上 下
27 / 30
オラクルハイト襲撃編

第27話

しおりを挟む


「ピョートルさん、10番テーブルのお客様がビーフストロガノフと冥界ザクロのケーキを注文しました!」

「かしこまりました。すぐにお作り致します」

エマがピョートルの店に雇われてからはや3日。エマはレストランで自分の魔法を駆使しながらバリバリ働いていた。

「人手が不足してたからエマちゃんの魔法は本当に助かるよ!」

「ありがとうございます!」

ピョートルの店に勤務する他の亡霊からも、エマの魔法は好評だった。そして、今日もレストランでの1日が終わった。

「ふう、お疲れ様ですエマさん」

「ピョートルさんもお疲れ様です」

レストランの閉店後、エマはピョートルと共にバックヤードで紅茶を飲みながら一息ついていた。しかし、そんなエマも、現世の事を心配していた。

「あの…ピョートルさん」

「なんでしょう?」

「わたし….やっぱり現世の事が心配です」

「現世ですか?」

「はい。実はわたし、殺されたんです。魔王アムダールに」

「え…」

ピョートルは魔王の名を聞き、動きが止まる。

「まさか…アムダールは生きてたのですか…?」

「わたしは生前、イレイン王国の魔法都市、オラクルハイトのエデン魔術協会という組織に所属していました。そこで魔王アムダールが人狼族の肉体や魔石を元に復活したとの情報を聞いたのです」

「なんと…」

「そして、わたしはその魔王アムダールに殺されました。そしてこの冥界に来たのです」

ピョートルとエマの間に緊張が走る。そしてしばしの間静寂が訪れた。しかし、その静寂は直後に終わりを告げることになる。

チリンというレストランのドアを開けた際に鳴る鈴の音が響く。その音を聞き、ピョートルとエマはバックヤードから出て食堂に向かう。

「失礼するわ。この時間帯はもう営業時間外かしら?」

レストランの入り口のドアを開けて現れたのは、白を基調とした服に身を包んだ魔法使いだと一眼で理解できる人物だった。

「ああ、申し訳ありません。今は夜間の営業が始まる前の時間帯ですのでまだ開店時間では….って、あなた様はまさか!」

ピョートルのその言葉に、エマもその魔法使いの姿を見てハッとする。

「まさか…伝説の魔法使い、シャルロット・クローリー…?」

「あら、わたくしを知っているの?」

シャルロットはそう言うと、ピョートルとエマににっこりと微笑む。

「その白を基調とした服!忘れもしません、あなた様は魔王アムダールを倒したシャルロットその人ですよね!」

「そうよ。わたくしもこの冥界で過ごしているの。さて、このレストランで一番高い料理をいただこうかしら?」

「営業時間外ではありますが、料理の提供をさせていただきます!エマさん、ご準備を!」

「はいっ!」

ピョートルとエマは急いで厨房へと向かった。

「ふふ、これがフォンテーヌの料理ですか。中々美味しいわね」

「ありがたき幸せ…!」

ピョートルはそう言うと、シャルロットに敬礼をした。

「エマさん、これはチャンスかもしれません」

「えっ?チャンスって?」

「もしかしたらあなた様は現世に帰る事が出来るかもしれないという事ですよ」

「それって…現世に生き返れるという事ですか?」

ピョートルとエマは食事をするシャルロットの側でそう会話をする。その会話が終わると同時に、シャルロットの食事も終わったようだ。

「ごちそうさま。美味しかったわ」

「シャルロット様、少しだけ私共のお話しを聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」

シャルロットがナプキンで口元を拭き終わってから頃合いを見てピョートルはシャルロットに声を掛ける。

「何かしら?」

「こちらのエマさんという少女は現世からこの冥界にやってきてまだ日が浅いのですが、死因は魔王アムダールに致命傷を負わされた事なのです」

「….なんですって?」

シャルロットは魔王アムダールという名詞を聞き、表情がこわばる。

「わたしは生前にイレイン王国のオラクルハイトという魔法都市に暮らしていました。そして、エデン魔術協会という組織に所属し、そこで働いていました。しかし、ある日突然魔王アムダールがオラクルハイトを襲撃し、わたしもアムダールに殺されたのです」

「やっぱり…あいつ生きてたのね…」

シャルロットはエマの話を聞き戦慄する。それと同時に座席を立ち上がり、エマの手を取った。

「エマはこれからどうしたいの?」

「わたしは….」

エマはシャルロットに手を握られ、問いかけられる。そして、しばしの沈黙の後、答えを出した。

「この冥界を抜けて、オラクルハイトに戻りたいです。アムダールを倒さなきゃ、わたしの大切な人達も殺されてしまうだろうから」

エマはシャルロットを見つめてそう言った。

「そっか。それならまずはこの冥界を治める死の女王のメルセデスに話をつけなきゃね!行こっか!ピョートルはどうする?」

「私めも同行致しましょう。冥界の抜け道を存じております故」

「決まり!2人とも、私について来て!」

シャルロットはエマとピョートルの手を取り、レストランから出てメルセデスの住む場所へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

賢者の兄にありふれた魔術師と呼ばれ宮廷を追放されたけど、禁忌の冴眼を手に入れたので最強の冒険者となります

遥 かずら
ファンタジー
ルカスはバルディン帝国の宮廷魔術師として地方で魔物を討伐する日々を送っていた。   ある日討伐任務を終え城に戻ったルカスに対し、賢者である兄リュクルゴスはわざと怒らせることを言い放つ。リュクルゴスは皇帝直属の自分に反抗するのは皇帝への反逆だとして、ルカスに呪いの宝石を渡し宮廷から追放してしまう。 しかし呪いの宝石は、実は万能の力を得られる冴眼だった。 ――冴眼の力を手にしたルカスはその力を以て、世界最強の冒険者を目指すのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...