57 / 112
第二章 ツギハギ(14)
しおりを挟む「覇王君、急に来てもらって本当にすまない。
だが、うちの総司も子供にされてしまって。兎に角、すぐにでも対処せねば子供達も危ないんだ。」
「それさっき聞いたよ。
だから答えたじゃねぇか。
そいつは、さとりが羽召流の笛を使ってるって。」
「あ……。
そうだった。」
すまない、と髷を撫でて照れ笑う近藤に覇王は溜息をつく。
「こっちもそれは聞いてんだよ。」
「は。」
覇王は土方に苛立つ。
「どうすりゃ倒せんのか。
倒さなくても総司は元に戻せんのか。
それを聞いてんだ。
皆まで聞かなくとも求めてる答えくらい分かんだろ。
ガキでも分かるぜ。」
近藤への発言に対する当てつけのような土方の言葉が、覇王のこめかみに青筋を立たせる。
「葛ノ葉と、さっさとしけこむんじゃなかったのか。」
呆れが含まれた鈴音の声音が、覇王の口から火種を取り除く。
「そうだったそうだった。
こんなところでしょうもない芋侍と争ってる場合じゃねぇんだった。
なぁ、葛ノ葉。」
じっとこちらを見つめている狐に覇王が頬笑むと、葛ノ葉と呼びかけられた狐は、尻尾を振りながら、再度男の膝に顎を乗せた。頭を撫でられると、葛ノ葉は次第に目を細めていく。
葛ノ葉としけこむ……。
覇王の膝元に視線が集中するが、胸に抱いた素朴な疑問を口にする勇気のある者はいなかった。
多くの戸惑いの焦点を浴びながら、それらに何の関心も持たないまま覇王は言葉を並べる。
「ま、笛を取り上げて壊せば仕舞いだよ。
さとりそのものは大した力が無いからな。
何でさとりが羽召流の笛を手にしたのかが分からないが、異国から流れ着いてきたもんであることは間違いないさ。
あれは西洋でも子供を攫うための魔具として怖れられてるらしいからな。
一晩で町中の子供を行方不明にしたこともある、そんな笛だ。」
「その笛を壊せば、総司は……元に戻り、子供達も帰ってくるんだよな、覇王君。」
念を押すように再度答えを求める近藤に、覇王は肩を上げて見せた。その瞳は畳の縁が独占している。
「断定はできない。
西洋のことは、書物や人づてに聞いたことしか分かんねぇからさ。
そもそも、今回みたいに実際のモノが入ってくるなんて希なことだぜ。
長らく時を生きてきたが、西洋の魔具や妖物をこの目に捉えたのは、数えられるくらいでしかねぇし。
それすらも両手の指で足りる程度のことだ。」
「それじゃぁ、総司は元に戻らないかもしれねぇってことか。」
呆然とする近藤の代わりに土方が言葉を引き継ぐ。
「……あぁ。
そうなるな。」
雪の舞い落ちる音が聞こえてきそうな静寂のまにま。自然の奏でる音色が合わさる。
瞼で視界を覆えば、自身の座っていた場所はどこだったのか、分からなくなった。
外側か内側か。
壁や障子戸で隔てられてはいるが外側との境界線に、そうはっきりとした境はないものである。
意識をしているよりか、外は近い。
鈴音は瞼の裏側から締め切られた障子戸の向こう側を見つめていた。
ありありと見える雪景色にどんな記憶を重ねようか迷っていると、名前を呼ばれる。
思い求める声音とは異なるが、全てを瞼に封じ込め、その帳を開く。
「お前も同じ考えか。」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる