【短編まとめ】おっさん+男前+逞しい受詰め合わせ

天城

文字の大きさ
上 下
47 / 76
クマにも効く強力な媚薬を作れと依頼されたので腕によりをかけて作ったが俺に使うとは聞いてません!

一話

しおりを挟む




「こちらが媚薬の原液になります」

 指定されたのはそれなりに高級な宿屋の一等室だった。
 こんなとこ借りて人払いまでして依頼物を受け取りにきた騎士に、俺は説明を始めた。
 媚薬といったって薬の一種だ。用法、用量は守ってもらわないと軽くて発狂、最悪死人が出る可能性もある。

 俺はティーテーブルの上に小指大の瓶を置き、淡々と説明を続けた。

「茶に混ぜるならティーカップに1、2滴。それ以上は危険です。また、原液で口にしたり粘膜に直接吸収させたりするのはお止め下さい。潤滑剤として使う場合はこちらのスライム粘液に、やはり1、2滴入れてよく振り混ぜてからご使用ください」

 小瓶の横に透明な粘液の入った瓶を置く。
 これはサービスだ。これだけ豪勢な宿屋を予約しているということは、これからお相手と待ち合わせか、連れてくるつもりなのだろう。
 今すぐ使いたいのに!ってなるといけないからな。
 俺は気遣いの出来る錬金術師だよ。

「何で始めから使用可能な濃度で作らないんだ?」

 頬杖ついて聞いていた騎士が、素朴な疑問とでもいうように問い掛けてきた。
 はぁ、とため息をついて俺は肩を竦める。

「貴族達が使う場合、媚薬というのは酒や茶に混入させ、隠れて対象に飲ませます。小瓶を袖口に隠しておくんです。この大きさでなくては隠せませんし、飲んだのが少量過ぎては効果も薄い。だから原液でお渡ししています」

「ふうん、そういうものか」

 興味なさげに相槌を打った騎士の男は、こんな小細工なぜ必要なのかと思うほど美しい容姿をしている。
 冷たくも見える冴えた銀髪を短めに整え、切れ長な紫の瞳は長い睫毛が縁取っていた。
 立派な体躯、通った鼻筋に精悍な風貌、確か年齢はまだ二十代後半だったはずだが、若い頃から騎士団では名の知れた男だ。

 ギュンター・ホルスト・フェッセル。
 フェッセル侯爵家の庶子だったが、先だっての遠征でその武勲から英雄と称され、陛下からは直々に褒美も授かっている。
 将来有望で、騎士団長からも特別目を掛けられているらしい。
 本家フェッセル家もその功績を無視出来ず、正式に彼を迎え入れたという。

 女など、貴族も平民も声をかける必要もなく引く手あまただろう。
 もしその趣向が男であったとしても、この英雄相手なら身を捧げるという男がいても不思議はない。

 かく言う俺にも少し憧れがあった。
 遠征に治療専門の錬金術師としてついて行った時、軍神の降臨かと思えるほどの戦いぶりを間近で見たせいだ。
 あんなの見せられたら、誰だって惚れてしまう。
 俺だけじゃない、従軍していた召使い達も皆、この男に魅了されていた。
 そういう男なんだギュンターという騎士は。

 じゃあ何故こんな完璧な男が、卑怯な『媚薬』という奥の手まで用意して他人を手に入れようとしているのか。



 ――相当な高嶺の花の女性か、立場や身分のある男か、腕っぷしで敵わない相手かだ。



 そうなるとやはり騎士団長だろうか。
 熊のような巨体は筋骨隆々としていて、後ろから見るとゴーレムが歩いているように見える……とは言いすぎだが、体格がよく豪快な人物で、色恋にはあまり縁がないらしいが。
 
 まあ、どちらにせよ俺には関係のない話だ。ただのしがない宮廷錬金術師なので。
 何故とかどうしてとか、好奇心で首を突っ込むと碌な事がない。そんなわけで依頼は達成したので、俺は早々に退散させて頂きますかね。

「では、報酬はギルドを通じてお支払いください。……失礼します」

 目深に被っていたフードを少し直し、くるりと背を向けて出口へ向かう。

 『待て』と声をかけられて振り向くと、無愛想な顔で『用意した茶くらい飲んでいったらどうだ』とティーテーブルを顎で示す。
 そこには高級茶葉でいれた茶が、これまた高級なティーカップに注がれて置かれていた。
 宿のサービスで用意されたものだ。少し湯気が落ち着いているので冷めかけだろうが、確かに手もつけないのは失礼な態度ではある。
 だがそれは貴族対貴族の間柄のことであって、俺は爵位もないただの錬金術師なので空気と思ってくれて構わないんだが。

「飲んで行け」

「……はあ」

 1度進んだ距離をまた戻りテーブルにつくと、いつの間にか媚薬の瓶は回収されていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...