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さえない熊獣人のおじさんはいつの間にかイケメン翼人に囲い込まれて溺愛されてる
二話
しおりを挟む血抜きした塊肉に、塩やスパイスなどの調味料類、小麦を一袋に野菜の種と日持ちする根菜が数種類。干し肉やジャムも入っている。
それらを袋から出して、マテウスはひとつひとつテーブルに並べ礼を言った。力強い翼を持つ大鷲のカイルは、かなりの量の物資を崖の上に運ぶことができる。しかも頻繁にきてくれるので、マテウスは思いもよらぬ快適な生活を楽しんでいた。
もともと人付き合いの上手くないマテウスが崖の上の生活に難を言うとすれば物資の問題だけだった。しかも豊かな物資にカイルという楽しい話し相手までついてくるのだから、以前に比べてとんでもなく贅沢だ。
椅子に座ってマテウスの様子を眺めているカイルは、ふくふくと嬉しそうな顔で笑っている。背にしまわれた羽根は、大空を駆ける時とは違い畳まれて小さくなっていた。翼人は人間の都市を渡り歩くことが多いので、こうして羽根を収容する術に長けていた。
翼人は見た目が派手で美形揃いな種族だ。人間の国では、何処の地域でも天の使いとして厚遇されている。その中でもとびきり美しいカイルは大陸の国々でも引く手あまた、定住地をうちに決めないかとあちらこちらから誘われているらしい。
翼人が所属している国は、どこも高い地位に彼らを据えたがる。この国には天の使いがいるぞと自慢したいからだ。それは他国への牽制、とも言える。その翼を使って天を駆ける翼人は雷魔法を得意とし、戦争ともなれば一騎当千の戦力となった。万単位の兵士と翼人一人が渡り合ったという話もある。
どこまでが本当かは戦乱のない今の世の中ではわからないが、翼人の戦闘能力が高いのは確かだった。
対して、熊獣人は地味な種族だ。
決して戦闘能力が低いわけではないが、質実剛健という言葉がふさわしく、派手なところがない。とにかく身体が丈夫で忍耐力があるのが特徴なので騎士団の盾役として編成されることが多い。その中でもマテウスはたまたま魔力量が多く、幼い頃からマナが見えたため帝国に雇われた。
珍しい白熊の獣人だと貴族に飼われそうになったこともあるが、その有用性を考えるに珍しいペット扱いするだけでは勿体ないと思ったのだろう。帝国の上層部が、マテウスをこの崖の上の家へと赴任させた。
結界は帝国領土を守る大規模なもので、魔物を都市部に寄せ付けないようにするためのモノだ。数人の結界師が広範囲に散らばり毎日せっせと結界を維持している。
マテウスが赴任したのはまだ10代の頃で、それから二十年くらいは変わらず仕事をしている。魔力の枯渇で何人か代替わりをしていたが、マテウスの魔力はまだ陰りを見せていなかった。
「先日のミルクがまだあるのでシチューにでもしようか」
「うん」
笑ってテーブルに頬杖をついたカイルは、調理台の前に立つマテウスの背をじっと見つめていた。
白く長い髪は腰まであり、紐でくくられゆらゆらと揺れている。艶のある髪が日に焼かれずこうして美しいまま保っているのは、奇跡に近かった。街で過ごしていたら強い日差しに晒されて傷んでしまうだろう。カイルはマテウスの髪が大好きだった。
髪だけではない、丸く黒目がちな瞳も穏やかな表情も、秀でた額に通った鼻筋、やわらかく微笑む厚めの唇もすべてすべて、カイルの好みど真ん中だった。
ずっと独り占めしたいと思っているし、誰にも見せたくないと思っている。だから帝国がマテウスを囲い込んでいるのは気に入らないが、この崖の上で隠遁生活をしていること自体は良いと思っていた。カイルが来なければマテウスはずっと一人だし、カイルが来るととても喜んでくれる。これが街中だったら、他に誘惑が多いせいでこうはいかないかもしれない。
翼人は生来、独占欲が強い種族だ。空を自由に飛ぶため奔放などと思われがちだが、番を決めたら絶対に浮気はしないしお互いに執着が強いので一生添い遂げる。
そのため翼人は、翼人同士で番になることが多かった。他種族では、この強烈な執着心に耐えきれないからだ。しかし恋する気持ちは止められない。他種族でも恋に落ちてしまったら、それが地獄の幕開けだとしても、必死に追い縋れ手放すなと教えられて翼人の子供は育つ。引き裂かれたり無理矢理諦めようとすると、そのうち衰弱死するからだ。
どうせ死ぬなら、好きなヒトの側で死ね、というのが翼人の教えだ。
そんなことを子供に教えていいのかとカイルは子供ながらに思っていたが、実際恋に落ちてみると『それはそう』と納得してしまった。
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