転生者の妹がやけにガチムチを勧めてくると思ったらここは俺が総攻主人公のBLゲームらしい。

閑話―マグナス・1

　副団長に昇進した時、ある少年の監視を命じられた。

　俺を呼び出した宰相がいうには、その少年はこの国の存続に関わる重要な人物だという。
　名を、ウォルフハルド。ジラール家の公子だ。

　始めに話を聞いた時は、世迷い言をと思った。
　監視対象はまだ１０代前半の子供で、そんな大層なものを背負っているようには思えなかった。
　まあ仕事だというなら仕方ないとジラール領へと向かった俺は、冒険者に囲まれた例の少年を見て一瞬言葉を失った。

　周囲の冒険者がふた回りはデカく見える程、身体の小さな少年だった。

　ただ、手足は長く剣を持つ重心はしっかりしている。
　ブーツの大きさを見るに、足が大きいのでもう少ししたら身長も伸びるのかもしれない。まだ12歳だというので、体格もこんなものだろう。
　王都からの監視だとバレないように俺は冒険者の格好で討伐隊に紛れた。

　既に王都でも噂になっているこのジラール領の討伐隊は、南のリステオ火山に現われた火竜の群れを追い払ったことで有名だった。
　今年は作物が豊作で、山の実りも良かったという。小動物が増え、それを狩る中型の魔獣が増え、さらにソレを狙った大型魔獣が森に現われるようになった。
　人里近くに大型魔獣が現われることは滅多にない。
　リステオ火山周辺の森に大型魔獣が闊歩するようになった後、程なくしてそれを捕食する火竜が出現するようになった。
　魔獣が何百頭いようと結界石や騎士団の派遣があれば、領民の生活は守られる。しかし竜となれば話は別だ。領地全体が火の海になっても可笑しくない状況だった。

　それを一掃したのがジラール領の冒険者ギルドで結成された討伐隊だ。

　高ランクの冒険者が集められていたのかといえば、記録を見るに最高ランクでもA、ほとんどがB級冒険者だった。火竜一匹に対しS級が一人はいないと討伐は難しいといわれている。
　……だというのに、殺した火竜の数は３体、その他の火竜の群れはもっと南の山脈へ逃げていったという。
　その恐ろしいほどの功績の中心にいたのがウォルフハルドだ。

　ジラール家の公子は剣の腕も魔法も、人並み外れているという。
　その噂の腕前はどうか……と他の冒険者に紛れて観察するのが俺の役目だった。宰相に報告を上げるので細かく見ておく必要がある。


　――と、まあ最初はそんな出会いだったが。

　俺がウォルフハルドの強さにも彼の性格にも、すっかり魅了されるまでそう時間はかからなかった。


　あの時見たウォルフハルドの戦い方は、予想に反して他を置き去りにするような独りよがりなものではなかった。
　冒険者達には錬金術で作った爆薬を渡し、毒付与、麻痺付与などの薬剤を用いて罠を大量に仕掛けさせていた。囮となって最前線で戦うのがウォルフハルドで、罠に誘い込み動けなくさせてから全員で袋だたきにする。

　討伐対象側にしてみれば悪夢のような戦闘だった。

　彼は軍師であり斥候であり、最終的に切り込み隊長だった。
　貴族の坊ちゃんが、己を囮にするため走り出した時の驚きといったらない。
　まわりの冒険者達は苦笑しながら、『あいつ言い出したら聞かないから』と言っていた。力量的にウォルフハルドしか出来ない役割で、そして最も重要で、一番危険な仕事だ。
　それは判るが、どう考えてもあり得ない話だった。