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第四話-1
しおりを挟む噛み付く、なんて言い方が生ぬるいほどの勢いで、俺はフレデリックの口の中を蹂躙していた。
捕食するという表現が一番近いのかもしれない。
驚いたように逃げるフレデリックの舌を追いかけて絡め取り、舐めて、吸って、甘噛みする。
力加減を誤って僅かに血の味がしても止められず、むしろその鉄錆の匂いにさえ興奮した。
混乱して跳ねる身体を無理矢理押さえつけ、とろりとした唾液を何度も吸い上げて嚥下する。逆にフレデリックにも飲ませ、ごくりと動く喉の動きが堪らなくてそれを何度もくり返した。
恐らく、貴族らしい口付けの作法なんて完全に無視していただろう。拙く貪るだけの、勢いばかりのキスだ。
そのうちぬるく触れるお互いの吐息は荒くなり、無意識にゴリゴリと身体の狭間で熱をこね回していた。股間で兆したモノ同士が服越しに触れ合う。フレデリックも感じているのが判り、その感覚が心地良くてもっと深く腰を押しつけた。
いつの間にかフレデリックの身体から力が抜け、彼はくったりとシーツに身体を預けていた。青い瞳が恍惚の色を宿して俺を見上げている。
押さえつけていた腕を離して俺は身体を起こした。そしてフレデリックの腰辺りに座り、その姿勢で勢い良く上着を脱ぎ捨てる。バサリと床にそれを放り、リボンタイを外してシャツを緩めた。身体の芯が燃えるように熱くて、首筋から汗が伝う。
はぁ、はぁ、と熱の籠もった息をする俺を、フレデリックがとろんとした目で見上げている。赤面した頬は涙で濡れ、散々貪った唇も俺の噛み痕で赤くぷっくり腫れている。唾液で艶々と光る唇が美味そうで、俺はフレデリックの顎を掴むと親指をぐっと唇に食い込ませた。
「ん、……ふ、……ぁふ……」
「フレデリック。抵抗は止めたのか」
「抵抗、しないよ。さっきは、驚いただけだ。ウォルフがしたいなら……好きにしてくれて構わない」
ちゅぷ、と音を立ててフレデリックが俺の指をしゃぶった。その従順な態度に俺の支配欲が満たされていく感じがする。
荒れ狂う衝動が少しだけ収まると、途端に湧き上がってきたのが罪悪感だ。
俺は泣きそうになりながら、フレデリックの瞳を覗き込んだ。
「ダメだ」
「ウォルフ?」
「だから逃げたのに、どうして追ってきたんだ。簡単に受け入れるなよ、俺は……お前をめちゃくちゃにするかも知れないんだぞ」
いつの間にか俺も泣いていた。視界が歪んで涙が溢れて、乱暴に手で拭ったらフレデリックに手首を掴まれた。
そうっと腰に手を回されて、腹筋だけで起き上がったフレデリックが俺の目尻に口づけた。ちゅ、と涙の雫を吸い取られて、舌がチロチロと俺の涙を拭っていく。仕上げに犬みたいな仕草でぺろりと頬を舐められた。
今にも『わん』と言いそうな、飼い主を伺う視線でフレデリックは俺を見つめていた。
「俺はそれでもいい。いや、そうされたい」
「……フレデリック!」
「むしろ、ウォルフが本気でそんな欲を俺に持ってくれてるんなら、嬉しくてもう死んでも良いかも」
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