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オラクルハイト襲撃編
第25話
しおりを挟む「ここは….」
エマは仄暗い空間で目を覚ました。そこは洞窟のようで、足元には黄色に輝く花が咲き乱れていた。
「お目覚めのようですね」
エマは声がした方向を見た。そこには、絵本に出てくるような白い身体の幽霊が椅子に腰掛けていた。
「幽霊….!?あなたは….?」
「ああ、申し遅れました。私はピョートル。冥界の案内人兼、料理人でございます」
ピョートルと名乗った幽霊はエマに丁寧に深々とお辞儀をした。
「わたしの名前はエマです。あの、ここって一体どこなんですか…?冥界って言ったましたが、まさかわたし…」
エマは恐る恐るピョートルに現在地の情報を聞く。
「そうです。ここは冥界です。死んだ人間達の魂が集う場所。残念ながらあなたは亡くなりました」
「あーーー」
そう、それは魔王アムダールの襲撃によって炎上するオラクルハイトの魔術協会での事だった。
エマやクロエ、ヨセフはいつもの通り魔術協会での仕事を終え、夜になり、帰る為の支度をしていたところに、魔王アムダールが襲撃した。
アムダールは魔術協会の屋上から侵入し、魔物や魔族達の怨念を凝縮した思念体を魔術協会に放つ。魔術協会は瞬く間に炎に包まれた。
『敵襲警報!!魔力感知!!この魔力反応はーーー魔王アムダール!?』
魔術協会の職員が焦りながらモニターを見て魔王アムダールが襲撃した事を告げる。
「チッ!!もうここに来たのか!!ヴァイス、シュバルツに命じる!!アップデートされた全機能を持って魔王アムダールを殺害しろ!!」
『御意』
そして魔術協会の司令塔のヨセフが2体のホムンクルスにそう命じる。ホムンクルス達は格納庫から飛び出し、アムダールが待ち受ける闇の中へと消えていった。
「ヨセフ様!我々はどうしますか?」
「まずは魔術協会半分の建物からの脱出だ!クソっ、こんな事になるなんて….!」
「で、ですが我々には2体のホムンクルスがいます!これで魔王を殺害できれば…」
「そうだね。わずかな期間だったけどヴァイスとシュバルツのアップデートには成功した。これで魔王を殺す….!!人狼ごときの身体を手に入れた程度で調子に乗るなよ….!!」
こうしてヨセフ達含む魔術協会の職員も避難へと入った。しかし、ヨセフ達のホムンクルスがアムダールを倒すという計画も、全てが頓挫する事になるーー
「土人形の密集陣形(エメス・ザ・ファランクス)!!」
「さあみんなこっちだよ!!」
魔術協会本部の5階の大広間。ここでエマとクロエが自身の魔法を駆使して逃げ遅れた職員達を避難させて回っていた。エマの土属性の人形の魔法が、アムダールが作り出した残留思念から職員を守っていた。
しかし、完全に残留思念の攻撃を完全には防ぎきれず、攻撃される職員もいた。
「うわぁっ!!」
「桜色の泡沫(ブロッサムカラーバブル)!!」
クロエが杖を出現させ、水属性の巨大な泡が出現する魔法でエマの土人形で守りきれない職員を残留思念の攻撃から守る。
「ありがとうございます、クロエさん!!」
「うん!早く逃げて!!」
こうして、クロエとエマはある程度職員を避難させる事に成功した。
「クロエさん!この階の職員は全て避難させました!」
「うん!私達も逃げるよエマちゃん!!」
クロエとエマも魔術協会の建物からの避難を試みる。全力で走る2人。しかし現実は非常である。逃げている最中、クロエの右足に激痛が走った。
「いっ….!!!あああっ!!」
「な、何!?」
見ると、クロエの右足に鋭いレイピアが刺さっていた。
「クロエさん!!」
エマはクロエに駆け寄り、クロエの右足に刺さったレイピアを土の石化魔法で石化させ砕き、クロエの身体から除去する事に成功した。
「ありがとうエマちゃん….」
「大丈夫ですか!?わたしの土人形に運んでもらうので動かないでください!」
