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第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲

第139話 心配性な二人と派遣された試験官

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 試験のために街へとやってきた次の日。私達は早速、試験を受けるべくギルドを訪れていた。

 まあ、私達と言っても全員が全員、同行している訳ではなく、ここにはアライア、それからサーニャとノルンという心配性な二人と一緒だ。

 他の人達はそれぞれ用事があるといって行動しているからどこで何をしているのかは知らない。

 一応、何があるかわからないという名目の下、全員で街へ来ているのだから、トーラスとウィルソンはともかく、レイズに関しては一緒にギルドまでやってくるべきだと思うけど……あの人の自由さ今に始まった訳じゃないから仕方ない。

「……久しぶりにギルドまできましたけど、復興は大分、進んでるみたいですね」

 ギルドの中へ足を踏み入れた私は辺りを見回し、そんな感想を口にする。

 あの騒動での壊滅的な被害を考えれば、すでにギルドとして動き始めているのは凄いの一言に尽きるだろう。

「そりゃあ、エリンが相当に尽力したみたいだからね。重症を負いながらよくここまでやったもんだよ」
「――――褒めても何もでないわよ、アライア」

 私の感想に反応したアライアの言葉に対し、奥の方から車椅子に乗ったエリンが苦笑いを浮かべながら現れる。

「エリンさん!お久しぶりです」
「ええ、久しぶりですねルーコちゃん。元気に……と言うのも変ですか。ともかく、また会えて嬉しいです」

 騒動であの怪物から受けた後遺症か、歩けなくなって車椅子にこそ乗っているものの、エリンは思っていた以上に元気そうだった。

「や、エリン。例の特別試験とやらを受けにきたよ」
「……別にアライアさんが受ける訳じゃないでしょう」
「そうですよ。受けるのはルーコちゃんで、私達はあくまで何かあった時の付き添いなんですから」

 半ば呆れるように注意するノルンとサーニャ。もちろん、アライア的には冗談だろうけど、心配故にぴりぴりしている二人にはそれも通じなかった。

「……どうにもみなさんピリピリしていますね。原因はやはり試験の件……ですか」
「まあ、そうだね。というか、エリンがそういうって事はやっぱり今回の試験は上のお達しなのかな?」
「ええ、上……というより国、と言った方が正確ね。本当なら断わりたかったのだけど、王都から直々のお達しだったから私も無下にはできなかったの」

 申し訳なさそうに私の方を見つめたエリンは目を伏せ、小さくため息を吐いてから続ける。

「……本来ならルーコちゃんは一級試験に受かった時点で、指導した魔女の許可があれば魔術師になれた筈なのに……本当にごめんなさい」
「いえ、エリンさんが謝る事じゃないですよ。私には詳しい事情は分かりませんけど、それでも貴女が悪くない事くらいは理解できますから」

 今回の件、話から察するに上の人達というのが、私みたいな小娘を魔術師として認めたくないから試験を無理くり用意したって事だろう。

 エリンはギルドのマスターとしてそれを伝えただけ……そこに彼女が悪いといえる要素なんてどこにもない。

「だね。ルーコちゃんの言う通り、今回の件はエリンに責任はないし、気にするだけ損だと思うよ。それより――――」
「実際にルーコちゃんが受ける試験はきちんと公平なものなんですか?落とすための理不尽な内容だったりしませんよね」
「それは私も知りたいです。もしも、合格すること自体が不可能だったり、物凄く危険な内容だったら引っ張ってでもルーコちゃんを止めるつもりですから」

 アライアの言葉を遮り、ノルンとサーニャがエリンへと詰め寄る。

 きっと二人もエリンが悪くないと分かっているのだろうが、私の事となると凄く心配性になるノルンとサーニャだからどうしても、問い詰めるような口調になってしまうらしい。

「……内容に関しては通常の一級試験と同様なので大丈夫だと思います。しかし、問題は試験官は国側が用意すると言ってきた事です」
「…………なるほど、ね。確かにそれなら対外的にはどうとでも言い訳が立ちそうだ……本当にそういう部分だけは頭が回る」

 うんざりした顔でそう言ったアライアは片目を瞑り、指で頭をとんとんと叩いて私の方に向き直る。

「えっと、アライアさん……?」
「……ルーコちゃん。たぶん、向こうはかなりの実力者を試験官に据えてくると思う。流石に魔女や賢者みたいな最高位を用意してくるとは思わないけど……相当厳しい相手になると思ってた方がいいかもね」

 困惑する私へそれだけ言うと、アライアは肩を竦め、まあ、ここであれこれ言い合っていても仕方ないさ、と試験会場へ案内するよう、エリンへと促した。

「――――さっきも言った通り、今回、特例とはいえ、試験の形式は一級試験と同じになります。会場はギルドの地下、試験官は少し遅れて到着するそうです」

 地下へと向かう道すがら、エリンが簡単に概要を説明してくれる。

「……向こうが試験を提案してきてその試験官が遅れる……いくら国から派遣されてくる人だとしても、それはないと思います」
「そうですよ!そりゃ向こうは国から派遣されてくるくらい偉いのかもしれませんけど、それでも遅刻していい理由にはなりません!」

 初めから国の派遣した試験官に良い印象を持っていないノルンとサーニャがここぞとばかりに遅れている事を責め立てた。

「まあ、二人の言う通り、遅れてくるのは感心しないね。試験官を勤めるからにはその辺をきちんとするべきだと思うよ」
「でも、向こうにも何か事情があるかもしれませんし、悪いと決めつけるのは早計じゃないですか?」
「……ルーコちゃんは本当に良い子ですね。確かにその可能性もありますが……まあ、その試験官がくれば分かりますから、くるまでもう少し待ちましょう」

 エリンの言葉に試験会場の地下までやってきた私達は例の国から派遣されるという試験官を待つ事に。

 そこからしばらくして階段を下ってくる足音と共に派遣された試験官らしき一人の男が姿を現した。

「――――ここが試験会場か。ずいぶんと古臭い場所だな」

 男は遅刻したことを謝るでもなく、会場内をぐるりと見回すと、開口一番、そんな事を口走る。

「……貴方が国から派遣された試験官ですか?」
「ん?そういう貴殿は……ああ、ここのギルドマスターか。そうだ。私が今回、王の命により不正の疑いがある小娘の試験官を仰せつかった〝炎翼の魔術師〟グロウ=レートだ」

 謝罪もない不遜な態度に目を瞑り、冷静に努めたエリンの問い掛けに対し、炎翼の魔術師を名乗る男……グロウは彼女がギルドマスターだと分かっていてなお、高圧的な物言いで返す。

「なっ……誰が不正だって――――」

 まるで自分こそがこの場で一番偉いとでも言わんばかりの態度と言葉に何かを言いかけるサーニャをアライアが止めた。

「なるほど、まさか今回の試験官が今現在、一番〝賢者〟に近い〝炎翼の魔術師〟だとは……国はよほどルーコちゃんを魔術師にしたくないらしいね」
「〝賢者〟に一番近い……あの人が……?」

 見ただけで実力の程が分かるわけではないけれど、少なくとも、今まで戦ってきた相手のような圧力をグロウからは感じられない。

 実際、戦ってみないとなんとも言えないが、正直、私にはグロウが〝賢者〟に一番近いなんて到底、思えなかった。
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