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第二章 エルフのルーコと人間の魔女

幕間 魔女と賢者の考察

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 拠点に戻る帰り道、眼下を走る魔動車を箒で追いかけながら、私は今回の一件についてを考えていた。

 昔お世話になったゼペルからの依頼、相手がジアスリザードの群れだったとはいえ、決して侮ったつもりはない。

 確かに依頼を託しはしたが、三人の実力なら大丈夫だと思っていたし、もしもに備えて私も気付かれないよう現地に着いていく手筈だった。

 しかし、実際は戦闘に間に合わず、着いたのは終結する直前、それも一歩間違えばルーコちゃんが命を落としかねない状況で、本当に自分の見通しの甘さを呪いたくなった。

「――――どうしました?浮かない表情になってるっスよ」

 どうやらいつの間にか思考が顔に出ていたらしく、並走するリオーレンが怪訝な表情を浮かべて尋ねてくる。

「……別に、何でもない。ただ今回の依頼について考えてただけだよ」
「……なるほど、確かにあのジアスリザード達の群れは異常でしたし、これからもああいう魔物が現れる可能性を考えれば憂鬱っスよね」

 暗い思考を振り切り誤魔化すようにそう答えた私の心情を読み取ったのか、リオーレンはあえてルーコちゃん達の事には触れず、群れについてを軸として話を進めてくる。

「そうだね。今回は早い段階で討伐する事ができたから良かったけど、また現れた時に都合よく倒せるとは限らないそれに……」
「あの群れからは人為的な臭いがする……ですよね?」

 核心に迫るリオーレンの言葉に頷きを返した。

「……ああ、通常よりも遥かに高い学習能力に個体として異常なまでに突出したキングの存在……疲弊した騎士団と偶然かち合った事に加えて、一番不可解なのが――」
「キングが所持していたらしい大刀と鎧の出処っスね」

 そう、ノルン達の話によればジアスリザードキングはその異常な大きさに見合うだけの装備を揃えていたいたらしい。

 通常の個体の装備は騎士団から奪ったものだとしても、キングの大きさにあった鎧や大刀は手に入らないし、まして自分達で作れる筈もない。

 つまり、という事になる。

「誰が何の目的で武器を渡したのかは分からないっスけど、確実に関与はしているっス。それが武器だけの支援なのか、あの異常さにも関りはあるのかは現時点だと不明っスね」

 仮にあの異常性が人為的だとするなら、関与している誰かは魔物に手を加える手段を持っているという事だ。

「……魔物に干渉する魔法や魔術があるのは知ってるけど、その使い手となると、見つけるのは難しいかな」
「っスね……ボクらみたいな二つ名持ちの魔法使いでもない限りは自分の手札は秘密にするもんっスから」

 その手の魔術を扱う〝魔女〟や〝賢者〟が黒幕なら話は早いが、流石にその称号を持つ人達が今回の件に関与しているとは考えづらく、結局、話を聞くことくらいはできても、それ以上はやりようがないのが現状だった。

「何にせよ、この件はギルドで情報の共有を図るくらいしかできなさそうだね」
「一応、ボクの方でもその手の術に詳しい知り合いを当たってみるっスよ。あんまり期待はできなさそうっスけど」

 確実ではないにしろ、今回みたいに異常性を持った魔物がこれからも出てくるとしたら、それは討伐に出る冒険者の被害も拡大していくという事……ギルドとしても対処せざるを得ないだろう。

「……後手に回ってる感が否めないけど仕方ない、か」

 結局、目的も正体も分からない以上、事が起きてからでないとどうする事もできず、ひたすらにもどかしさが募った。

「まあ、ここでこれ以上考えても答えは出ないっス。今は裏に誰かがいるってわかっただけでも良しとしないと」
「ん、それもそうだね…………あ、そうだ。なんだけど、協力してもらえそうかな?」

 その言葉にひとまず納得し、思考を切り替えて依頼の前に頼んでいたある事についてをリオーレンに確認する。

「例の……ああ、アレの事っスね。言われた通りボクが話を通せる範囲で頼みましたけど、どうにも旗色が悪いっス。正直、望み薄だと思いますよ」
「……そっか、私の伝手でも色々な人に頼んだんだけど、やっぱりいい返事はもらえなかったんだよね」

 まだ連絡待ちの知り合いはいるけれど、これまでの様子からいい返事はもらえないだろう。

「……ボクがその役割を担えれば話は早いんスけど、あくまで必要なのは〝魔女〟っスからね」
「……うん、まあ、必要になるまでにルーコちゃんが実力を示せればまた違ってくるだろうし、待つしかないか」

 とはいえ、今回の依頼での戦いぶりを踏まえて考えると、そう遠い未来ではないのかもしれない。

 少なくとも今のルーコちゃんの実力は一級以上ある……けど、このままじゃ駄目。たとえその称号を得ても今の彼女はそれに圧し潰されてしまう。

 今回の依頼で様々な不安の種が芽吹き始めてしまった。

 魔物の脅威に謎の黒幕、自分の命すら天秤に掛けるルーコちゃんの危うさ、そして必要なのに協力を仰げない私以外の〝魔女〟。

 その全てにおいて私にはできる事がほとんどないのが現状だ。

「はぁ……どうにもままならないなぁ……」

 〝魔女〟と呼ばれる実力を以てしても、どうにもできない事だらけの今を前に心の底から深い溜息が零れた。
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