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騎士団のエースに捕縛された盗賊の頭領ですが尋問も拷問もなく囲われて溺愛されています。

十五話

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 ようやく日が昇りきったくらいの早朝、騎士団の詰め所に着いた。ジョシュアが馬を下りると、すぐに団長に話が行き、俺達は客間らしき場所へ通される。

 人形のように動かないルーファスを抱えている盗賊の俺がいるというのに、この待遇は凄いな。問答無用で捕縛される可能性も考えてたんだが。ジョシュアは顔が知れてるんだな、流石はルーファスの執事。
 俺が先日まで盗賊団の頭領だった事は、おそらく団長含め大半の騎士達が知っているだろう。しかし彼らは俺に敵意を向けるどころか、ルーファスを連れ帰った事に安堵の表情をしているようだった。

 不思議な事に彼らはルーファスの様子を見ても不審がる感じがない。なんだこれは、ルーファスの持病かなんかなのか?

「よくルーファスを連れ帰ってくれた」

 昨夜ルーファスが帰らなかった事を既に知っていたのか、ソファに深く腰掛けた騎士団長はそう声をかけてきた。早朝の訓練もないのに騎士団の詰め所は中も外も人で溢れていて、こいつら昨夜から帰ってないんじゃないかなんて思った。なんだ、ルーファスの不在ってのはそんなに大変な事なのか?

 そんな事を思いながら騎士団長に視線を戻す。
 俺より少し年上に見える、壮年の男だった。この鷲鼻でヘーゼルの髪を短く刈り上げた男の顔は、先日の一騎打ちでは見ていない。まさか副団長といえど独断であんなことはしないだろうが、この男はルーファスが俺を連れ帰った事をどう思っているんだろうか。そこんとこが気になって、なんとなく無言になってしまう。

「早朝にも関わらず、迎え入れて頂いて感謝します。ルーファス様はこの通り、闇魔法に……」
「仕方のない事だジョシュア、気に病むな。光魔法と闇魔法の相性の悪さは、ルーファスでも覆せない」

 へぇ、闇魔法が弱点なのか。っつか、この様子だと互いが弱点ってやつかな。それなら先手必勝か、不意打ちが効果的って事か。

 つい守るように腕の中に抱いたままのルーファスに視線をおとす。どこか見ているようで見ていない、ぼんやりとしたエメラルド色の瞳がゆっくり瞬いた。
 ルーファス、お前いま俺の膝に乗せられてるの判ってるか?しかも公衆の面前な。しかもここ、お前の職場な?後で笑いものにされたくなきゃ、はよ起きろ。

「『隻眼』は随分とルーファスに懐いたようだな」
「……あァ?」

 不思議と揶揄するような声音ではなかったが、内容が内容なのでガラの悪い声を上げてしまった。ギロリと睨み付けると、騎士団長の後ろや扉の辺りに立っていた騎士達がザッと構えをとる。
 なるほど、殺気には敏感らしい。なかなかよく訓練されてるな。

「そのルーファスの状態は、闇魔法とルーファスの魔力が拮抗して起こる現象だ」
「……拮抗?」
「そうだ。意識がない人形のように見えるが、かけられた闇魔法に必死に抗っている」

 ふーん、と礼儀もなにもない相槌を打つ俺にジョシュアが慌てたような顔をしている。あ、すまんこいつ騎士団長だったな。失礼失礼。
 なんて思っている最中、急に騎士団の詰め所の外が騒がしくなった。甲高い女の声が聞こえたような気がして、さらにはヒールを響かせて歩く音が近づいてくる。

「ルーファス様!お迎えに上がりましたわ!」

 騎士団長、その他青風騎士団の面々が、その足音を聞いた瞬間から渋い顔をしていた。そして両開きのドアが一気に開け放たれると、一斉にため息を漏らす。

「何故こんな所にいらっしゃったのですかルーファス様。早く戻りましょう。こんな野蛮で汗臭くて……ちょっと、お前何なの、ルーファス様から離れなさい!」

 こんな所もなにも、騎士団はルーファスの勤め先だが?
 部屋の中の人間がほとんど同時に同じ事を考えていたが、突然飛び込んできた貴族令嬢は驚くほどマイペースだ。

 さりげに騎士団を貶める発言をしつつ、ルーファスを膝に抱えている俺に目を留めると切れ長の青い目をキリリとつり上げた。豪奢な巻き毛の金髪がふわりと揺れる。
 うーん、顔だけ見ればそこそこ美少女なんだがなあ?性格に難ありでどうしようもねぇな?

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