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クマにも効く強力な媚薬を作れと依頼されたので腕によりをかけて作ったが俺に使うとは聞いてません!
一話
しおりを挟む「こちらが媚薬の原液になります」
指定されたのはそれなりに高級な宿屋の一等室だった。
こんなとこ借りて人払いまでして依頼物を受け取りにきた騎士に、俺は説明を始めた。
媚薬といったって薬の一種だ。用法、用量は守ってもらわないと軽くて発狂、最悪死人が出る可能性もある。
俺はティーテーブルの上に小指大の瓶を置き、淡々と説明を続けた。
「茶に混ぜるならティーカップに1、2滴。それ以上は危険です。また、原液で口にしたり粘膜に直接吸収させたりするのはお止め下さい。潤滑剤として使う場合はこちらのスライム粘液に、やはり1、2滴入れてよく振り混ぜてからご使用ください」
小瓶の横に透明な粘液の入った瓶を置く。
これはサービスだ。これだけ豪勢な宿屋を予約しているということは、これからお相手と待ち合わせか、連れてくるつもりなのだろう。
今すぐ使いたいのに!ってなるといけないからな。
俺は気遣いの出来る錬金術師だよ。
「何で始めから使用可能な濃度で作らないんだ?」
頬杖ついて聞いていた騎士が、素朴な疑問とでもいうように問い掛けてきた。
はぁ、とため息をついて俺は肩を竦める。
「貴族達が使う場合、媚薬というのは酒や茶に混入させ、隠れて対象に飲ませます。小瓶を袖口に隠しておくんです。この大きさでなくては隠せませんし、飲んだのが少量過ぎては効果も薄い。だから原液でお渡ししています」
「ふうん、そういうものか」
興味なさげに相槌を打った騎士の男は、こんな小細工なぜ必要なのかと思うほど美しい容姿をしている。
冷たくも見える冴えた銀髪を短めに整え、切れ長な紫の瞳は長い睫毛が縁取っていた。
立派な体躯、通った鼻筋に精悍な風貌、確か年齢はまだ二十代後半だったはずだが、若い頃から騎士団では名の知れた男だ。
ギュンター・ホルスト・フェッセル。
フェッセル侯爵家の庶子だったが、先だっての遠征でその武勲から英雄と称され、陛下からは直々に褒美も授かっている。
将来有望で、騎士団長からも特別目を掛けられているらしい。
本家フェッセル家もその功績を無視出来ず、正式に彼を迎え入れたという。
女など、貴族も平民も声をかける必要もなく引く手あまただろう。
もしその趣向が男であったとしても、この英雄相手なら身を捧げるという男がいても不思議はない。
かく言う俺にも少し憧れがあった。
遠征に治療専門の錬金術師としてついて行った時、軍神の降臨かと思えるほどの戦いぶりを間近で見たせいだ。
あんなの見せられたら、誰だって惚れてしまう。
俺だけじゃない、従軍していた召使い達も皆、この男に魅了されていた。
そういう男なんだギュンターという騎士は。
じゃあ何故こんな完璧な男が、卑怯な『媚薬』という奥の手まで用意して他人を手に入れようとしているのか。
――相当な高嶺の花の女性か、立場や身分のある男か、腕っぷしで敵わない相手かだ。
そうなるとやはり騎士団長だろうか。
熊のような巨体は筋骨隆々としていて、後ろから見るとゴーレムが歩いているように見える……とは言いすぎだが、体格がよく豪快な人物で、色恋にはあまり縁がないらしいが。
まあ、どちらにせよ俺には関係のない話だ。ただのしがない宮廷錬金術師なので。
何故とかどうしてとか、好奇心で首を突っ込むと碌な事がない。そんなわけで依頼は達成したので、俺は早々に退散させて頂きますかね。
「では、報酬はギルドを通じてお支払いください。……失礼します」
目深に被っていたフードを少し直し、くるりと背を向けて出口へ向かう。
『待て』と声をかけられて振り向くと、無愛想な顔で『用意した茶くらい飲んでいったらどうだ』とティーテーブルを顎で示す。
そこには高級茶葉でいれた茶が、これまた高級なティーカップに注がれて置かれていた。
宿のサービスで用意されたものだ。少し湯気が落ち着いているので冷めかけだろうが、確かに手もつけないのは失礼な態度ではある。
だがそれは貴族対貴族の間柄のことであって、俺は爵位もないただの錬金術師なので空気と思ってくれて構わないんだが。
「飲んで行け」
「……はあ」
1度進んだ距離をまた戻りテーブルにつくと、いつの間にか媚薬の瓶は回収されていた。
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