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第一章 ヒトダスケ(8)
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「ひっ……。」
隊士の一人が、土方の視線の先に気がつき事態を把握する。悲鳴にも似た声をきっかけに、他の隊士達も欄干に視線を向けた。
「ほ、本当に出た……。
橋の魔が、本当に出たぞ。」
半ば発狂にも近い声が、霧中に響き渡る。
霧が濃くなってやがる……。
目を細めながら、土方は視線を巡らす。
橋を渡ってきた時に比べると、随分、乳白色の色味が、視界にはっきりと映るようになっていた。
少しでも距離を取ると、誰が近くに立っているのか見えないほどだ。
掌が汗ばんでいくのが分かる。
さっきまで聞こえていたわずかな生活音も、全く耳にすることができない。
分厚い何層もの箱の中に閉じ込められているような、そんな気にさえなってくる。
「てめぇら、離れるな。
互いの顔が見える距離まで身を寄せろ。」
怯える隊士達が土方の側に集まってくる。
「良いか、視界が悪い。
離れないように行動するんだ、分かったな。 ……今から、橋本を探す。
生きていようが死んでいようが、どちらにせよ、何があったのか確かめなきゃなら
ねぇ。
このまま橋の下に行く。
離れるんじゃねぇぞ。」
自然と起こる身の震えの中、声まで揺らしながら隊士達は返事を返す。
「おい……、お前もだ。
離れないようについてこい。
少しでもおかしな真似をしてみろ。
容赦はしねぇからな。」
いつまでも頬杖をついたまま動こうとしない鈴音に、土方は言い放つ。
特段返事の必要はないと思い、鈴音は変わらず口を開けないまま、橋の欄干から腰を上げる。
土方を先頭に、他の隊士は団子のようにくっつき合いながら後につづいて歩く。
芋虫じゃねぇか。
その場の流れで鈴音は最後尾につきながら、小走りに前方を移動する芋虫を見つめる。。
信用できない相手に、背後を渡すなんて、大物だこった。
気が動転したが故の誤った判断なのか、背後から奇襲をかけられても勝てるという自信の表れなのか。
先陣を切って慎重に進む土方達の背は、乳白色の霧を纏い、白の着物を着ているように見えた。
視界が悪い中、それを掻き分けるようにして歩を進めているが、裂いても裂いても霧の晴れ間は見当たらない。
橋の入り口まで辿り着いても、それは変わらなかった。
土方達は土手の傾斜を滑り落ちないよう、足の裏に踏ん張りを利かせながら、その先を急ぐ。
厳しい隊律をかす鬼などと恐れられてはいるものの、仲間を想う気持ちを欠いているわけではない。
まだ息があるなら……間に合ってくれ。
土方は、さらに足を速める。
芋虫隊士達との距離がどんどん開いていく。 土手から河川敷まで、そう距離があるわけではないため、先頭の土方の背と離れたとしてもすぐに追いつけるほどだ。
しかし、恐怖に筋肉を支配されきった隊士達は思うように足を動かせないでいる。
普段であれば追いつける距離も、今の彼らにとっては、高熱の中、広大な山を登っているのと同じような険しさだった。
そんな隊士達を気にはかけながら、土方は先を急ぐ。
距離を取るなと指示したことを忘れた土方ではなかったが、負傷しているであろう隊士に、まだ可能性があるのであれば助けてやりたかった。
隊士の一人が、土方の視線の先に気がつき事態を把握する。悲鳴にも似た声をきっかけに、他の隊士達も欄干に視線を向けた。
「ほ、本当に出た……。
橋の魔が、本当に出たぞ。」
半ば発狂にも近い声が、霧中に響き渡る。
霧が濃くなってやがる……。
目を細めながら、土方は視線を巡らす。
橋を渡ってきた時に比べると、随分、乳白色の色味が、視界にはっきりと映るようになっていた。
少しでも距離を取ると、誰が近くに立っているのか見えないほどだ。
掌が汗ばんでいくのが分かる。
さっきまで聞こえていたわずかな生活音も、全く耳にすることができない。
分厚い何層もの箱の中に閉じ込められているような、そんな気にさえなってくる。
「てめぇら、離れるな。
互いの顔が見える距離まで身を寄せろ。」
怯える隊士達が土方の側に集まってくる。
「良いか、視界が悪い。
離れないように行動するんだ、分かったな。 ……今から、橋本を探す。
生きていようが死んでいようが、どちらにせよ、何があったのか確かめなきゃなら
ねぇ。
このまま橋の下に行く。
離れるんじゃねぇぞ。」
自然と起こる身の震えの中、声まで揺らしながら隊士達は返事を返す。
「おい……、お前もだ。
離れないようについてこい。
少しでもおかしな真似をしてみろ。
容赦はしねぇからな。」
いつまでも頬杖をついたまま動こうとしない鈴音に、土方は言い放つ。
特段返事の必要はないと思い、鈴音は変わらず口を開けないまま、橋の欄干から腰を上げる。
土方を先頭に、他の隊士は団子のようにくっつき合いながら後につづいて歩く。
芋虫じゃねぇか。
その場の流れで鈴音は最後尾につきながら、小走りに前方を移動する芋虫を見つめる。。
信用できない相手に、背後を渡すなんて、大物だこった。
気が動転したが故の誤った判断なのか、背後から奇襲をかけられても勝てるという自信の表れなのか。
先陣を切って慎重に進む土方達の背は、乳白色の霧を纏い、白の着物を着ているように見えた。
視界が悪い中、それを掻き分けるようにして歩を進めているが、裂いても裂いても霧の晴れ間は見当たらない。
橋の入り口まで辿り着いても、それは変わらなかった。
土方達は土手の傾斜を滑り落ちないよう、足の裏に踏ん張りを利かせながら、その先を急ぐ。
厳しい隊律をかす鬼などと恐れられてはいるものの、仲間を想う気持ちを欠いているわけではない。
まだ息があるなら……間に合ってくれ。
土方は、さらに足を速める。
芋虫隊士達との距離がどんどん開いていく。 土手から河川敷まで、そう距離があるわけではないため、先頭の土方の背と離れたとしてもすぐに追いつけるほどだ。
しかし、恐怖に筋肉を支配されきった隊士達は思うように足を動かせないでいる。
普段であれば追いつける距離も、今の彼らにとっては、高熱の中、広大な山を登っているのと同じような険しさだった。
そんな隊士達を気にはかけながら、土方は先を急ぐ。
距離を取るなと指示したことを忘れた土方ではなかったが、負傷しているであろう隊士に、まだ可能性があるのであれば助けてやりたかった。
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