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第二章 エルフのルーコと人間の魔女

第46話 納得と理由と立ち上がる私

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━━ちょっとどうしてあんな危険な技を使ったの!?ルーコちゃんにもしもの事があったらどうするつもり!!

━━どうも何もこれは木刀だから問題ない。悪いが僕にも加減をする余裕がなかったんでな。

 遠くに誰かの言い争う声で目を覚ました私は朦朧とする意識の中、自分の状況を把握するために辺りを見回すべくと身体を動かそうとした。

痛っ……!

 その瞬間、身体に痛みが走り、苦悶の声を上げそうになる。

何……この激痛……それに手足に力も上手く入らない……どうして……。

 まだ混乱する頭で状況を整理しようとするも、激痛と倦怠感が邪魔をして上手く把握できない。

確か私は……模擬戦をしてて……それから……っ!?

 一つずつ出来事を振り返っている内にようやく自分のに何が起こったかを思い出した。

 そうだ……私はトーラスさんのに吹き飛ばされて……一瞬、気を失ったのか……。

 ようやく全てを思い出し、目線だけ動かして言い争いが聞こえてくる方を向くと、完全に戦闘態勢を解いたトーラスにサーニャが詰め寄っているのが見える。

私はまだ負けてない……まだ戦える……!

 激痛に脂汗を滲ませながら必死に身体を動かして立ち上がろうとするが、やはり上手くいかずに何度も地面に這いつくばってしまう。

「うっ……く……」

 それでも諦めずに呻き声を漏らしながらもがき、無理矢理にでも全身に力を込めて少しずつ立ち上がる。

「━━ルーコちゃん?」

 立ち上がった私に気付いたアライアが怪訝な表情で駆け寄ってくるのを手で制し、戦闘態勢を解いたトーラスを真っ直ぐ見つめた。

「わ……たしはっ……まだ……戦えますよ……」

 立ち上がり、ふらふらとした足取りながらも戦う意思をみせる私に言い争っていたサーニャが表情を曇らせる。

「ルーコちゃん……どうして……」

 そのどうしてにはたぶん、この模擬戦にそこまでする意味はあるのかと問うているのだろう。

 確かにこれはただの模擬戦、トーラスに認めてもらうという意義はあるものの、実際のところ勝とうが負けようが大きな意味はない。

 元々乗り気じゃなかった模擬戦だ。それこそこんな立つのもやっとの状態で無理をする場面じゃないのは私もわかっている。

 けれど、これから私は強大な力を持つ〝創造の魔女〟と肩を並べなければならない。

 それが模擬戦で格上相手とはいえ、訳も分からないまま終わりたくない……ううん、

「こんな……ところ……で……負けられ……ない……んです……わた……しは……〝魔女〟になるんです……から……」

 サーニャの問いにそう答え、大きく息を吸いながら呼吸を整えて覚悟を決めた。

「“━━命の原点、理を変える力、限界を見極め絞り集める……〟」

 未だに戦闘態勢を解いたままのトーラスに対し、今ならいけると判断した私は自身の切り札である『魔力集点コングニッション』の詠唱を口にしつつ、魔力を身体の中心に集め始める。

「……もう決着はついただろう。まだ続けるつもりか?」

 ぼろぼろの状態で詠唱をする私に眉尻を下げ、サーニャと同じような問いを重ねてくるトーラス。

 やはり模擬戦でここまでする私を奇異に思っているのだろうが、そんなこと関係ないと詠唱の続きを以て応えた。

「〝っ先へと繋がる今が欲しい、種火を燃やして魔力を……」

 なおも続く痛みに耐えながら詠唱を紡ぎ、集めた魔力を一気に練り上げる。

「━━はい、そこまで」

 詠唱が完成する寸前、アライアが二人の間に立ち、模擬戦の終了を宣言してきた。

「なっ、ちょっと待ってください!私はまだ……」

 せっかくそこまで紡いだ詠唱が崩れる事も厭わずに突然割って入ったアライアに抗議の声を上げるも、その真剣な顔が目に入り、思わず言葉を止めてしまう。

「審判の私が終わりといったら終わり。模擬戦でこれ以上の怪我は見過ごせないからね」

 異論は許さないといった強い口調で会話を打ち切ったアライアは私の方に近付き、そのまま身体を抱きかかえようとしてきた。

「へ、ちょっ、アライアさんっ!?」

 有無を言わせないアライアの行動に驚き戸惑い、僅かに身じろぎして抵抗を示すも、痛みのせいで上手くいかず、いなされてそのままあっさりと抱えられ、連れていかれてしまう。

