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騎士団のエースに捕縛された盗賊の頭領ですが尋問も拷問もなく囲われて溺愛されています。
二話
しおりを挟むこの男は、俺を抱こうとしていた。
もう三十路越えてる、可愛げの欠片もない粗野な盗賊の頭領を、組み敷いて犯そうとしているわけだ。なんだ、これが新手の拷問なのか?趣味が悪いったらねぇ。
「これから、私のものを確かめます」
「ハッ、俺を性奴隷にでもするつもりか?美形の小姓でも抱えてるならまだしも、ずいぶん老け専……っん、ぐっ」
不意に、唇が重なってきた。喋るなとでも言うように、強引な仕草で荒っぽく貪られる。逃げる舌を追いかけられ絡め取られて、ちゅっと唾液を吸い上げられた。上顎のあたりを舐められるとゾクゾクするような感覚が背を這い上がる。無意識に身体を捩ると、上から身体を重ねられて服越しに熱が触れ合った。
ぞくり、と背を痺れるような快感が突き抜ける。気付けば俺の息は上がっていて、貪られる口付けに夢中になっていた。
「んっ、ふ、ぁ……あ、ふっ……」
「そういう扱いがご希望ですか」
「……希望もなにも、俺に選択肢なんか……あんのかよ」
執拗だった唇が離れると、底光りする緑色の瞳に射すくめられて喉が干上がったようになる。
これだ。この目だ。魔獣と斬り合ったときにも感じたことのないような恐怖が俺の動きを鈍らせる。気圧されたとでもいうのか?まさか、こんな若い騎士一人に?あり得ない。
ただ、今まで見た事も無いような光がそこにはあった。まるで捕食される側になったような、本能的な恐怖が生まれる。
「可能な範囲なら、聞きますよ」
「……じゃあ、手ぇ離せ」
「それはできません」
「意味ねぇじゃねーか」
諦めたようにため息をついた俺に、男はそのお綺麗な顔を綻ばせて、笑った。
‡
『手合わせに勝ったら貴方を貰い受ける!』
そう宣言したのは、群青のマントを羽織った若い騎士だった。
青みがかった銀髪にエメラルド色の瞳、整った顔立ちは貴族そのもので……いや、まるで物語の中に出てくる聖騎士のようだと誰もが思った。盗賊団にはごろつきが多いが、行く当てもなく集まった女や子供もいる。そういう奴らが、小さなテントの寄り集まる集落のあちこちから、こちらを覗いていた。
どっちみち、この隠れ里が騎士団に見つかってしまったのなら、仕舞いだ。皆殺しにされる前に、騎士が一騎打ちを申し込んできたのは不幸中の幸いか。
しかも指名されたのは頭領である俺だった。
当然の人選だしこれなら被害は最小限に抑えられる。そうは思ったが、納得できない仲間達が酷く騒いだ。俺だけ見せしめにつれて行かれるのだと思い、抗議の声を上げたのだ。
だが本来は全員が捕縛されて然るべきところ、俺一人で良いってんだから否やはないだろう。俺は皆を静かにさせ、愛用の斧を手に取った。
騎士の後ろには、ずらりと並んだ騎士団の姿があった。下手に騒ぎ立てれば一斉に襲いかかってくるかも知れない。これが一騎打ちで受け流せるならやるしかない。しかも俺にはまだ、勝てば生きる道が残されていた。それが貴族特有の遊びで、はなから負ける事が結論付けられているのだとしても。
『貴族の騎士サマがどこまでやれるか、見せて貰おうじゃねぇか』
俺の右目の眼帯は、若い頃に負った傷が原因で失明したものだ。しかし大型の斧を遠心力でぶん回し死角を作らない戦法で、敵を力業で押し退けてきた。魔獣の群れも、同業者の襲撃も、全てこれで打ち払ったのだ。
だから、騎士団と戦うのであればやはり使うのは斧だ。隻眼と斧はこのあたりで『盗賊の頭領』を示す言葉になっている。当然対策はしてきているだろう。得物が絞られるだけで戦略の幅はかなり狭まる。しかし、ここで受けて立つのが男ってもんだ。
唇の端をつり上げて笑う俺に、騎士団の男は目を細めて静かに剣を構えた。
――その、結果。俺は負けた。
それでも結構いいセンはいっていたと思う。欲目じゃねぇ。事実、なかなか勝敗は決まらなかった。全力で斧ぶん回して小一時間、汗だくになりながら戦った。相手も途中でマントを放り捨てていたから、色々と限界が近かったんだろう。
最後の一撃は、俺の片目に汗が入って反射的に目を瞑った一瞬で決まった。斧の柄を弾かれ、重い鋼鉄の塊が地面に突き刺さる。見ていた騎士団からどよめきが上がったのが聞こえた。俺の背後からは、悲鳴のように息を飲む音が続く。
男の剣は俺の喉笛にぴたりと当てられ、ぶれることなく頸動脈を狙っていた。俺は息を止めたまま、『負けだ』と片手を上げて相手を見た。得物を失い、素手でこの男に立ち向かって勝ち目があるとは思えない。
一瞬の間を置いて、俺の背後から上がったのは盗賊団の仲間達からの野次だった。いかさまだ、騎士団の風上にも置けない卑怯者、頭領が負けるわけない、と叫ぶ声が大きくなる。
すると今度は騎士団からもやり返すかのように野次が上がる。正当な勝ちだ、負けを認めろ、という声が響き場は騒然とした。
『てめぇら黙りやがれ!!』
俺が腹の底から声を出して、後ろの奴らを黙らせた。おそらく、近くにいた者は鼓膜が震えるほどの怒号だったろうと思う。背後を振り返り、青ざめた表情の面々を見回して『負けは負けだ。ここまでだな。解散だ』と続ける。
悲鳴に近い声を上げてガキや女達が崩れ落ちていた。そりゃそうか、こいつらは行くあてがなくて盗賊団の中にいたんだ。解散となれば、路頭に迷うことになる。
『――そちらの者達には、王都で紹介できる職を用意している』
よく通る声で、剣を下ろした騎士が言った。
『もちろん、逃げたければついて来なくても構わない。与えられる仕事は簡単ではないだろう。ただ、路頭に迷うことなく手に職がつくまで、食事と住み処を与えられ難民と同様に保護されることになる』
先程放ったマントを拾い上げて、男は自らの紋章をこちらに見せてきた。
『ユーデリング侯爵、ルーファス・フォレッド・ユーデリングの名において誓おう。貴殿らは王都リンデアの青風騎士団が預かる』
ルーファスは、そう言ってから申し訳程度に俺に縄をかけ、後の者は馬車に乗せて王都へ帰還した。盗賊団の隠れ里のあった場所は、王都へ向かう荷を狙うことが多いので、王都まではそう遠くない。半日ほどかけて移動し、王都のバカでかい城門を通った。
『貴方はこちらだ、ザザ』
『……俺の名前を知ってるのか』
隻眼の盗賊、大斧使い、色んなあだ名があるが俺は『ザザ』という名を盗賊団の外に漏らしたことがなかった。身内もみな俺のことは『頭領』と呼ぶので、表で呼ばれる事もほとんどない。
訝しげに見る俺に、ルーファスは笑うだけで応えなかった。
俺はひとりで拷問部屋にでも連れて行かれるのか?仲間達と離され周囲を窺い警戒しながら向かった先は、……広大な敷地を持つ貴族の屋敷だった。
馬車から降ろされて無言の俺を連れ、ルーファスは屋敷の中に入っていった。そうして辿り着いたのが――ルーファス曰く、俺の部屋だ。
ベッドに押し倒され服を剥かれた俺は、ルーファスの手管に鳴かされるだけの奴隷に成り下がった。
性奴隷扱いなんて刑の内では生ぬるい、なんて思ったのは最初のうちだけだった。
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