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騎士団のエースに捕縛された盗賊の頭領ですが尋問も拷問もなく囲われて溺愛されています。

二十九話

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「……ルーファス?」
「レイモンド卿に頼んでいた魔道具が、ようやく出来上がりました」
「ああ?魔道具?」

 レイモンド卿はエルフの中でも手先が器用なほうらしく、護符アミュレットや魔道具を作るとちょっと国宝級のモノが出来てしまう。そんな相手に気軽にぽんぽん魔道具を発注依頼しているのがルーファスだ。しかも用途が俺の下着。
 ……国宝級の下着とか作らせて、ほんと罰が当たるぞお前?

「ブラジャーの次はパンツで、その次が出来たって?今度は何だ……」

 げんなりしつつ問いかけると、ルーファスは黒い小箱を取り出してベッドの上に置いた。俺はルーファスと共にベッドの端に腰を下ろす。

「実は、先に作った下着には私の魔力紋が刻まれていまして」
「おう。だからお前しか外せないって聞いたぞ?」
「魔力紋を刻むのは、使用者限定魔道具を作る場合にのみ、つかわれる手法です。その魔力紋を持つ者限定、という意味で」
「……ん?」

 俺の下着がルーファスしか外せないのは知っているが、使用者限定と言われると『じゃあ俺は?』って気持ちになる。訝しげに見る俺の手を取って、ルーファスはカタチの良い唇を俺の指先に押しつけた。

「じっくり、長い時間をかけて馴染ませて、ザザに私の魔力紋を馴染ませました。始めは不安定でしたが、もう私の魔力暴走などの影響は受けませんし、今はザザのどこに触れても私のしるしが刻まれているので」
「え、……」

 なにそれ知らねーけど?
 呆気にとられて動きを止めた俺の様子をどう解釈したか、ルーファスは俯いたまま傍らにある小さな箱を開けた。
 ――中に入っていたのは、義眼だった。

「今までのものは馴染ませる為だけの玩具でしたが、これは違います。離れていても私の治癒が届き、ザザの振るう斧には雷のエンチャントがかかる。ザザの体調の変化も全て、私に届きます」
「へぇー、すげーな」

 さすが国宝級!と素直に感心している俺に、ルーファスは困ったような表情を浮かべた。

「ザザを、今まで以上に縛るものです。きっと不自由があるでしょう。それでも良いのでしたら……着けてくれませんか」
「おう、いいぜ」
「……え。簡単過ぎませんか?もっと考えてもいいんですよ」

 驚いたように瞬きするエメラルド色の瞳を覗き込んで、俺はニッと笑って見せた。箱の中から義眼を取り出し、片目を覆っていた眼帯を取り払う。

「お前に体調が知られてなにが困るってんだ?」
「えっ、と……」
「それより治癒が届くのはいいな。それに雷のエンチャントかー。大斧の他に投げる武器も調達しとくかなあ……」
「あの、ザザ……」
「なあこれ、どうやって入れるんだ?押し込むだけでいいのか?レイモンド卿に使い方聞いたほうがいいか?」
「ちょっ、待っ……無理矢理入れたら駄目です!!!」
 
 悲鳴のようなルーファスの声に手を止めて、相手を見遣った。肩で息をして真っ青な顔で俺の手首を掴んでいる。こんな表情でも綺麗な顔ってのはいつまでもキレイでいいもんだな。いや、ほんと俺こいつの顔好きだな。そろそろ見飽きないかって思ってたんだが、飽きねーわ。

「どうしてそう……無駄に割り切り方だけ男前なのか……ああもう」

 顔を覆って深いため息をついたルーファスは、拗ねたような顔をしつつ俺の手から義眼を受け取った。そして治癒の魔法を展開しながら、俺の右目の空洞へと手を近付ける。ぽうっと温かい感じがしただけで、全く違和感も痛みもなかった。気がついたら視界がヤケに明るくて、瞬きすると窓が半開きから全開になったみたいな不思議な感じがした。

 見え方としてはそんなに変わった感じがないんだが、瞬きすると右目がちゃんと動いている。

「鏡を見ますか?」
「おう、頼む」

 向けられた手鏡を覗き込んでみて、黒髪黒目のはずの俺の右目が鮮やかなエメラルド色をしているのが判った。しかも少し青の混じったビリジアン。色の深さでいったら、ルーファスと同じくらいだ。

「これ、はじめから緑だったか?」
「いいえ、着けてはじめて色がでる仕様です。……魔力紋の特有の色が」
「……つまりお前の色な?」
「はい」

 神妙な顔をして頷いたルーファスは、俺の反応を窺っているようだった。まだ不安そうにしているのが不思議でしょうがない。お前、普段はどんなことでも平気そうなのに突然自信がなくなるよなあ。

「じゃ、俺からはこれをやる」
「……?」

 俺が唯一持ってる金目の物。――ばあさんから貰ったエメラルドのピアスだ。これだけは、昔から由来が判らなくても大事にしてたから、冬にどんだけ餓えても売り払わなかった。耳につけていると同業者に耳だけちぎり取られる心配があって、斧の柄の空洞部分に柔らかい布と一緒に詰め込んであった。相棒と俺が切っても切れない間柄だったのはこのせいだ。

 そのピアスの片方を、ルーファスに渡す。俺は、もう片方を左耳に装着した。

「元は一つだったものを分けて身につけると、離れてもひとつになるよう戻って来るんだってよ。……無くすなよ」
「っ……ザザ!」

 ピアスを握り締めたルーファスは涙声で俺の名を呼び、そのまま飛びついてくる。ベッドに押し倒されながら、あーもしかして晩飯食いっぱぐれるかなこれー、と遠い目して思ったんだが。

 ……ルーファスを止めるようなことは俺もしなかったので、同罪だった。

 
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