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第二章 エルフのルーコと人間の魔女
第33話 資格と決意と魔女からの提案
しおりを挟む八方塞がりかと思われたこの状況でもたらされたアライアからの思わぬ一言。
その中に含まれている森へ戻るための方法を聞くべく、私はアライアの方へと視線を向けた。
「私が森に入っても咎められない方法があるっていうのは本当なんですか?」
そんな方法があるならどうしてここまで言わなかったのかという疑問を覚えながらも、そう聞き返すと、アライアはどこかばつが悪そうに答える。
「……本当だよ。ただし、この方法が上手くいくかどうかは君次第……下手をすれば何年、何十年、いや、一生かかっても上手くいかないかもしれない」
「アライアさん……それって……」
悪態をついてから黙っていたサーニャもその方法に行き着いたらしく、まさかといった表情でアライアを見つめていた。
「……冒険者を取りまとめる組合、あるいは各国から与えられる資格……その最高位のいずれかを得る事。それが立ち入り禁止の場所へ合法的に入るための唯一の方法だよ」
アライアの口から語られたその方法に私は思わず眉をひそめ、首を傾げる。
「資格……ですか?」
冒険者を取りまとめる組合や各国から与えられると言われても、狭い森の中の集落で暮らしてきた私にはいまいちよく分からない。
「ああ、各分野に於いてそれだけの能力を持っていると判断される指標で、特に私達冒険者にとっては依頼を受ける上での判断基準にされる重要なものなんだ」
「はあ……えっと、それを得る事がどう森の中に入る事に繋がってくるんでしょうか?」
資格についての説明を聞いてもやはりぴんとはこない。
なんとなく理解できたのは、その資格とやらが上になればなるほど大きな依頼が受けられるという事くらいだ。
「……この資格の最高位を得たものにはいくつかの特権が与えられる。その中の一つが各国の定めた立ち入り禁止区域への立ち入り許可なんだよ」
なるほど、確かに私がその資格を得る事ができれば合法的に森に戻る事ができる。
けれど、アライアとサーニャの反応からしてその資格の取得が困難である事は想像に難くなかった。
「……その資格を得るためにはどうしたらいいんですか?」
たとえ困難だろうと他に手段がないのなら私はその方法に頼るしかない。まあ、それも駄目となれば最終的に最初に思い付いた案を実行する他なくなるのだが。
「そうだね……組合か、各国にある専門の機関に申請して一番下の資格から始め、実績や成果を上げつつ、定められた条件を満たして段階的に上げていくのが一般的かな」
「実績に成果……」
話を聞く限りだと、その方法では最短でも数年は掛かりそうだった。
それなら当初考えていた案で、迷惑が掛からないよう別れ、一人で調べてこっそり森に戻った方が早いだろう。
「でもそうやって普通に上げて最高位を目指そうと思ったら時間が掛かっちゃう上に辿り着けるかもわからないじゃないですか。それなら……」
やはりというべきか、サーニャもその事実を分かっているようでそう指摘し、何か言いたげにもう一度アライアの方を見やった。
「……私が森に入って彼女の姉の無事を確認してくればいい、と?」
言わんとしている事を察したアライアがそれをそのまま口にして切り返すと、サーニャは少しの躊躇いを含んだ首肯を持って返す。
私が……という事はアライアさんはその資格を持ってるってこと……?
