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第一話-3

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「お兄様の錬金術スキルで作った薬も化粧品も、肥料も魔道具も素晴らしい富を領地にもたらしてくれました」
「それは何よりだ。血反吐はきながら修行したかいがあったな」
「ええ。ええ。お兄様の頑張りで無事に全ての戦闘スキルと生産スキルがカンストしましたわね。──ですから次は、房中術ぼうちゅうじゅつですわ」
「は?」
「房・中・術です。閨事ねやごとのほうがわかりやすいかしら」

 断じてウブで意味がわからなかったわけじゃない。
 房中術も閨事もわかる。これでも爵位を持つ家の長男だ、然るべき時に妻を娶ってつつがなく子供を設けなくてはならない。
 男女の交わりを閨事、その作法や性技を房中術というのはわかっているが……ん?房中術を学べと言うことか?

「基本的な作法ならすでに知っている」
「私の言う房中術は基本的なものではありません」
「ではどんな」

 俺に閨事で諜報活動でもしろということだろうか?と首を傾げていたところで、アデラはにっこりと微笑み俺の耳元で種明かしをした。


 ──曰く、この世界は俺が総攻め主人公のボーイズラブゲームだという。

 総攻めというのは、さまざまな相手に対し性交で男役をするという意味らしい。
 そしてボーイズラブというのは、男同士の恋愛を指す。つまり俺は、男を抱く側の人間として定められた者……というのが妹の話だった。

「わたくしは転生したその瞬間から、お兄様が主人公だと知っておりました。ですので、まずはチートレベルのスパダリに育てなくてはと、懸命に能力アップの手助けをしたのです」
「すぱだり……」
「どんな屈強なガチムチでも押し倒せるようにですわ。魔術レベルも高いですから拘束系、麻痺系、状態異常魔法もお手のもの。さらには錬金術スキルによって媚薬の精製、性具の開発なども可能になります」
「がちむち……」
「手始めに王太子殿下などいかがですか。確かひと学年上ではありますがまだ10代、お身体もみずみずしくむっちりとした素敵な筋肉と伺っております!」

 手始めに、で何故殿下を持ってくるのかわけがわからない。
 とりあえず不敬だぞと嗜めておくべきだろうか。

「攻略対象はもう3名おられます。オーギュスト殿下の他には、公爵家のエルヴェ・ヴァンドーム様。そして騎士団長のマグナス様など素敵なガチムチが揃っておりましてよ」

 うっとりと空を見つめて早口で喋りまくるアデラを、俺は呆れて見つめているしか出来なかった。
 ガチムチってなんだ。そもそも素敵な筋肉とは?俺自身あまり筋肉が付くタイプの身体ではないから、よくわからない。
 そもそも筋肉を見て欲情するのが正しいとアデラは思っているのだろうか?

「いや、まて。殿下の他に3人といったのが2人しか聞いてないぞ?」
「ああ……あとのお一人は攻略する必要がないからですわ」
「へ?」

 首を傾げた俺に、アデラはつまらなそうにため息をついて首を横に振った。

「ある意味でとても必要な方ではあるのですけれど。……お兄様の房中術のスキルアップには欠かせません。明日から学院の寮に入るお兄様が、毎日スキルアップ修行と共にみっちりと調教して『雌奴隷』にするお方です」
「だ、誰なんだよそれ……」

 アデラの言い方があまりにも酷いので顔が引き攣りそうになった。
 身内の欲目ではなく正真正銘の美少女であるアデラの口からメスドレイなどという言葉が出るとは。

 しかしそのあとアデラの口から出た名前のせいで、俺はさらに衝撃を受けることになった。

「フレデリック様です。明日からお兄様はフレッド様と同じ部屋で、卒業までの3年間を過ごすことになります。その間にあらゆる房中術を試し、毎夜スキルアップに努めることで、卒業とともにガチムチハーレムを作り上げる事が出来るのですわ!」

 真っ白になった俺の、茫然とした顔に気づかずアデラは興奮した面持ちで拳を握りしめていた。

『皆様シックスパックどころか8つに割れた腹筋のガチムチです』
『おっぱいも素敵ですわ』
『ハーレムでは日替わりでむちむちの雄尻を選べるのですよ』
『お兄様は逆三角形の雄っぱい派ですか、安産型の雄尻派ですか』
 と、妹は延々と語り続ける。

 お兄様はどっち派でもありません、妹よ目を覚ませ。

 俺はすっかり明日の出立の支度をする気になれず、さらには暫くぶりに会うフレデリックとの再会が気になって眠れなくなった。
 久しぶりと言っても先月、妹の誕生日で両家族集まったからそんなに経ってはいないんだが。

 あー、会ったら変な顔してしまいそうだ。そういうの、フレッドは敏感に感じ取るから絶対にまずい。どうしよう、どうやって誤魔化そうか。

 そもそも俺が自分の意思で止めればガチムチハーレムというのは回避できるのか。アデラの『予言』はかなり実現率が高いのでどうにもならない可能性もある。正直、困った。


 そうして頭を抱えたまま悶々とした一夜を過ごした俺は、寝不足のまま領地を出発したのだった。




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