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第七話-1
しおりを挟む入学式も無事に終わり、学院での授業が始まった。
王侯貴族が集まるこの学院では、あまり厳しいノルマのある授業は存在しない。試験も形式的にはあるが、順位をつける類いのものではなかった。
しかし今期、例外中の例外と言える授業があった。
騎士団長、マグナスによる剣術授業だ。
基礎体力をつけるための走り込み、型の習得のための素振り、教師枠で来た騎士団員相手に100本打ち込むという過酷な稽古が課せられた。
当然、身体を動かすと言えば社交ダンスくらいという王都の貴族令息達は恐れ戦いた。こんな授業やってられるかと逃げ出す者もいた。しかしこの剣術の授業は学院での必須科目だ。毎年、木剣を型通りに打ち合うだけの簡単な授業で人気が高かった。
登録さえしていれば単位が貰える授業だと言われ、毎回ほとんどの生徒が履修科目に設定している。……しかし、新任のマグナス団長が授業のカリキュラムを大幅に変えてしまった。
他の教師に訴える者や、領地に住む親に泣きつく生徒など、いろいろいたがマグナス団長は全く気にせず授業を進めていた。
そのうち出席する生徒が減りすぎたので、三学年合同授業となってしまった。
マグナス団長の新兵訓練のようなしごきに耐えて残ったのは、一学年では10名、二学年では15名、三学年では3名だった。
これは三学年に根性がないのではなく、既に手を回して卒業が確定しているため不要として切り捨てた者が多かったからだ。そもそも卒業をさせないなどという前例もなかった。
まあ、その程度の判断しか出来ないやつは残らなくてもいいだろう。
俺はマグナス団長の意図はこのしごきとは別のところにあるのを知っていたので、様子を窺っていた。
もちろん課せられた訓練、100本打ち込みも真面目にやった。俺の相手が出来るのはマグナス団長だけで、打ち込むたび団長の足元の土が酷くえぐれる。
しかし吹っ飛ぶようなことはなく、流石は騎士団長だと感心してしまった。俺の一撃はオークロードも吹っ飛ばすんだが。
マグナス団長は徹底して俺の相手をし、他の騎士団員に回すことはしなかった。
『28名も残ったのか、素晴らしい!!』
授業が始まってから二ヶ月後、残った生徒達を集めたマグナス団長は笑顔でそう言い全員を褒め称えた。
『お前達は騎士団長の俺から見ても、将来有望な剣士ばかりだ。胸を張れ!これから国に戦争が起きても、魔獣の大発生が起きても、どんな苦境に立たされようとも必ず生き残れるよう、訓練する。俺はお前達の命を預かる!信じてついてくるように!』
マグナス団長の言葉に感動した生徒達がパアッと表情を明るくしていたが、俺はしれっと無表情を貫いた。
一学年の残り組にはフレデリックもいる。二学年には勿論、オーギュストとエルヴェの姿も見えた。これが『イベント』であるとはいえ、展開を知っていてなぞるのはなかなか退屈なものだ。
これで単調な基礎授業は終わり、次回から実地訓練に入ると説明されてから、その日は解散した。
オーギュストを飼い犬にした翌日、俺は入学式などの準備の前に転移魔法を使ってアデライードに会いに行った。
学院とジラール領はかなり距離があるので消費魔力も膨大だったが、倒れるほどでもない。あまり使いたくはなかったが非常事態だ。
そこで俺はアデラに『BLゲームの展開』というのを教えられるだけ話させて、頭に叩き込んだ。
紙に残しては大事になる可能性がある。全て記憶するだけに留めて、俺は攻略対象についても詳しく聞いておいた。
今回触れたオーギュストの性癖だとか背景は、俺の予想を遥かに超えていた。この感じで良く知らない後の二人にも驚かされるとなると、身が持たない。身内のフレデリックの変化にも戸惑っているというのに。
だから詳しく教えてくれと言うと、アデラは嬉々として色んなことを話してくれた。
……時には口に出すのもはばかられるようなプレイの内容についてなどもあったが、それも一応記憶しておいた。回避するためにはこういった事も知っておく必要がある。
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