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第一章 ヒトダスケ(23)
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「妖物とは、日頃姿も見えにくいが、死んでも形が見えなくなるのだな……。」
近藤がぼそりと呟く。可哀想だとでも思っているのだろうか。
静代は、優しすぎる将に呆れを抱きながら広間に戻ってきた鈴音を迎えた。
「日頃から切っておかないから、こうなるのですよ、もう。」
乱雑に切られたと見えた前髪は、綺麗に眉の辺りで切りそろえられていた。
誰もが妖物退治を目の当たりにし、その始終に衝撃を受けたが、それよりも鈴音の顔に見入ってしまう。
身なりこそ悪くあるが、色の白い綺麗な顔をしていた。切れ長の瞳は芯の強い光を宿し澄んでいる。乾燥で荒れた唇は、赤みをほのかにまとい、薄く紅をさしているようにも見えた。
「はぁぁっ、こりゃぁなかなかだな。」
気を取り戻した永倉は、鈴音の顔をじろじろ見つめる。
「ほら、言ったではありませんか。
鈴音様はお美しいと。
でも、今日はここまでです。」
静代は鈴音の背を押し、障子の方へ向かおうとする。
「あ、待ってくれ。」
赤く血の滲む背に近藤が呼びかける。
「鈴音様は怪我をされております。
ご用は、ご回復の後にお願い致します。」
静代の声音には、トゲのあるような冷たさが滲んでいた。
それだけ答えると、静代は鈴音に呼びかけて部屋を去っていく。
その後に続こうとする鈴音を、土方が引き留める。
「おい……。」
後ではなく、今伝えて置かなければいけない謝罪と感謝があった。だが、謝罪など性根に合わないこともあり、慣れていない。
言葉を選んでいると、鈴音が口を開いた。
「あれのことは片付けてやったんだ。
それと軒を弁償しろなんて言うなよな。」
去り際に鈴音が指さした襟元に手を当てると、ぐっちょりと血濡れていた。
広間に鈴音が飛び込んできた時の一連の流れが思い出された。自身には何の痛みも怪我もない。そんなことを考えずとも、その血が誰の者なのか容易に見当が付く。
土方は、誰に向けてか分からぬ舌打ちを漏らすのだった。
近藤がぼそりと呟く。可哀想だとでも思っているのだろうか。
静代は、優しすぎる将に呆れを抱きながら広間に戻ってきた鈴音を迎えた。
「日頃から切っておかないから、こうなるのですよ、もう。」
乱雑に切られたと見えた前髪は、綺麗に眉の辺りで切りそろえられていた。
誰もが妖物退治を目の当たりにし、その始終に衝撃を受けたが、それよりも鈴音の顔に見入ってしまう。
身なりこそ悪くあるが、色の白い綺麗な顔をしていた。切れ長の瞳は芯の強い光を宿し澄んでいる。乾燥で荒れた唇は、赤みをほのかにまとい、薄く紅をさしているようにも見えた。
「はぁぁっ、こりゃぁなかなかだな。」
気を取り戻した永倉は、鈴音の顔をじろじろ見つめる。
「ほら、言ったではありませんか。
鈴音様はお美しいと。
でも、今日はここまでです。」
静代は鈴音の背を押し、障子の方へ向かおうとする。
「あ、待ってくれ。」
赤く血の滲む背に近藤が呼びかける。
「鈴音様は怪我をされております。
ご用は、ご回復の後にお願い致します。」
静代の声音には、トゲのあるような冷たさが滲んでいた。
それだけ答えると、静代は鈴音に呼びかけて部屋を去っていく。
その後に続こうとする鈴音を、土方が引き留める。
「おい……。」
後ではなく、今伝えて置かなければいけない謝罪と感謝があった。だが、謝罪など性根に合わないこともあり、慣れていない。
言葉を選んでいると、鈴音が口を開いた。
「あれのことは片付けてやったんだ。
それと軒を弁償しろなんて言うなよな。」
去り際に鈴音が指さした襟元に手を当てると、ぐっちょりと血濡れていた。
広間に鈴音が飛び込んできた時の一連の流れが思い出された。自身には何の痛みも怪我もない。そんなことを考えずとも、その血が誰の者なのか容易に見当が付く。
土方は、誰に向けてか分からぬ舌打ちを漏らすのだった。
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