24 / 112
第一章 ヒトダスケ(23)
しおりを挟む
「妖物とは、日頃姿も見えにくいが、死んでも形が見えなくなるのだな……。」
近藤がぼそりと呟く。可哀想だとでも思っているのだろうか。
静代は、優しすぎる将に呆れを抱きながら広間に戻ってきた鈴音を迎えた。
「日頃から切っておかないから、こうなるのですよ、もう。」
乱雑に切られたと見えた前髪は、綺麗に眉の辺りで切りそろえられていた。
誰もが妖物退治を目の当たりにし、その始終に衝撃を受けたが、それよりも鈴音の顔に見入ってしまう。
身なりこそ悪くあるが、色の白い綺麗な顔をしていた。切れ長の瞳は芯の強い光を宿し澄んでいる。乾燥で荒れた唇は、赤みをほのかにまとい、薄く紅をさしているようにも見えた。
「はぁぁっ、こりゃぁなかなかだな。」
気を取り戻した永倉は、鈴音の顔をじろじろ見つめる。
「ほら、言ったではありませんか。
鈴音様はお美しいと。
でも、今日はここまでです。」
静代は鈴音の背を押し、障子の方へ向かおうとする。
「あ、待ってくれ。」
赤く血の滲む背に近藤が呼びかける。
「鈴音様は怪我をされております。
ご用は、ご回復の後にお願い致します。」
静代の声音には、トゲのあるような冷たさが滲んでいた。
それだけ答えると、静代は鈴音に呼びかけて部屋を去っていく。
その後に続こうとする鈴音を、土方が引き留める。
「おい……。」
後ではなく、今伝えて置かなければいけない謝罪と感謝があった。だが、謝罪など性根に合わないこともあり、慣れていない。
言葉を選んでいると、鈴音が口を開いた。
「あれのことは片付けてやったんだ。
それと軒を弁償しろなんて言うなよな。」
去り際に鈴音が指さした襟元に手を当てると、ぐっちょりと血濡れていた。
広間に鈴音が飛び込んできた時の一連の流れが思い出された。自身には何の痛みも怪我もない。そんなことを考えずとも、その血が誰の者なのか容易に見当が付く。
土方は、誰に向けてか分からぬ舌打ちを漏らすのだった。
近藤がぼそりと呟く。可哀想だとでも思っているのだろうか。
静代は、優しすぎる将に呆れを抱きながら広間に戻ってきた鈴音を迎えた。
「日頃から切っておかないから、こうなるのですよ、もう。」
乱雑に切られたと見えた前髪は、綺麗に眉の辺りで切りそろえられていた。
誰もが妖物退治を目の当たりにし、その始終に衝撃を受けたが、それよりも鈴音の顔に見入ってしまう。
身なりこそ悪くあるが、色の白い綺麗な顔をしていた。切れ長の瞳は芯の強い光を宿し澄んでいる。乾燥で荒れた唇は、赤みをほのかにまとい、薄く紅をさしているようにも見えた。
「はぁぁっ、こりゃぁなかなかだな。」
気を取り戻した永倉は、鈴音の顔をじろじろ見つめる。
「ほら、言ったではありませんか。
鈴音様はお美しいと。
でも、今日はここまでです。」
静代は鈴音の背を押し、障子の方へ向かおうとする。
「あ、待ってくれ。」
赤く血の滲む背に近藤が呼びかける。
「鈴音様は怪我をされております。
ご用は、ご回復の後にお願い致します。」
静代の声音には、トゲのあるような冷たさが滲んでいた。
それだけ答えると、静代は鈴音に呼びかけて部屋を去っていく。
その後に続こうとする鈴音を、土方が引き留める。
「おい……。」
後ではなく、今伝えて置かなければいけない謝罪と感謝があった。だが、謝罪など性根に合わないこともあり、慣れていない。
言葉を選んでいると、鈴音が口を開いた。
「あれのことは片付けてやったんだ。
それと軒を弁償しろなんて言うなよな。」
去り際に鈴音が指さした襟元に手を当てると、ぐっちょりと血濡れていた。
広間に鈴音が飛び込んできた時の一連の流れが思い出された。自身には何の痛みも怪我もない。そんなことを考えずとも、その血が誰の者なのか容易に見当が付く。
土方は、誰に向けてか分からぬ舌打ちを漏らすのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる