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騎士団のエースに捕縛された盗賊の頭領ですが尋問も拷問もなく囲われて溺愛されています。
十二話
しおりを挟む「野菜市のメイン通りもザザ様が歩かれると次々に値引きの声がかかります。スパイス屋では偏屈で有名な店主が異国のスパイスの話をザザ様にいくつもお話しになり、高価なスパイスのサンプルを多数頂きました」
「ほっほ。ザザ様は若い頃とってもモテたのでしょうねぇ」
「よって、本日の買い出しの予算は半分しか減っておりません。ザザ様のおかげです」
淡々と話すレイと笑顔のばば様は、どうやら俺を褒めてくれているらしい。横のばば様はゆっくりと頷きながら俺に甘い匂いのする紙袋を差し出してきた。
「あとで休憩の時にでもお召し上がりください」
「オイオイ、こないだも貰ったろう。いくら予算が半分で済んだからって無駄遣いは……」
「ほほほ、お駄賃ですよ。ザザ様」
ばば様はにっこり笑って俺の膝の上に紙袋を置いてしまった。すこしぬくもりのあるソレからは、ふんわりと焼き菓子の甘い匂いがする。
「レイはこの菓子屋の娘でねぇ」
「あーやっぱりこないだ貰ったアレか」
「いえ、母の腕には全く敵いません」
無表情、無口なレイが今日は随分と話している。それだけ買い出しが上手くいったということだろう。
まあいいかと笑った俺は、ありがたく菓子をもらうことにした。
ルーファスが帰ってきたらまたいくつか、わけてやろうと思いながら。
しかしその夜、執事のジョシュアが真っ青な顔で部屋の戸を叩いてきた。
やっとルーファスの帰宅か随分おそかったなと思って顔を出すと、ジョシュアは珍しく動揺した表情で俺の肩を掴んでくる。
「落ち着いて、お聞きください、ザザ様」
「お、おう」
「ルーファス様が、……」
「ん?帰ってきたのか?」
「……いえ、お帰りになれません」
「は?」
帰れません。帰れない?どこから?なんでだ?
疑問符だらけの俺にジョシュアは頭を橫に振ってため息をついた。
「表向きは、しばらくの滞在とされていますが、ただいまルーファス様は軟禁されております」
「軟禁って……どこにだ」
「ルーファス様の元婚約者、宰相閣下のご息女マリー様の別荘でございます」
……はあ?婚約者だと?あいつ貴族の女の婚約者がいるのか。
いやいや、じゃあなんで俺に手を出した?結婚する前の火遊びに選んだのが、俺ってことか?
「ザザ様、落ち着いて聞いてください。現在はあくまで自称婚約者でございます。ルーファス様は既に侯爵家で采配を振るご身分。旦那様が生きていれば判りませんが今の決定権は全てルーファス様にあるのですから」
「……あいつの父親、死んだのか」
ハッとしたジョシュアは言葉に詰まりながらも『はい』と小さく返事をした。
ふーん、と相槌を打ちながら俺は部屋の中を見回す。
実は俺の装備は奪われたのではなく、後日ルーファスの手から戻されていた。使い古しの革鎧にデカいだけの大斧だったが、愛着はあったので戻ってきて喜んだのは言うまでもない。ただ使い場所がないので、自室の机の上に置いたままになっている。
「その、貴族の娘の別荘ってのの場所は判ってんのか」
「はい。しかし、どうするおつもりで……?」
落ち着いて見えるジョシュアだが、あまりこういった事態に対処したことがないのか酷く慌てていた。
確かに俺は貴族ではないし、権力もないから軟禁されているルーファスを、外部からの根回しだとかで助け出す事はできない。
だが、俺の手にはこの体力自慢で丈夫な身体と長年の相棒がいる。
「決まってんだろ。盗賊らしく奪いに行くんだよ。俺が、その令嬢からルーファスをな」
ニヤリと笑う俺の顔は、まあ盗賊団の頭領らしい悪どい顔をしてたんだろう。もともと目つきは悪いし数週間前まで現役の盗賊だ。年季が違うんだよ年季が。そんなすぐに平民らしくなるわけないだろうが。
ジョシュアは真っ青だった顔を引き攣らせて、言葉を失っていた。その首根っこを掴んで俵担ぎにすると、愛用の装備をとって俺は外へ向かった。
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