れであろう騎士達が、気圧されて近づくこともできないでいる。
流石は竜族、と感心していたマテウスは、ふと気付いてはいけないことに気がついてしまった。
「……アルベルト、貴方もしかしてカイルと戦っている時、手加減していますか」
「ああ、勿論。初めて会った時は加減が分からず怪我をさせたが、今は大丈夫だ。この世の至宝であるカイルを傷つけるわけにいかないだろう?あれはただ戯れたくてやっている」
「そ……れは、カイルには一生言わないであげるのがいいですよ……」
「そうなのか?」
「私達の常識で言いますと……それは、今より完全に嫌われます」
「……!!」
衝撃でよろけたアルベルトは、悲しそうに俯いてマテウスの身体を抱き締めた。『うう、カイル……』と泣いているようだがマテウスはかける言葉が見つからない。
まさか、毎回本気で殺しにかかっているカイルに対して、手加減しているばかりか『戯れ』と言い放つとは。翼人としてのプライドの高いカイルが聞いたら、ブチキレどころではない。
「何故だ!何故竜族の御方が!」
「我々はマテウス殿を保護しにきたのです!お鎮まりください!」
アルベルトはマテウスの長い髪に指を入れ、すいっと梳きながら髪に口づけた。カイルもよく同じようにしているので、匂いがするのだろうなあとマテウスはのんきに見つめていた。
しかしそれは白熊獣人達にとっては衝撃な光景だった。まさか竜族の番に選ばれたのか、熊獣人が、と信じられないといった視線が集まる。
しかしそこで彼らの視線を遮ったのは、視界を白く染めるほどの激しい稲妻だった。
「――トカゲ野郎。今日だけは褒めてやる」
「カ、……」
「カイル!!」
マテウスより先に嬉々として声を上げたのはアルベルトだ。それが気に入らなかったか顔を顰めたカイルは、翼を翻して崖の家の前に降り立った。
そして白熊獣人達をジロリと睨み付けると、『約束が違う』と吐き捨てた。
「マテウス本人の意志を尊重すると言っただろう」
「勿論だ!マテウス殿が望むならだが、我々は本人から直接聞いたわけではない!これでは国に帰れん!」
「ほう……上等だ。マテウスが俺よりお前達を選ぶと本気で思ってんのか……?」
押し込めた怒りのせいかバチバチと帯電して艶やかな黒髪を僅かに浮き上がらせているカイルは、……マテウスには魔王のように見えた。あまりにもその笑みが禍々しい。
ため息をついて手を伸ばすと、カイルがすぐに気付いてマテウスの手を取った。
「申し訳ありません、白熊獣人の騎士の皆様」
「マ、マテウス殿……」
「カイルは番です。私はここから離れる気もありません」
マテウスが宣言したのと同時に、カイルが満面の笑みで彼を抱き寄せた。そして人々が見つめる中、噛み付くように唇を合わせる。
驚いて身を引きかけたマテウスは、腰からおりた手で尻を鷲掴みにされてビクリと身体を跳ねさせた。はぁ、と息継ぎをした唇が再び塞がれて、ぴちゃ、くちゅ、と濡れた音が立つ。
すぐに濃厚なキスで腰砕けになったマテウスは、呆然とした白熊獣人達の前で抱き上げられ、家の中に運ばれた。
振り返ったカイルは勝ち誇ったような笑みを浮かべて、彼らを締め出し家のドアを締めた。
後日。
働きのご褒美としてイヤイヤながらカイルは、自分の上着を一枚アルベルトに渡した。
しかし『持って行け』と言われて歓喜したアルベルトは、『脱ぎたてが良いから一度着てくれ』『できれば下着が欲しかった』『今からでも下着を脱いでくれて構わない』などと失言してしまい、再び崖の上は戦場と化した。
マテウスは疲れ切った身体で意地でも結界を張り続け、今日も崖下の広大な森は焼け野原にならずにすんだのだった。
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