二人の会話からその事実に気付き、どういう事かとアライアに問うような視線を向けた。
「……確かに私はさっき挙げた資格の中で魔法使いの最高位、〝魔女〟の称号を持ってる。けど、私はルーコちゃんのお姉さんの顔も集落の場所も分からないんだ。そんな中、一人であの広く危険な森を探し回るのは流石に無理だよ」
力なく首を振って肩を竦めるアライア。言われてみれば確かに住んでいた私ですら外に続く道は半ば手探り状態で、たぶんここだろうと当たりをつけて進んでいた。
なんなら最後は気絶していたからあそこからどれだけ進んだのかも分からない。
それを全く地理に明るくないアライアが一人で向かえば迷う事は必至、はっきり言って自殺行為だ。
「……でもアライアさんならそれくらい出来るんじゃ」
「無理、だね。あくまで立ち入り禁止区域に入れるのは称号持った人だけ。いくら強くても一人じゃ遭難するだろうね」
食い下がるサーニャの言葉をアライアはばっさり切り捨てる。
アライアの言う通り、一人では他に任せる事が出来ないため、自分で魔物への警戒をしなければならず、録に眠る事すら出来ない。
まして、全く知らない場所、それも森の中ではいつどんな魔物が襲ってくるか分からないのだからそれだけでも精神的に削られてしまうだろう。
「……つまり、合法的に姉の無事を確認するためには私がその資格を取るしかないって事ですか?」
「そう……なるね。一応、私も組合の方に特例を出してもらえないか問い合わせては見るけど、やっぱりルーコちゃん自身が資格を得るのが一番確実だと思う」
あえて合法的という部分には触れずに返答してきたアライアへ視線を返しつつ、これから自分がどうすべきを改めて思案する。
……私には外の世界に伝手もなければ、宛もない。知らない事だらけの状態だ。
そんな中で何かを調べようと思ったらこの人達を頼る他ないし、そうなると私が非合法に森へと戻れば必然的に迷惑を掛ける事になる。
最初に考えた案もある程度は時間が掛かるだろうし、結局のところ今すぐに姉の無事を確める手段がない以上、ひとまずはその資格を得る事を目的に動くしかないのかもしれない。
……上手くいくかどうかは私次第、か。
正直、才能のない私にそんなものが取れるとは思えないが、それでもこの方法以外に全ての希望を通す事が出来ないのならやるしかない。
「……アライアさん、聞いてばかりですいませんが、その最高位の資格というのを取るためには具体的にどうすれば良いですか?」
大まかな方法は聞いたものの、私はまだ実績や条件の内容といった細かな部分をまだ知らない。
ひとまずの方針を固めてその方法を取るという意思と共にアライアにそう尋ねる。
「そうだね……ここで詳しい内容について説明をしてもいいんだけど……その前に一つ……いや、二つ聞いても構わないかな?」
「え、あ、はい。別に良いですけど……」
意気込んで聞いたのに、どこか肩透かしをくらった気分になった私は戸惑いつつも、そう返した。
「じゃあまず、さっき経緯を聞いた時にルーコちゃんが戦える事は分かったんだけど、君の一番得意な戦い方は何かな?」
「一番得意な戦い方……ですか?」
どうしてそんな事を聞くのかと一瞬、疑問に思ったが、すぐにこれも資格に関係した質問なのだと察して少し考えてから答える。
「……やっぱり魔法を使った中遠距離戦ですね。弓も少し使った事はありますけど、そんなに得意じゃありませんし、他の武器も使えませんから」
あとは強化魔法で多少の接近戦も出来なくはないが、それも専門の人達には敵わないだろうから得意とは言えない。
「なるほど……ならルーコちゃんは魔法使いの方向で…………」
「……?」
一人でぶつぶつと呟いているアライアを訝しげな視線を向けていると、言葉をばっさり切り捨てられてから黙り込んでしまっていたサーニャが暗い表情のまま話かけてくる。
「……その、ルーコちゃん……ごめんなさい。私がアライアさんを上手く説得できれば良かったんだけど……」
「……謝らないでください。サーニャさんは見ず知らずの私を気にかけて、アライアさんに抗議までしてくれたんですから、むしろ私がお礼を言わないといけないくらいです」
もし私がサーニャの立場だったら見ず知らずの誰かのためにここまではできないと思う。だからどうにもならない話を自分のせいにして謝らないでほしい。
「ありがとうございます、サーニャさん。見ず知らずの私に良くしてくれて……この恩は必ず返します」
「ルーコちゃん……」
「…………あー……話かけてもいいかな?」
少し気まずそうに声を掛けてきたアライアにサーニャは慌てて頭を下げて場所をどき、私は大丈夫だと言って話に応じる。
「えーと、それじゃあ傷の方はもう大丈夫かな?」
「あ、はい。おかげさまで。もうすっかり良くなりました」
元々、ある程度の傷は姉の魔法で治療済みだったし、重症だった左腕もアライアに治してもらい、さらにしばらく眠っていた事もあって体力も万全といえる状態まで回復している。
「そっか……それは良かった。それなら遠慮なく次の提案ができる」
「次の提案……?」
この後は資格についての詳しい説明をしてくれると思っていただけについ怪訝な顔を浮かべてしまう。
「ルーコちゃん、ちょっと私と戦ってみようか」
「……え?」
唐突なアライアからの提案に思わず呆けた声を漏らしてしまった。
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