転生したら史上最強の猫ちゃんでした~唸れ肉球伝説~

岸谷 畔

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オラクルハイト襲撃編

第23話

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1週間後、妙薬を服用した副作用も終わり、仕事も一段落したスマイルソーサリーのメンバーは、オラクルハイトでも有名な三つ星レストランに来ていた。

「いやー、食った食った!ありがとなブライゼ、ノストラ!」

「良いぞ。お前達には精力をつけてもらわねばな」

「やれやれ、マルタンをはじめとする猫達の分も注文したんでもう財布がスッカラカンですよ。エンゲル係数半端無いな」

スマイルソーサリーの一同は全従業員を連れてオラクルハイトで最も繁盛しているレストランで食事をした。その帰り、満足そうな面々と、それを尻目に財布がスッカラカンになったノストラは憂鬱な表情を浮かべていた。

「てゆうかユーディットもイングリッドも結構食べるんですね。大盛り注文してて驚きました」

「あはは…恥ずかしいところ見せちゃったかな」

「いや良いぞ。ノストラはこう見て金持ちだ。さあ、二次会に行こうじゃないか」

「まだあんのかよ!?わたしの財布はスッカラカンって言っただろうが!!」

にこやかな雰囲気に包まれる一同。その折、突如オラクルハイトの街から爆発音が響く。

「きゃあっ!!!」

「やめろー!!この化け物達がっ!!」

そして響く怒声や悲鳴。それはブライゼやチェス達の耳にも聞こえた。

「ブライゼ、今日ってお祭りとかやる日じゃないよね?」

「ああ。これはーー敵襲か!!」

ブライゼはレストランで飲んだ酒の酔いが一瞬で覚めるような感覚に包まれる。

「お前達!!食後で悪いが戦えるな?」

「うんっ!ボクは大丈夫!」

「アタシらも大丈夫だぜ!」

チェスら率いる猫達とイルミナら率いる魔術師達は臨戦態勢へと入る。

「私とノストラとチェスは敵の本隊を叩く!イルミナ達や猫達は住民の避難を最優先に動いてくれ!では別れるぞ!」

「わかったぜ!行くよみんな!」

ブライゼとノストラは竜の姿に戻り、襲って来た敵の本隊の場所へとチェスと共に移動する。イルミナ達は逃げ惑う街の人間を保護しつつ、安全な場所へと避難させた。しかし、そこに黒い影を纏ったような者達が現れる。

その黒い影達に対して、イルミナやアミーシャらは魔法攻撃で応戦する。影は魔術師達やケットシーの魔法を食らっても平然としていた。

「なんなのこいつら!?全然攻撃が効いてないし手応えもないよ!」

「なら動きを封じりゃいいだろ!金剛石の棺(ダイヤモンド・コフィン)!!」

イルミナは巨大なノギスを出現させ、思いっきり地面を叩く。すると、広範囲がダイヤモンドの宝石に包まれ、黒い影の動きを封じた。

「やった!イルミナちゃん凄い!!」

ユーディットが感動してイルミナにそう言うが、イルミナからは冷静にこう返される。

「そんなこと言ってる場合じゃねえよ!早く街のみんなを避難させないと!!」

イルミナ達は街の住民を安全な場所まで避難させる。しかし、突如イルミナ達の前に風の刃が飛んできた。

「ユーディット!!危ねえっ!!」

イルミナは巨大なノギスでその風の刃を受ける。それに伴ってノギスには少しだけ傷がついた。

「これって…攻撃魔法の突風(ラファル)?一体誰が…」

「てめえらは….何者だ?」

「わしらは人狼族の者じゃ。わしはエドガー、こちらは同じく人狼族のシェーン。今宵このオラクルハイトを襲撃し、魔王アムダールの拠点とする」

「あ?魔王アムダールだぁ?そいつはもうとっくの昔にシャルロット達に斃されたんじゃねえのか?それに人狼族って、人間に帰依する事で人間を襲わないんじゃなかったのかよ」

「復活したんですよ。人間達に殺された人狼の魔石や肉体を依代にして。その魔王にわたし達は嫌々従っています。従わなければ殺されてしまいますから」

イルミナ達の前に、老いた男性と銀髪の女子が姿を現した。その表情は、どこか悲痛だった。そして、二人は人狼の姿へと変身した。

「なっ….変身した!?」

「ええ。これがわたし達のもう一つの姿です。わたし達は人間の冒険者達に殺され、滅ぼされた人狼一族の生き残り。あなた達に恨みはありませんが、死んで貰います」

シェーンはそう言うと、手をかざし、イルミナ達の足元に魔法陣を放った。

「氷河期(アイスエイジ)」

その魔法陣からは冷気が発生し、鋭利な氷柱を夥しく出現させた。

「うおおっ!?翡翠の檻(エメラルドケージ)!!」

「火事場の馬鹿力!!」

シェーンの魔法と、イルミナとアミーシャの魔法がぶつかり合う。三つの魔法がぶつかった直後、辺りは大爆発に包まれた。

「くっ…!!なんだよこの魔力量!デタラメじゃねえか…っ!」

「炎の魔法がかき消された!!相性では上回っているのに…!」

「次はわしが行くぞ。極大突風(ラファルゲイト)」

イルミナとアミーシャの前に、エドガーが放った巨大な衝撃波の塊が現れる。その衝撃波の塊は猛スピードで二人の前に急接近する。

「させない!!愛しきわたしの硝子兵(グラス・オブ・アーミー)!!」

ユーディットが魔術を使い、魔法を帯びた硝子で兵隊を作り、その衝撃波に向かってけしかけた。硝子の兵隊達は粉々に砕け散ったが、衝撃波の塊を消す事には成功した。

「ふむ、少しはできるようだな」

「教えてください!あなた達はなぜこんな事をするのですか!?」

「わたし達の人狼が暮らす里は、人間達と、その人間が作ったホムンクルスに壊滅させられました。金儲けの為に人狼達の魔石を狙うという身勝手な理由で。わたしはもう、人間を許す事はできません」

「そういうことじゃ。わしらも魔王の復活が少しでも遅れていたら殺されていたところじゃった。そして、そのホムンクルスを作った組織はこのオラクルハイトにあると聞いた。魔王アムダールはこの残留思念から生まれた魔物や魔族の思念体を率いて、その組織を潰し、このオラクルハイトも手中に収めると言っていた」

「その組織って何処だよ!?オラクルハイトのスタンスはどんな時でも中立で公平なんだ!魔法や錬金術を悪用する訳がない!」

「エデン魔術協会です」

「なーーーー」

♢♢♢

『敵襲警報。攻撃魔法を覚えていない者は直ちに避難をしてください』

アラートが鳴り響く中、エマは必死に必要な資料を集め、鞄に詰め込んでいる最中だった。

「エマちゃん!!そんなの良いから早く逃げようよ!!!」

「クロエさん!!」

エマはクロエに手を引かれ、強引に資料室を後にした。

「一体何が起こっているんですか!?何が攻めてきているんですか!?」

「わからない!でも今は逃げるんだ!!」

エマとクロエは燃え盛る魔術協会の建物の通路を走り抜ける。しかし、後ろから何かが飛んでくる。

「エマちゃん危ない!!」

クロエが身を挺してエマを庇う。そして、クロエの左脚に何かがグサリと刺さる。それは、刃の部分が長めのレイピアだった。

「クロエさん!!」

「….これでまず一人は行動不能にした」

ズシン、ズシンと力強く地面を踏み鳴らす音が聞こえる。エマとクロエの眼前には、黒い体毛に覆われた人狼が立っていた。

「….まさか….!!人狼が….!!」

「そうだ。そして、ただの人狼ではない。俺はアムダール。人狼の肉体や魔石を依代としてこの世に復活を遂げた魔王アムダールである!!」

♢♢♢

「どうやら火はエデン魔術協会を中心に上がっているようだ。まずは魔術協会に向かう!」

「うん!わかったよ!ボクも戦うから!!」

「頼みますよ、チェス。ここ1週間であなたはとても強くなりました。その成果を見せてください」

「うん!!ボク頑張るから!!」

「ああ。頼んだぞ」

ブライゼからも応援を受けたチェスは照れながらも真剣な目つきでブライゼの背に乗りながら目の前の燃え盛る魔術協会の建物を目指す。

しかし、魔術協会の建物が眼前に迫ったところで、見えない壁に阻まれた。

「これはーー魔障壁か!!」

「何これ!前に進めないんだけど!!」

「クソっ、こんなところで魔障壁に阻まれるとは。これを解除する為には魔障壁に魔力を送っている者を倒して戦闘不能にするしかありません」

「そいつって今何処にいるの!?」

「ここだよ」

チェスは突如聞こえた声に後ろを振り向くと、戦慄した。そこには黒と白の体毛の人狼がブライゼの背の上に立っていたからだ。

「なっ…!!いつからここに!!」

「とりあえず降りて話を聞こうか。導(リード)」

その人狼の使用した禁術と共に、ブライゼやノストラの身体は地面へと降り立つ。

「身体が勝手に….!!そうか、こいつは禁術の使い手か…!!」

ブライゼの背中から降りたその人狼はこう名乗った。

「ボクはパトリック。人狼族の生き残りだ。今宵魔王アムダールの名の下にこのオラクルハイトを征圧し、支配下へと置く。この先の魔術協会に立ち入りたくば、ボクを倒してみせよ!!」

「ブライゼ、戦えるよね?」

「ああ。とりあえず奴を倒すか」

「やれやれ、そうしなければ先に進めませんものね」

そして、パトリックとブライゼ、チェス、ノストラの戦いが始まった。

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