エマはそう言うと、土人形にクロエを抱かせ、歩かせる。
「ごめんね…」
「謝らないでください!さあ、早くこの建物から出ましょう!」
エマは走り、クロエはエマの作った土人形に抱かれ急いで出口へと向かう。しかし、現実は非常だった。
ガシャッ、と何かがエマとクロエの頭上から地面へと落ち、床に転がる。それは、ホムンクルスのヴァイスとシュバルツの頭部だった。
「え…..」
「こ、これってヨセフさん達が作ったあのホムンクルスの….!!」
「ククク、やはり高濃度の魔素を含んだ賢者の石は涙が出るほど美味い。桁違いにな。…何だお前達は?」
そして、クロエとエマの前に人狼の姿となったアムダールが姿を現した。
「クロエさん!!まさかこの人….!!」
「ああ。いかにも。俺は魔王アムダール。虐殺された人狼達の恨みと祈りと魔石を依代に現世に復活したのだよ」
「こいつが魔王アムダール…!!」
「でもクロエさん…アムダールは千年以上前にシャルロット率いる勇者達に斃されたはずじゃ…」
「肉体は滅んでも、魂は生きていたのだよ」
アムダールはクロエとエマを見てニヤリと笑う。
「そして。ついさっきそこの女の右足にレイピアを刺したのも俺だ」
「!!」
クロエはアムダールの邪悪な笑みに絶句する。
「あなたは何故こんな事をするの!?何が目的なの!?」
「そうだな…俺の目的は、天使共に支配されたこの世界をもう一度掌握する事だ。その為にオラクルハイトを襲撃した。俺が血肉とした人狼達の魂も、魔術協会の奴らと冒険者の奴らを皆殺しにしろと頭の中で煩いのでな。まずは手始めに魔術協会から襲ったというわけだ」
「そんな….!!」
「さて、話はここまでだ。お前達も殺すとするか」
アムダールはクロエとエマに対する殺意をむき出しにすると、2人に襲いかかる。アムダールは人狼の身体に備わる身体能力を活かし、クロエとエマとの距離を一気に詰める。
「危ないっ!!」
エマの土人形がアムダールの攻撃を受け止める。すると、土人形は一瞬にして崩れ去った。
「きゃあああっ!!」
「エマちゃん!!!」
エマはアムダールの放った蹴りの風圧により吹き飛ばされる。
「くっ…エマちゃんになんて事を!強酸の泡沫(アシッドバブル)!!」
クロエが杖から魔法の泡を放つ。それは、金属をも溶かす酸の魔法だった。強酸の泡はアムダールの腕に命中し、アムダールの腕を焼いた。
「ククク、地味に痛いな。まあ余裕で耐えられるが。もしや魔族への特攻効果が付与されているのか?」
「そうよ!エマちゃんに手出しはさせない!」
「クロエさん!!わたしもまだ戦えます!!土人形の密集陣形(エメス・ザ・ファランクス)!!」
エマもクロエに応戦して土人形の兵隊達を作り出す。
「ほう!!怪我人を庇いいつまでもつかな?紫の冥界(ヴァイオレット・アビス)!!」
アムダールが放った紫の衝撃波により、一瞬でエマの土人形達は破壊されていく。
「あああ….!!」
そしてアムダールはエマの眼前に距離を詰め、そしてーーー
エマの腹を、腕で貫いた。
「エマちゃん!!!!嫌ぁああああーー!!!」
クロエの絶叫を最期に聞き、エマの意識はそこで途絶えた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「あ….じゃあわたし…死んだんだ…」
「はい。残念ながら….」
エマの意識は再び冥界に戻る。ピョートルは悲しそうにエマを見つめた。
「私も冥界の案内人として、あなたの記憶を少しだけ読ませていただきました。辛かったでしょうね。ですが、安心してください。これから暮らす冥界での生活は、楽しみに溢れたものを約束しましょう。まずは私に着いてきてください」
「は、はぁ….」
エマは特に行くあてもなかった為、ピョートルに着いていく事に決めた。
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