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ツムギノカケラ(2)
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「そうなってくると、どうしようもないでしょう。
誰かの小姓扱いにしておくしかありませんよ。ね、近藤さん。」
「だからなんでそれが俺の小姓なんだ。
総司、話が振り出しに戻ってんじゃねぇか。」
「でも普通に考えて見て下さいよ、土方さん。
小姓にするにしたって、私たち組長の誰かにつけるとなると均衡が悪くなるでしょう。
組は十組あるんですから、そのうちの一組の組長にだけ小姓をつけると、
どう考えても不平等じゃありませんか。
しかも男装させるとはいえ女の人なんだから、それを考えても余計平等さに欠けてきます。
女の人で国が傾くくらいなんですよ。
こんな小さな組なんて一瞬で争いを起こして消えていきます。」
「そうだ、そうだ。
あんな綺麗な女を小姓にできるんだぜ。
それがうちの組じゃないなら、あの人を小姓にした組と決闘だな、決闘。
組と男を賭けて戦うぜ、がむしゃらにな。」
永倉が拳を握って突き上げるが、誰もそれに触れようとはせず話は進む。
「うん、こんなお手本みたいな感じで永倉さんみたいに決闘だと騒ぎ出すと、彼女が女の人だという詳しい事情を知らない隊士達にも色々知れ渡ったり、
変な噂が立ったりと面倒なことになるでしょう。
それに、百歩譲って組長の小姓にしたとしても体面的に向こう様が黙ってないかもしれませんし。」
「んーそうなんだろうか。
鈴音さんは、あまりそんなことに拘らないように思うが。」
唸りながら小首を傾げる近藤。
先日、会津藩からの報奨金を土方が手渡しに行ったが、
鈴音はそれを受け取らなかった。
その子細をどこか機嫌の良さそうな土方から聞いた際、近藤は彼女の人柄にひどく感銘を受けたこともあり、名声などに拘らないだろうと踏んでいる。
それは土方も同じであった。
直に会話をすることで得体の知れない女の、人の部分を垣間見たのだ。
全てを掌握し得体を知り得た訳ではないが、土方の直感が信じる心を促している。
「そうですね。
近藤さんの言うとおり、鈴音さんは何も言わないかもしれません。
でも、覇王樹は分かりません。
『この尊い俺が手を貸してやったっていうのに、そいつが組長の小姓だって。』とか言いそうでしょう、あの人。」
気まぐれそうではあるが、器の広さも兼ねていることを訴えようとしていた近藤は口を閉ざす。
覇王と会話と呼べる行為を行ったのは、たったの二回きりで、どんな性格かと
問われると頭を悩ませてしまうことは事実であった。
気前よく酒を奢ってくれたり、妖物の件で手を貸してくれたりするその粋さを思えば、役職など気にしないようにとれるが、それ以上に沖田の物真似が覇王によく似ていたため、何となく本人がそれを言いそうな気になってくる。
「もしかすると、ここに手を貸してくれたり、お酒を奢ってくれたりしたままの性格かもしれませんが、それはまだ分からないところでしょう。
お酒に関しては近藤さん、下戸なんだからあんまり呑まないし、それを考えると奢ったといっても大した額ではないです。
だからまだ気前が良いと断言できない。
あの覇王さんとういう人には、念のために気をはらって鈴音さんを配置しないと。
こんなことで機嫌を損ねて、この話を破談にされたんじゃたまりませんし。」
「確かにな。
それはそうだ。」
原田は湯飲みにこっそり淹れてきた酒をすする。
出涸らしのような薄い味の酒に目頭を押さえ、ぐっと涙を堪えた。
酒は酒だ。無いよりはマシだ。
そんな原田の様子に近藤もまた目頭を押さえる。幼い頃から手をかけて可愛がってきた沖田が、原田を感動させるような思慮を見せたのだ。
総司も大きくなったのだなぁ。
涙もろい男は、密かに鼻をすする。
「そうだ、総司の言うとおりだ。
我々に手を貸してくれた覇王君は、鈴音さんから考えると我々で言う会津藩と同じな訳だからな。
そこは感謝の意味も込めた役職にせねば。
