茜空に咲く彼岸花

沖方菊野

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第一章 ヒトダスケ (24)

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 橋を脅かしていた妖物が消え、その一帯には平和が帰ってきた。閑散としていた夜の橋も以前と同じような賑わいが、徐々にではあるが戻り始めている。

 そんな一先ずの平穏に、新選組の親元でもある会津藩は少量の報奨金を彼らに賜った。

 渋い顔で妖物退治を責付いていたお偉方の
連中も、この時ばかりはやはり笑顔である。
妖物退治の報告に来た近藤と土方を宴に誘い、
酒まで勧める始末であった。


 近藤も土方もそう酒が得意な訳ではない。


 特に土方に関しては近藤に勝る下戸である。
渡される猪口を遠慮したい気持ちがありながら、
断ることは失礼に思え、呑めないと素直に認めることも体面良くなく思え、仕方なしに注がれる酒に口をつけた。


 その後、質の悪い酔っ払いと化した土方を、
千鳥足で赤ら顔の近藤が引きずるよう連れて
帰ってきたのは言うまでもない。


 そんな彼らを夕餉時の広間で迎えた幹部達は含み笑いで膳を抱え、そそくさと部屋に帰っていく。
そうしなければ、土方に胸ぐらでも掴み上げられ、日頃の愚痴をこぼされかねなかったからだ。


 蜘蛛の子を散らすように去っていく連中を、
近藤は必死で呼び止めようとするが、思うように
足が動かずよろめいてしまう。

 そんな自分がどこか可笑しく思わず笑ってしまった近藤の肩に腕が回される。


「なぁに笑ってんだ、近藤さん。
酒はどうした、酒は。」


 それほど呑んでいないというのに
熟れた柿の匂いが香る土方は、しゃっくりを
しながら顔を寄せてくる。


「やったな、トシ。」


「あぁん、何が。
何の話してやがる。
酔っ払っちまったのか、あんた。
だから酒なんかやめとけっていったんだよ、見栄なんか張ってよぉ。」


 それはお前だよ、トシ。


 思うところがあったが、近藤は何も口にしなかった。そんな返答をするよりも、共有したいことが
あったからだ。


 笑みを抑えられない男は、土方の肩に腕を回し、自分の方にぐっと引き寄せる。


「容保公の……いや、新選組として京の治安を
妖物から守ることができるようになったんだ。
お上の民を、我々が守っていくのだぞ、トシ。
どこよりも早く、この新選組が妖物退治を
引き受けられるようになったのだ。
こんなに嬉しいことはない、そうだろうトシ。」


 顔をくしゃりと寄せて笑う近藤を見て、
土方の眉根の幅が、いつもより広くなる。


「あぁ、そうだな。」


 勝ちゃん。


 試衛館にいた頃の呼び名を胸に思い、
土方は近藤の嬉しそうな顔につられてしまうのだった。

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