上 下
88 / 156
第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女

第84話 始まる防衛線と異常な不死性

しおりを挟む

 少しの無茶を通し、戻った私を待っていたのはエリン達によるお説教だった。

「必要だった事とはいえ、あのやり方は褒められたものではありません……ルーコちゃんが責任を背負う謂われはないんですよ?」
「エリンさんの言う通りだよ。わざわざ挑発めいた言葉で焚きつけた事もそうだけど、いきなりあの魔術を使うなんて…………」
「そうだぜ嬢ちゃん。あの混乱に呑まれちまった俺達が言えた義理じゃないが、それでも一言くらいは欲しかったな」

 三人のもっともな言い分に私は何も言えず、ただただその言葉を受け止める他ない。

 と言っても、時間がない事は三人共分かっているようでお説教はその一言で終わり、すぐにこれからどうするかという話に切り替わる。

「――――それで、問題はこれからどうするかだな」
「……ですね、エリンさんは逃げる人と戦う人で振り分けの段取りに向かいましたし、私達もどうするか考えないと」

 防壁と挑発で混乱が治まったこの機を逃さないようにエリンはマスターとして指示を飛ばしにこの場を離れたが、私達は私達でどうするかを決めないといけない。

まあ、あれだけ大見得切った私には戦う以外の選択肢はないのだけれど。

「……よし、決めた。俺は残って戦う。逃げたところであの死体達をどうにかしないと街自体が危なくなるだろうしな」
「……私も残ります。ウィルソンさんの言う通りこのままだと逃げ道自体がなくなるのは目に見えてるし、どうせルーコちゃんは残るつもりだろうから一人にさせるわけにはいかないしね」

 まだ何も言っていないが、二人共私がどうするつもりか気付いていたらしく、仕方ないといった表情を浮かべていた。

「…………気付いてましたか」
「そりゃあね。あえてあんな事を言った手前、ルーコちゃんが最初からそのつもりなんだろうなっていうのは見てればわかるよ」
「だな、長い付き合いとは言えないが、流石にそれくらいはわかるさ」

 本当なら黙ったまま戦おうと思っていただけにそれがばれた今、少し気まずく、無意識に視線を逸らしてしまう。

「――――それでは逃げる方は職員の指示に従って後についていってください。残って戦ってくれる方は方針を決めようと思うのでこちらに集まってください」

 気まずい思いを抱えた中、指示を出し終えたエリンが声を張って分けた人達を誘導し始めた。

「あ、ほらあっちが残る人みたいだから私達も移動しよっか」

 移動する事になったおかげで気まずさを含んだ話はそこで終わり、外の死体達とどう戦うかの話し合いが始まる。

 話し合いと言っても、当初の対策通り、魔法使いを中心に遠距離から攻撃できる人達で近寄らせないように立ち回り、万が一近付かれた場合は細心の注意を払って、倒すよりも遠ざける方を優先するという方向で決まり、すぐに終わってしまったのだが。

 ひとまずの方針が決まった事で残った冒険者たちは戦う準備のためにそれぞれ動き出す。

……私の張った防壁はたぶん一時間もしない内に崩れる。だからそれまでに気休めでも魔力を回復させないと。

魔力集点コングニッション』を使った後の状態で戦闘に参加するのは自殺行為に等しいが、それでもやるしかないと邪魔にならない場所に移動して残った魔力を体内で循環させる。

「……私達も準備をしましょう。少しでも生き残る可能性を上げるために」
「ああ、嬢ちゃんは……休んでおいたほうがいいな。準備のついでになんか食べるものをもらってくるわ」

 縁に座って目を瞑り、集中し始めた私を見てサーニャとウィルソンの二人も準備のためにその場から離れた。


 そして全ての準備を整え、最終的に残った冒険者の数は私達を含めて二十三人とエリンを含めたギルド職員が五人の計二十八人になった。

……正直、死体集団の強度も数も不鮮明な現状だと少な過ぎる戦力だと思う。でもこれ以上が望めないなら今あるものだけでなんとかするしかない。

 一応、逃げる人を先導したギルド職員に各方面への応援要請を託したらしいが、実際に駆けつけるまでの時間を考えると、それを頼りにするのは現実的じゃないだろう。

「大丈夫……数の少なさを補うだけの工夫はしてある……」

 何も馬鹿正直に正面から迎え撃つ訳じゃなく、基本の方針の他にも大通りにいくつもの壁を作り、魔法使いを各建物に配置。

 敵の攻撃が届かないところから魔法を撃ち、建物を移動しつつ、数を減らしていくという段取りだ。

 残りの魔力や使える魔法の種類も加味すれば私は攻撃に参加すべきじゃないんだろうけど、ここにいる以上、黙って見ているだけというわけにはいかなかった。

「っそろそろ崩れる……!」

 ぴきりぴきりと音を立てて崩壊していく土の防壁。その巨大さ故に崩れる瞬間、防壁を構成していた土砂が近くに群がっていた死体の群れをある程度巻き込み、生き埋め状態へと追いやった。

……狙ってやったわけじゃないけど、少しでも削れたならそれでいい。上手い具合に足場も不安定な状態にできた。後は――――

 防壁の崩壊に巻き込まれなかった死体の群れが瓦礫によって不安定になった足場をよじ登って向かってくるのが見える。

「速度が遅くて固まってる今なら数を減らせる……!」

 おそらく一番近くにいるであろう私が攻撃開始の合図として風の魔法を撃ち放ち、先頭の死体を数体削り取った。

 それを皮切りに潜んでいた魔法使い達が周囲の建物から一斉に魔法を撃ち出して死体集団の数を減らしていく。

……数は減ってるけど勢いが止まらない。というより思ったよりも仕留められてない?

 魔法は確かに命中しているのにそれを受けてなお死体達は這いずるように移動を続けていた。

「……元が死体だから痛みで怯まないし、致命傷も関係ないって事か」

 よくよく死体達を見ればあちこち損傷しており、魔法が効いていないというわけではないようだが、ただ攻撃するだけでは進行を止められないようだった。

たぶん他の魔法使いもそれに気付いてるはず……だから私のすべき事は…………。

 思い立ち、急いでその場を離れた私は防壁を張って待機している前衛組の元へと向かう。

 その間も攻撃役の魔法使い達が死体達の足下を狙って魔法を撃ち、機動力を削いでいるのが見えた。

 倒せなくても足を封じればおのずと進行は遅くなり、四肢を吹き飛ばせば当然身動きが取れなくなる。

 だからああいった倒せない手合いには有効な手段なのだが、あの死体達は元々がこの街の住人だっただけに、ああも惨い姿を晒させるのはどうしても忌避感が拭えない。

……まだ原因は分からないけど、もしこれが誰かの仕業だとしたら私はそいつを絶対に許さない。

 動く死体となって呻く住民達の惨い姿を目にした私は心の内にそんな決意を秘め、急ぐ足に力を込めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

異世界は選択の連続である[Re:] ~ブラック社員、自らのチート能力に叛逆す~

八白 嘘
ファンタジー
異世界に転移した主人公・鵜堂形無に与えられたのは、選択肢が見える能力 青枠は好転 白枠は現状維持 黄枠は警告 赤枠は危険 青い選択肢を選べば、常に最善の結果が得られる 最善以外を選択する意味はない 確実な成功を前にして、確実な失敗を選ぶことほど愚かな行為はないのだから だが、それは果たして、自らが選択したと言えるのだろうか 人は、最善からは逃げられない 青の選択肢を与えられた形無は、神の操り人形に過ぎない だからこそ── これは、神に与えられた"最善"に抗う物語である 八白 嘘 https://x.com/neargarden

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯
ファンタジー
 VRMMO『無題』をプレイしていた雪乃の前に表示された謎の選択肢、『この世界から出る』か『魔王になる』。  魔王を拒否して『この世界から出る』を選択した雪乃は、魔物である樹人の姿で異世界へと放り出されてしまう。  人間に見つかれば討伐されてしまう状況でありながら、薬草コンプリートを目指して旅に出る雪乃。  自由気ままなマンドラゴラ達や規格外なおっさん魔法使いに助けられ、振り回されながら、小さな樹人は魔王化を回避して薬草を集めることができるのか?!    天然樹人少女と暴走魔法使いが巻き起こす、ほのぼの珍道中の物語。 ※なろうさんにも掲載しています。

俺にとってこの異世界は理不尽すぎるのでは?~孤児からの成り上がり人生とは~

白雲八鈴
ファンタジー
 孤児として生まれた上に黒髪の人族として生まれて来てしまった俺にはこの世界は厳し過ぎた。化け物を見るような目。意味もなく殴られる。これは、孤児である俺が行商人を経て、成り上がるまでの物語である。  LUKが999なのに運がいい事なんてないのだが?何かがおかしい。  ちょっと待て、俺は見習いのはずだ。この仕事はおかしいだろう。  デートだ?この書類の山が見えないのか?  その手はなんだ?チョコレートだと?  アイスはさっきやっただろう!  おい!俺をどこに連れて行く気だ!次の仕事!!    言い換えよう。これは孤児から商人見習いになった俺の業務日誌である。  俺はこの理不尽な世界を生き抜けるだろうか。 *主人公の口調が悪いです。 *作者に目が節穴のため誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿させていただいております。 *今現在、更新停止中です。完結は目指す心づもりはあります···よ。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

第一章完結『悪魔のなれの果て』 英雄の子孫がクラス無しとなり、失意の果てにダンジョンで出会った悪魔に能力を分け与えられたので無双します。

マツヤマユタカ
ファンタジー
代々英雄を輩出してきたテスター侯爵家の長男として生まれたジークは、十五の歳に執り行われるクラス判 定において、クラス無しとの神託を受けてしまった。クラス無しとなれば侯爵家を継ぐことは出来ないと、 悲観するジーク。だがクラスは無くとも優れた称号があれば侯爵家を継ぐことが出来るのではと思い立ち、 最高クラスの称号である『ドラゴンスレイヤー』を得ようと、最上級ダンジョンに足を踏み入れる。 そしてついにドラゴンとまみえたその時、一緒に組んだパーティー仲間に裏切られることとなる。 彼らはジークの叔父に当るベノン子爵から依頼され、ジークを亡き者にしようと企んでいたのだ。 前門にドラゴン、後門にAクラスパーティーという絶体絶命のピンチであったが、 突如聞き覚えの無い声がジークの頭の中に響き渡る。ジークはその声に導かれて走った。 ドラゴンから逃れるため、パーティーから逃れるため、そして必ず生きて帰ってベノン子爵に復讐するため に、ジークは必死にダンジョンを駆け抜けるのであった。

処理中です...