「はいはい、文句はその怪我を治療してから聞くよ。サーニャ、先に入って準備しておいて」

 てきぱきとサーニャに指示を出したアライアはその場で振り返り、トーラスの方へと声を掛けた。

「トーラスも怪我してるでしょ?一緒に治療するからサーニャと一緒に入ってて」
「……いや、僕は別に」

 大した怪我じゃないと続けようとしたトーラスにアライアが一言、そういうのはいいから早くして、とばっさり切り捨てる。

「……分かりました。先に行ってます」

 アライアの一言で意気消沈した様子のトーラスは言葉に従って隣を通り抜け、扉に手を掛けたところで何故かこちらの方を振り向いた。

「……トーラス?」

 突然足を止めて振り返ったトーラスに怪訝な顔をしたアライアが呼びかけると、一瞬、考えるような仕草を見せてからはっきりと私の方に視線を向けて口を開く。

「……正直、僕は君の事を舐めていた。可哀そうな立場を利用してアライアさんに取り入っただけの奴だと……しかし、模擬戦をしてみてそれが誤解だと分かった。だから……その、なんだ……これからパーティとしてよろしく頼む、
「……え?」

 どこか照れくさそうにそっぽを向きながら早口でそう言うと、トーラスは私が戸惑っている間に家の中に入ってしまった。

ぱーてぃとしてよろしくって……それに私の名前を……?

 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので頭が上手く回らず、混乱してしまい、言われた意味を理解できない。

「……全くトーラスも素直じゃないね。いや、ある意味では素直なのかな?」
「えっと、その、アライアさん?今のって……」

 どこか楽しそうで嬉しそうなアライアにトーラスの言葉の意味を問うと、彼女はにんまりとした笑顔を浮かべて答えてくれる。

「んーあれはね、要するにトーラスがルーコちゃんの事を認めたって事だよ。そのまま言葉にするのは恥ずかしかったのか、少し濁してたみたいだけどね」
「……そういう意味だったんですか」

 トーラスに認められるという狙いは達成できたものの、模擬戦に負けた私が認められたというのが腑に落ちない。

「何か納得いかないって顔だね」
「……だって私は負けたんですよ?それも最後は何をされたかわからないままやられて……それなのに認められたっていうのがちょっと」

 これが接戦の末に負けたというならまだ認められたというのも分かる。

 けれどさっきの模擬戦は違う。

 私も多少攻撃こそ加えていたものの、結局、圧倒的な技の前に為すすべなくやられてしまった。

 アライアに止められなければ『魔力集点』を使ってもっと良く立ち回れるところを見せれたかもしれないが、そういった場面もなしにあれだけ私を目の敵にしていたトーラスがどうして認めてくれた理由が分からない。

「……これは私の勝手な推測だけど、トーラスは初めからこの模擬戦の結果に関係なくルーコちゃんを認めるつもりだったんだと思う」
「え……?」

 模擬戦が始まる直前、トーラスは私がぱーてぃに相応しくないと証明してやると言っていた筈だ。

 それなのにアライアに言う通り、トーラスが結果に関係なく初めから認めるつもりだったというならその言葉と大分食い違ってくる。

「もちろん、もしルーコちゃんがすぐにやられていたら違っただろうけど、きちんと戦えるのが分かればそれでよかったんだ。でないとこの模擬戦の形式上、の魔法使いは不利だからね」
「で、でも私とアライアさんの時も同じ形式でしましたよね?」

 昨日と今日と模擬戦をしたが、この形式を特別不利だとは感じなかった。にもかかわらず、魔法使いが不利だというのはどういうわけなのだろうか。

「あれは私達二人共が魔法使いだったからね。剣士と魔法使いだったらあの距離は詠唱する前に詰められてしまうから圧倒的に不利なんだよ」
「……それで普通のってつけたんですか」

 魔法使いは遠中距離から攻撃するのが一般的で、私みたいに強化魔法で接近戦を仕掛けない。故に私は不利を感じなかったという事だろう。

「うん、現にトーラスはルーコちゃんの戦い方に驚いてたでしょ?あの子は戦う前から一級剣士である自分が魔法使いに負けるなんて微塵も思ってなかった。だから内容で判断しようとしたんじゃないかな」

 言われてみればアライアの言うように模擬戦中のトーラスの態度はそういう風に感じられた。という事はやはりアライアの推測は間違っていないのかもしれない。
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