42 / 62
第十一話-3
しおりを挟む「そもそもこの青い楔は何の結界を補助しているのか。……と考えた時、エルヴェ。魔術師の観点からいうと結界に結界をぶつけた場合、どんな現象が起こるか教えてくれないか」
「それは……同規模でしたら拮抗後にはじけ飛んだりしますが……。まさか王家の結界石がこの程度では揺らがないかと」
「ふーん。……結界といえど年月によって劣化はするよな。少しずつ負荷をかけて、負荷を増やしていったらヒビが入ったりしないか」
「なんと…あり得ない……と、思いたいですが」
「なんでだよ。そもそも『綻び』から魔物が出てきてるのは随分前からだろう。ヒビの入ったガラスは脆く、軽い負荷でも割れやすくなるだろうが」
うぐ、とマグナスが向こうで低く唸っていた。「綻び」から魔物が生じるという話を俺にしたのはマグナスだ。
ほころびとは、『結界の綻び』のことなんだろう。
きっと昔から境界の全ては結界石で防げず、隙間から魔物が漏れ出ていたのだ。だからこの地域は魔物が多い。その綻びのある所に何十年とかけて結界をぶつけ負荷をかけていったら……いずれ破壊されるのではないだろうか。
ここで結界石がはじけ飛んだら?起きるのは人為的な魔獣大発生だ。
それに思い至ったのか、マグナスの顔色がだいぶ悪くなっている。
オーギュストも王家の人間として、この結界石の重要性をよく理解しているんだろう。緊張した面持ちで結界石を見つめていた。
「――で、この楔を全部引っこ抜こうと思うんだが」
「は?」
間抜けな声を上げたのはエルヴェだ。
先程結界に触れるなと言われたばかりだが、これは譲れないんだ。決して無策でこんなことを言ってるわけじゃない。
「全て引き抜いてから結界石の再構築をする。……俺の作った賢者の石で」
「賢者の石ィ!?」
マグナスの叫びを半分聞き流し、鞄からこぶし大の茶褐色の石を取り出す。
錬金術師が最期には至りたいと望む境地、その先にあるのが『賢者の石』だ。この錬金素材を使えば新しい生命体を作れるだとか、死者をも蘇らせるだとか、とにかく人の願望を詰め込んだ万能の素材だった。
石の中に込められている魔力も普通ではなく、攻撃の手段として使えば国一つ滅ぼせる力があるとも言われている。
「そんなことが可能なのか?」
オーギュストが心配そうな表情で俺の手元を見つめている。青い楔を引き抜くと言ったから余計に心配させたのかもしれないな。でも抜くのは俺じゃないんだ安心してくれ。
「強くなるのに魔術や剣術だけでいいと思ったら、錬金術まで極めさせられたのはこれの為か、って今腑に落ちてるところだよ。無駄に妹に鍛えられたせいで賢者の石はごろごろあるし、楔はフレデリックに任せておけば大丈夫だ」
晴れやかに笑う俺の顔をマジマジと見て、オーギュストは困ったようにエルヴェを見た。
エルヴェもまたオーギュストを見つめ、トントンとこめかみを叩いて悩んでいる。
マグナスに至っては許容範囲を超えたのか低く唸って思考停止をしていた。――動いたのは、フレデリックだけだ。
「何本あるんだコレ。流石に人使いが荒いだろウォルフ」
「お前にしかできないんだから、宜しく頼んだ」
俺が賢者の石でジャグリングをしながら笑うと、フレデリックは苦笑しながら結界石の方へ近づいて行った。その手にゆらりと黒い靄が現われ、その闇を纏った手で青いクリスタル型の楔をガシリと掴んだ。
シュウウ、と反発するような音が響いたがフレデリックはそれを勢いよく引き抜いた。
そこから無表情で農作業のように、ポイポイ青い楔を引き抜いていく。
年長組と騎士団長が口を半開きにしてそれを見守っていた。
俺は『あれは黒魔術の適正で……』と横から説明しようと試みたが誰も聞いていない。聞けよおい。
――そうして地面に青い楔の小山が出来るまでに、そう時間はかからなかった。
61
お気に入りに追加
705
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。


兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる