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騎士団のエースに捕縛された盗賊の頭領ですが尋問も拷問もなく囲われて溺愛されています。
七話
しおりを挟むそんなルーファスが頭角を現したのは、王侯貴族や優秀な平民の一部が通う学校に入ってからだった。文武に優れ、人当たりも良く、その血筋は王家にも連なると言われている侯爵家の公子だ。たちまち人気者になり、茶会や社交界では注目の的、引く手数多だったという。
しかしルーファスはどの貴族令嬢の手も取らず、政界からの誘いも突っぱね、王都で有名な青風騎士団に入ってしまった。
騎士団と言えば国を動かすというより、国を守る側の人間だ。王都の政治の中枢に食い込むと思われていたルーファスの突然の転換に、貴族の間では大騒ぎだったらしい。
とはいっても、本人がさっさと手続きを終えて騎士団に入ってしまったのだから、誰も手が出せなかった。
それからまことしやかに流れたのは、ルーファスの騎士団入りの謎、憶測に過ぎないデマだった。
『ユーデリング家は弱みを握られ、騎士団の団長に脅されているらしい』
『ルーファス様の祖父が昔から騎士団に憧れていて、死に際の遺言が「青風騎士団に入れ」だったらしい』
『実は先王の御落胤だという噂もあるぞ。騎士団には保護を求めて入ったらしい』
何にせよ大いに得をしたのは青風騎士団だ。
ルーファス本人の能力ももちろん高いが、侯爵家のコネや財源などは非常に強固だった。防具や武器、備品の発注などに関しても侯爵家御用達の商人にまとまった数を注文すれば同じ値段を払っても一段格の高い物が用意された。
そして街を出歩けば青風騎士団の人気はうなぎ登りだった。王都から距離のある僻地の遠征でも、途中で立ち寄る村々では歓待を受け、食料の補充などでも苦労しない。
また戦闘となればルーファスは魔法と剣術の両方を駆使して最前線で活躍してくれる。そもそも魔法が使える魔法剣士というクラスは、冒険者には多いが騎士には少ない。騎士団のように戦闘を極めるにはどっちつかずの能力で、器用さの求められる冒険者は一人でなんでも出来るようにと魔法剣士を選ぶ。
ルーファスの得意とする魔法は、雷と光だ。
敵に対する時は雷撃と合わせた馬上からの槍攻撃で、場を掌握する。国境での小競り合いでは、小隊とぶつかった際に敵方の前衛が総崩れを起こし、逃げ帰ってしまったとか。
隣国ではルーファスのことを、銀雷の騎士と呼んで恐れているらしい。
また、光魔法では軽い傷の癒しや毒の治療などが出来る。医者もいないような辺境の村に行ったときには、その力を村人達のために使っているという。
――まさに、聖騎士と呼ぶのに相応しい。
それが、王都に住む民だけでなく国中、また隣国に至っても共通の認識だった。盗賊団でも、ルーファスを見る目には畏怖と憧憬が混じっていた。
「……その『聖騎士』がなんてザマだ」
はーっと深いため息をついた俺は、となりで眠る美しい男を見つめて頭を掻いた。ここに連れて来られてから数日、毎夜のように俺を抱いているルーファスだったが、昨夜はシーツを替えたあとこの場所で眠ってしまったらしい。
長い睫毛がふわりと伏せられていて、顔の造形はゾッとするほど美しい。
何故美しさの表現に『身の毛がよだつ』というのが近いような感じ方をしなきゃいけないのか、俺も不可解だった。でもそうとしか言いようがない。
ルーファスの顔はとても整っているが故に、表情がないとひどく冷淡に見える。緑色の瞳は色が濃いせいで、じっと見られれば睨んでいるように見えかねない。もっと若草色みたいな軽い色だったらそうはならないだろうが。
……若草色より俺はこっちのがいいと思うけどな。
ん?昔こんな会話だれかとしたような気がするな?まあそれはさておき。
整い過ぎた顔に、いつものルーファスの笑顔が重なってようやく他人が寄りつけるようになるのだ。きっとこの笑顔を身につけるまでは、苦労したんじゃないだろうか。
銀色の長い髪は、いつもはくくられているが、ベッドの上では解かれている。そのひと房を指で梳きながら、きめ細やかな白磁の肌を見つめた。
「ほんとに、ゲテモノ食いだけなけりゃあ完璧な騎士様だろうになァ」
「……完璧なんて私は要りませんが」
間髪入れずに返ってきた返答に驚いた俺は、無意識に毛布を掴み、ルーファスの顔にぎゅっと押しつけて黙らせてしまった。
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