あ、そうだそれなら俺の小姓はどうだろうか。」
「だめです。」
笑みを絶やさなかった沖田が真顔で即答する。
誰かの小姓扱いにしておくしかありませんよ。ね、近藤さん。」
「だからなんでそれが俺の小姓なんだ。
総司、話が振り出しに戻ってんじゃねぇか。」
「でも普通に考えて見て下さいよ、土方さん。
小姓にするにしたって、私たち組長の誰かにつけるとなると均衡が悪くなるでしょう。
組は十組あるんですから、そのうちの一組の組長にだけ小姓をつけると、
どう考えても不平等じゃありませんか。
しかも男装させるとはいえ女の人なんだから、それを考えても余計平等さに欠けてきます。
女の人で国が傾くくらいなんですよ。
こんな小さな組なんて一瞬で争いを起こして消えていきます。」
「そうだ、そうだ。
あんな綺麗な女を小姓にできるんだぜ。
それがうちの組じゃないなら、あの人を小姓にした組と決闘だな、決闘。
組と男を賭けて戦うぜ、がむしゃらにな。」
永倉が拳を握って突き上げるが、誰もそれに触れようとはせず話は進む。
「うん、こんなお手本みたいな感じで永倉さんみたいに決闘だと騒ぎ出すと、彼女が女の人だという詳しい事情を知らない隊士達にも色々知れ渡ったり、
変な噂が立ったりと面倒なことになるでしょう。
それに、百歩譲って組長の小姓にしたとしても体面的に向こう様が黙ってないかもしれませんし。」
「んーそうなんだろうか。
鈴音さんは、あまりそんなことに拘らないように思うが。」
唸りながら小首を傾げる近藤。
先日、会津藩からの報奨金を土方が手渡しに行ったが、
鈴音はそれを受け取らなかった。
その子細をどこか機嫌の良さそうな土方から聞いた際、近藤は彼女の人柄にひどく感銘を受けたこともあり、名声などに拘らないだろうと踏んでいる。
それは土方も同じであった。
直に会話をすることで得体の知れない女の、人の部分を垣間見たのだ。
全てを掌握し得体を知り得た訳ではないが、土方の直感が信じる心を促している。
「そうですね。
近藤さんの言うとおり、鈴音さんは何も言わないかもしれません。
でも、覇王樹は分かりません。
『この尊い俺が手を貸してやったっていうのに、そいつが組長の小姓だって。』とか言いそうでしょう、あの人。」
気まぐれそうではあるが、器の広さも兼ねていることを訴えようとしていた近藤は口を閉ざす。
覇王と会話と呼べる行為を行ったのは、たったの二回きりで、どんな性格かと
問われると頭を悩ませてしまうことは事実であった。
気前よく酒を奢ってくれたり、妖物の件で手を貸してくれたりするその粋さを思えば、役職など気にしないようにとれるが、それ以上に沖田の物真似が覇王によく似ていたため、何となく本人がそれを言いそうな気になってくる。
「もしかすると、ここに手を貸してくれたり、お酒を奢ってくれたりしたままの性格かもしれませんが、それはまだ分からないところでしょう。
お酒に関しては近藤さん、下戸なんだからあんまり呑まないし、それを考えると奢ったといっても大した額ではないです。
だからまだ気前が良いと断言できない。
あの覇王さんとういう人には、念のために気をはらって鈴音さんを配置しないと。
こんなことで機嫌を損ねて、この話を破談にされたんじゃたまりませんし。」
「確かにな。
それはそうだ。」
原田は湯飲みにこっそり淹れてきた酒をすする。
出涸らしのような薄い味の酒に目頭を押さえ、ぐっと涙を堪えた。
酒は酒だ。無いよりはマシだ。
そんな原田の様子に近藤もまた目頭を押さえる。幼い頃から手をかけて可愛がってきた沖田が、原田を感動させるような思慮を見せたのだ。
総司も大きくなったのだなぁ。
涙もろい男は、密かに鼻をすする。
「そうだ、総司の言うとおりだ。
我々に手を貸してくれた覇王君は、鈴音さんから考えると我々で言う会津藩と同じな訳だからな。
そこは感謝の意味も込めた役職にせねば。
あ、そうだそれなら俺の小姓はどうだろうか。」
「だめです。」
笑みを絶やさなかった沖田が真顔で即答する。
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