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閑話ーエルヴェ・2
しおりを挟むウォルフハルドを観察するのに一番必要だったのが、アデライードの協力だった。
記録用魔道具を送り、日々成長していくウォルフハルドの姿をこっそり収めてもらった。
アデライードに鍛えられたウォルフハルドの強さは人智を越えていたので、これは使えると思い冒険者ギルドに依頼をかけた。大型魔獣の討伐に彼を連れて行かせて、名声を高めるためだ。
名声が高まると、王国は彼を無視できなくなる。
囲い込んでこの国から逃さないようにと策を巡らすようになるだろう。私の狙いはそれだった。
ちょっと冒険者に記録魔道具を持たせてウォルフハルドの勇姿を収めさせたりはしたけれど。
私を側近に指名したオーギュスト殿下の性癖を知るやいなや、よしウォルフハルドを獲得しようと売り込んだりもしたけれど。
結果、オーギュスト殿下がウォルフハルドに惚れたのは私の操ったことではないし、後押しをしただけで本人の意志だ。
向こうからオーギュスト殿下の元に転がり込んでくるとは、夢にも思わなかったが。
ちなみに私はウォルフハルドを愛でられれば彼が誰と恋仲になろうと、誰を犬にしようと構わない。私はただ、ウォルフハルドを愛でて甘やかしてあわよくば膝にのせて可愛がりたいだけだ。
手から食事も食べさせたいな。
『従順で、俺のことだけを考えて、俺がいなければ息も出来ないような、可愛い犬なんだ』
幼馴染のフレデリックの事を語る時、彼はなんて蕩けるような顔をするのだろうと思った。黒い瞳がどこか遠くを見て、恐らく幼馴染の痴態を思い出しているのだろうが、その身体から匂い立つような色気が漏れていた。
少し開いた口に指の背を押しつけて、カリッと噛んでいる仕草まで色っぽい。爪を噛むのも可愛い。こんな艶やかな姿を見せてもらえるとは、本当に眼福だ。フレデリックが拒みさえしなければ、共にじゃれているところを魔道具で記録したいし、肉眼でも見たい。
あの日、オーギュスト殿下の自室で、ウォルフハルドを風呂に入れてたくさん撫で回すという第一段階は、突破した。
それからオーギュスト殿下のサロンでは毎日彼の身繕いをすることが出来た。
さらに、さらには……
「エルヴェが剥いてくれるなら食べる」
小ぶりなその口で私の切った果物を手から食べてくれるとは!
幸せすぎて夢ではないかと思いながらせっせと果物を剥いた。
この果物は雪花桃といって、雪深い山奥の果樹園で採れる珍しい品だ。王宮におろされているもので、市場にはほとんど出回らない。オーギュスト殿下がウォルフハルドに食べさせたいと言ったので冷やしておいたのだ。
それをウォルフハルドは口移しなんて可愛らしい事をするから……堪えられなくなった殿下から逆襲を受けている。
「ん、ぅ、……ふ、ぁっ……」
ウォルフハルドのつるつるの白い肌は16歳になっても健在だった。
少しくらい日焼けしてもおかしくないはずだが、雪のように白い。アデライードは化粧品開発にも力を入れていると聞いたので、ウォルフハルドも実験台になっているに違いない。
彼の白い肌は少し血が上るだけで艶やかな色に染まった。本当は身体もなのだが、今はきっちり制服を着込んでいるため見えないのがもどかしい。
ぷは、とキスから解放されたウォルフハルドがソファに伸びて、チラとこちらに視線を投げてくる。
ああ可愛らしい。世の猫好きはみな、猫の下僕だ。彼らが愛おしくてかわいくて仕方ない、愛の奴隷だった。
次の要求はなんだろう。いくらでも望みを聞きましょう、叶えましょう。ウォルフハルド、貴方の手足となって働き、下僕となるのが私の幸せですから。
「エルヴェ。……オーギュストをハウスにしまい込め」
「御意にごさいます」
私の応えを聞いて機嫌よくソファに寝そべったウォルフハルドは、つり気味の目をすっと細めて笑った。そんなところは獰猛な黒豹のようにも見える。
猫科の魔獣万歳。危険な猫チャンがソファで悠々と腹を見せているなんて堪らない。成長したウォルフハルドは子猫の頃とはまた違った魅力で私を釘付けにする。
私はいそいそとオーギュスト殿下をこちらからも見える所に閉じ込めた後、ソファに戻って果物を切る作業を再開した。
ぱくりと開いたウォルフハルドの口にせっせと果肉を咥えさせていると、不意に私の指にカリッと白い歯が突き立てられた。軽く歯型がつく程度の戯れに、ゾクンと背が震えた。
びりびりと背に走ったのは紛れもなく快感で、私は噛まれた指に視線を落して動きを止めていた。
「……エルヴェ?痛かったか」
「いいえ。くすぐったくて驚きました」
「ふーん」
「ウォルフハルド様。よろしければ私の膝枕など如何ですか」
「ひざまくら……」
ふと、ウォルフハルドはオーギュスト殿下に視線を向けた。こちらを羨ましそうに見る視線に気付いたのだ。そしてニヤリと唇の端をつり上げると、ソファの上をポンと叩く。
「エルヴェ、膝枕だ」
ああ、ついに念願の。
私は『何を考えているか判らない』と言われる自分の顔に感謝した。感情が出すぎないこの顔で良かったと本当に思う。
そうでなければ私は、ウォルフハルドを膝に乗せた途端にその嬉しさに破顔して、とても見られた顔ではなかっただろうから。
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