28 / 112
第一章 ヒトダスケ (27)
しおりを挟む
「……。
額が気にいらねぇのか。
……もう少しくらいなら、俺たちの給金から出すこともできる。
だが、こっちもそう多くある訳じゃねぇから、満足な額になるかは分からねぇぞ。」
「いや、そんなんじゃねぇよ。
額とかじゃなくて、何もいらねぇよ。」
奇妙なことを言う。
土方は、これまでの術者なる者達のことを思い出す。新選組が死に物狂いでかき集めてきた
自称術者達は皆、依頼の前から報酬の話ばかりを
するような連中しかいなかった。
納得のいくような結果を出せる訳でもないくせに、馬鹿高い報酬を迫られ、払ったとしても結果が伴わない。
そのうえ、いい加減な呪文らしきものを軽く唱えては、さらにそこから金をふっかけようとする者もいた。
特別なことがほんのわずかばかりできるからかしらねぇが図に乗りやがって、と腹の底で苛立っていた土方は、術者とはそんなものだと踏んでいた。
それがここにきて、見事な結果を披露したばかりでなく、金をも求めようとしない術者に出会い、
土方は戸惑いを覚える。
他に裏でもあるのかと、真偽を測るために切れ
長の瞳を見守るが、その瞳は不信な揺れを見せることはない。色白の顔に取り付けられた眼は、
どこまでも澄んだ煌めきを抱えるように、
ただ静かに鎮座していた。
土方が何の返事もしてこないことに、
きまりが悪くなった鈴音は、自分から言葉を投げかける。
「そんな物があったからって、あたいには何の役にも立たない。
必要ねぇんだ。もし、あったとしても樹が用意してくれる。
だから、金はいらない。
お前たちの好きに、それは使えば良い。
そもそも、依頼されたことを成し遂げようと働いたのはお前達だろ。
この結果は、お前たちの努力によるものなんだから、その褒美は自分達で使うべきだ。」
押し戻された和紙の包みが、月明かりのせいか、白がよく映えているように見えた。
あの日言いそびれた言葉が、土方の喉元へ蘇ってくる。
「悪かった。」
二人の視線が自然に交じり合う。
「言い訳はしねぇ。
気付いているだろうが、俺はお前たちを疑っていた。
どうせ今までの連中と同じなんだろうと、そう思っていた。
だからお前たちに協力を仰ごうなんざ、毛の先ほども考えちゃいなかったが、その結果がこれだ。
お前には悪いと思っている。
思っちゃいるが、後悔はしてねぇ。
今回のことで腹に虫を据えているかもしれねぇが、このままここに残って、新選組に手を貸して欲しい。」
土方の背が腰元から前に倒されていく。
月代のない総髪に結われた髪が、滑るように肩から前に流れ落ちる。
額が気にいらねぇのか。
……もう少しくらいなら、俺たちの給金から出すこともできる。
だが、こっちもそう多くある訳じゃねぇから、満足な額になるかは分からねぇぞ。」
「いや、そんなんじゃねぇよ。
額とかじゃなくて、何もいらねぇよ。」
奇妙なことを言う。
土方は、これまでの術者なる者達のことを思い出す。新選組が死に物狂いでかき集めてきた
自称術者達は皆、依頼の前から報酬の話ばかりを
するような連中しかいなかった。
納得のいくような結果を出せる訳でもないくせに、馬鹿高い報酬を迫られ、払ったとしても結果が伴わない。
そのうえ、いい加減な呪文らしきものを軽く唱えては、さらにそこから金をふっかけようとする者もいた。
特別なことがほんのわずかばかりできるからかしらねぇが図に乗りやがって、と腹の底で苛立っていた土方は、術者とはそんなものだと踏んでいた。
それがここにきて、見事な結果を披露したばかりでなく、金をも求めようとしない術者に出会い、
土方は戸惑いを覚える。
他に裏でもあるのかと、真偽を測るために切れ
長の瞳を見守るが、その瞳は不信な揺れを見せることはない。色白の顔に取り付けられた眼は、
どこまでも澄んだ煌めきを抱えるように、
ただ静かに鎮座していた。
土方が何の返事もしてこないことに、
きまりが悪くなった鈴音は、自分から言葉を投げかける。
「そんな物があったからって、あたいには何の役にも立たない。
必要ねぇんだ。もし、あったとしても樹が用意してくれる。
だから、金はいらない。
お前たちの好きに、それは使えば良い。
そもそも、依頼されたことを成し遂げようと働いたのはお前達だろ。
この結果は、お前たちの努力によるものなんだから、その褒美は自分達で使うべきだ。」
押し戻された和紙の包みが、月明かりのせいか、白がよく映えているように見えた。
あの日言いそびれた言葉が、土方の喉元へ蘇ってくる。
「悪かった。」
二人の視線が自然に交じり合う。
「言い訳はしねぇ。
気付いているだろうが、俺はお前たちを疑っていた。
どうせ今までの連中と同じなんだろうと、そう思っていた。
だからお前たちに協力を仰ごうなんざ、毛の先ほども考えちゃいなかったが、その結果がこれだ。
お前には悪いと思っている。
思っちゃいるが、後悔はしてねぇ。
今回のことで腹に虫を据えているかもしれねぇが、このままここに残って、新選組に手を貸して欲しい。」
土方の背が腰元から前に倒されていく。
月代のない総髪に結われた髪が、滑るように肩から前に流れ落ちる。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる