上 下
9 / 62

第三話-3

しおりを挟む


 宝石みたいな青色の瞳から透明な涙があふれて、落ちる。

 ああ、もう。仕方ないな。俺がお前の泣き顔に弱いのを知ってるだろうに。
 お前はそんなに俺のことが好きなのか。他人行儀なよそゆきの笑顔を向けられるだけで泣いて縋ってしまうくらい、どうしようもなく俺に惚れてるのか。

 かわいそうでかわいい、俺の幼馴染。

「フレデリック」
「……うん」

 屈んでくれ、と指示するとフレデリックはそのまま床に膝をついた。俺の方が頭一つ分より高くなって、涙で濡れた彼の頬を両手に包み込む。

 かがみ込んだ姿勢でコツンと額を触れ合わせると、フレデリックはまつ毛に涙を溜めてぱちぱちと瞬きした。ぽろっと雫になって落ちた涙が俺の指先に落ちる。

 途端、湧き上がってきたのはゾッとするほど強い衝動だった。

 フレデリックをもっと泣かせて精神まで蹂躙してぐしゃぐしゃにしたい。俺の膝に擦り寄って赦しを乞うようにさせたい。俺のどんな無体な要求にも否と言わず全てを受け入れて包み込んで欲しい。俺だけ見て、俺にだけ従って、俺なしでは呼吸さえ出来ないようにしてやりたい。そのためにはどんな調教をしたらいいのか。魔道具で首輪を作るのもいい。犬のように這わせた姿勢から俺を見上げるフレデリックはさぞ可愛らしいだろう──

「……ッ」
「ウォルフ?」

 頭をガンと殴られたような衝撃があった。まさか俺の中にこんな欲求が、存在するなんて。

 フレデリックは親友で、大切な幼馴染で、かけがえのない存在だ。それを己の欲望のために蹂躙しようだなんて、思うはずがない。……そう思っていたはずなのに、これはなんだ?

 フレデリックの頬に触れていた手が震えた。
 真っ青になって身体を引く俺を見上げ、フレデリックが困惑したように手を伸ばしてくる。俺はその手に捕まらないよう部屋の奥へ逃げて、頭を抱えた。
 嘘だ、嘘だ、と震える吐息で何度も呟いてその場にうずくまる。

「ウォルフ!具合が悪いのか?」

 慌てたように近寄ってきたフレデリックは、ぎゅっと俺の身体を抱きしめてくる。しっかりとした厚みのある身体に包まれてホッとする気持ちと、また別の欲求がむくりと頭をもたげた。

「アデラの……」
「アデラ?アデラがどうかしたのか」
「『予言』なんだ。……ごめん、フレデリック」

 いつ間にか俺の頭の中は熱いマグマを満たしたように沸騰していた。思考も上手くまとまらない。

 衝動的にウォルフの腰を掴み、ポイとベッドの上に放り投げた。俺の筋力ならこれくらいは造作もない。怪我をさせるといけないからなかなか人間相手に表に出す事が出来ないが。

「ウォルフ?」

 不思議そうに問いかけてくるフレデリックを見下ろしながら、俺は無意識に唇を舐める。そして湧き上がる欲のまま、彼の唇を噛み付くようなキスで塞いだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 説明は初めの方に詰め込んでます。 えろは作者の気分…多分おいおい入ってきます。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫だと……思います(?) ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます! 5/25 お久しぶりです。 書ける環境になりそうなので少しずつ更新していきます。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️ 第12回BL小説大賞に参加中! よろしくお願いします🙇‍♀️

処理中です...