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閑話―オーギュスト・2

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 ウォルフハルドの犬になって、私の見る景色は一変した。

 灰色にくすんで見えていた世界がウォルフハルドを中心に色づき、果てしなく広がっていくように思えたのだ。

 ……だから私は、ウォルフハルドがいないともう何も見えない。






 学院の遠征授業で、4日という日程を組まれたのには心底困った。ほぼ毎日サロンでウォルフハルドと会っていたので、その時間がなくなることがとても寂しかった。

 ……ウォルフハルドが現れるまでどうやって息をしていたのか、生きていたのかも判らなくなった。
 まさかこれほど依存していたとは。

 私はその事実に愕然とした。ウォルフハルドと離れた生活は、ほんの一日しか保たなかった。眠れずテントを抜け出して、ウォルフハルドにひと目会いたいと思ってしまった。
 
 生徒達のテントが並ぶ一角を、夜中フラフラと夢遊病のように歩いた。ウォルフハルドと話せなくてもいい、せめて顔が見たかった。朝夕に生徒達は集合の号令がかけられるが、そもそも学年が違うので近くにはいけない。

 魔力の気配を追っていけばウォルフハルドは容易く見つかった。あのテントか、とあたりをつけて近寄っていくと、中で不自然にゴソゴソと動く気配がした。

「──ッ、…フ…リック、止めッ、……」

 押し殺した、切羽詰まったような声が聞こえた。相手も何かボソボソと話しているが、私にはウォルフハルドの声しか明確に聞こえない。

「……り、……も、むり……──ァ、!……」

 ビクンと私は身体を震わせて動きを止めた。
 ウォルフハルドの声には明らかに艶が混じっていた。いつも私を支配し命令を下すあの強い声が、嗚咽と色気の混じった情事の声になっている。

 カッと身体の奥に熱が生まれ、その場に立ち止まって耳を澄ませた。

「っ……ぁ、んん、……や、……ァ……!」

 ドクン、ドクン、と心臓の音が耳元で大きく聞こえる。そのうちテントが揺れて、向こう側から人影が飛び出した。
 
 タッ、と見失いそうな速度で走って行ったのはウォルフハルドだ。
 乱れた服に、ふらつく足元、僅かに汗で湿った髪が首筋に張り付いていた。そんな格好で何処へ行くのか。

 私は弾かれたように走り出し、その後を追った。

 ウォルフハルドが入って行ったのはマグナスの天幕だった。
 そこで話し声が聞こえ、影から覗き込むと彼はマグナスの膝の上に座っているようだった。そして今度は天幕の隙間からとはいえ、私は直接ウォルフハルドの情事を見た。

 並んでいると同室のフレデリックの方が体格が良いが、ウォルフハルドは決して細くはない。鍛え上げられた無駄のない筋肉が、しなやかな身体を覆っている。

 マグナスはその身体を抱き締め、愛撫していたかと思えばいつの間にか彼の股間に顔を埋めていた。
 掠れた嬌声を上げるウォルフハルドが頭を打ち振り、黒髪がぱさりと揺れる。その光景に、目が釘付けになった。

 白い肌の上にぽつりと乗った乳首が酷く腫れていて、赤く染まっている。天幕の影で覗き見など、してはいけないことだと判ってはいたが、凍り付いたように足が動かなかった。

 ウォルフハルドはそのうちとろんとした目をして、安心したようにマグナスの腕で眠ってしまった。そしてマグナスはその後も行為を続け、ウォルフハルドの身体を己の精液まみれにしていた。

 ……酷い、行いだと、思う。
 意識のない相手に何てことをと、思うそばから別の感情がわき上がってきていた。

 汚されたウォルフハルドは、なんて扇情的で可愛らしく、欲を搔き立てるのだろう。いつも曇りのない目をして、凜とした佇まいを崩さない彼が、男の欲に汚されて白濁まみれにされていた。
 尻の形が歪むほど強く掴まれて、その狭間に何度も吐精されている。
 背中も尻も、腹も、胸元も顔も、首筋も黒い髪まで、白濁に汚されていた。
 
 不意にマグナスが満足気に笑って顔を上げる。ふと、目が合った気がして私はその場から逃げ出した。










「エルヴェ……エルヴェ!」
「どうしました殿下」

 テントへ帰るとエルヴェが寝床を二人分整え直していた。私がテントを抜け出したので整えておいてくれたのだろう。

 いつも気の利く彼に礼を言って、居住まいを正し、私は寝床の敷き布の上に腰を下ろした。


「エルヴェ。私を去勢してくれ」
「……。……はい?」
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