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魔王アムダール復活編

第19話

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「人狼ごときに、我が!!この我がーーー!!!!」

「うむ、やはり魔物や魔族の肉は美味いな。ここまでの魔法を使いこなすのならさぞ魔力を蓄えているのだろうな」

魔王アムダールはイルリットの森の魔物や魔族を片っ端から喰らい尽くしていた。その悪魔のごとき姿に、パトリック、ジーリオ、シェーン、エドガーの4人は戦慄している。

「ふぅ、これで大方この森の魔物や魔族は喰らい尽くしたな。魔力はーーふむ、これだけ貯まれば十分だ。さあ、今夜カトレアに向かうぞ。お前らはある程度戦えるのだろう?露払い程度なら務まるな?」

「あ、ああ。やってやろうじゃねえの」

ジーリオはアムダールの姿に少しだけ怯えつつも、虚勢を張ってそう答えた。パトリック、シェーン、エドガーは意気消沈している。

「ねえ長、本当に人間を殺すの?」

「どうしたものかの。確かに人間はとても醜い事はわしらも目の当たりにしたが、アルフォンスのような者もいたのだ。無抵抗の人間を殺すなど、わしにはとてもできん」

「そうですよね…でも、わたし…人間が許せないかもしれないです….」

「シェーン、ボクは人間と魔族のハーフなんだ。ボクもその対象に入るかな…?」

「パトリックくんは別です。安心してください。一緒にあの里で育ってきた仲じゃないですか」

「うん….でもーーー」

「何を話している?さあ、お前達もこのレイクサーペントの肉を喰らえ。そして魔力と精力をつけて俺の役に立て。もし死ぬなら俺の糧となり死ね」

「…..とりあえず、生はお腹壊すので焼くよ」

パトリックはそう言うと、焚き火を焚いて蛇の魔物の肉を焼き始めた。

♢♢♢

カトレア帝国。それは今この世界で覇権を握る大国である。元々は小国家であり、痩せた土地が広がるばかりの国であったが、蒸気機関を開発した事により目覚ましい発展を遂げた。国民の大半は魔法は使えない一般人だが、機械の開発に長けており、魔法に耐性のある機械兵器を大量に量産し、他国へと攻め込む。イレインを除くエウロフィア大陸の全ての国を掌握し、自身の領地、植民地として取り込んだ。そして、市民革命の混乱が起きているイレイン王国にも攻め込もうとしていた。

「マクスウェル様、ただいま戻りました」

「戻りましたか、セアルダアト」

ナワト王国の宮殿の最上階。そこでは、第一天使マクスウェルと、第二天使セアルダアトが密会をしていた。

「ええ。近いうちにドロシーも来るはずです」

「そうですか。エウロフィア大陸をカトレアが征圧するのも時間の問題ですね。ドロシーもよくやってくれましたよ」

「ふふ、わたくしも戦闘力が高く従順な人間を手に入れる事が出来ましたし、これでもしわたくし達の障害となる存在が現れても対処できますね」

「お待たせー!!マクスにセアル!」

「来ましたかドロシー」

空間を裂いて現れたのは第四天使ドロシーだった。軽いノリでマクスウェルとセアルダアトに話しかける。

「いやー、文明管理って楽しいけど大変だね!三歩先を読んで人形を動かさなきゃいけないからさー!ほんとめんどくさい⭐︎」

「はは、あなたは怠惰ですからね。私やセアルダアトを見習いなさい」

「えー!!人間なんて人猿なんだし、あんなの全員洗脳しちゃえばいいじゃん!!もう、神の意志を汲んで人間管理とかほんと面倒ー!」

「まあまあ。勝手な事をしたら、マルナパリス達のように俺に吸収される事になりますよ?」

「は?それは嫌だよ。アンタの中に入るとか死んでもごめんだから」

「死んでも俺に吸収されるのですよ。さ、これからについての会議をしましょうか。…シエルは?」

「あー、シエル?なんか裏切ったよ」

「は?どういうことか説明しなさい」

「いやね、イレインに空間移動した痕跡があったからデータを調べてみたら天使の反応があったワケ。で、もっと追跡してみたらなんかオラクルハイトの魔術師ギルドにシエルがいてさ、竜が2体出てきてシエルをフルボッコにして、で、それを猫が吸収してた」


「….何故それを俺に説明しなかったのです?」

「だって面倒くさいんだもん⭐︎」

ドロシーはあざとく舌を出しながら手に持った飴を舐めた。

「オイ、どういう事ですか?何か異常があればすぐ俺に言えとあれ程」

「わたくしからも報告致します。魔王アムダールが復活したようです」

「は?オイ…お前達…」

マクスウェルはとてつもない怒りのオーラを全身から沸々と湧き立たせる。それを見ても二人の天使は平然としている。

「ドロシー、あのブライゼとかいう竜はどうしたのですか?しっかりと殺したのでしょうね?」

「うん!胸部切りつけられてのたうちまわってたよ!でもなんだろーね、別にブライゼとかいう竜が死んでようが生きてようがどうでもいいじゃん?私が竜特攻の効果を持つ剣を貸してけしかけた人間に胸部切りつけられて瀕死の状態らしいし、もう死んじゃってるって!」

「確認もしてない癖に…良いですか、物事というのは何事も自分が思い描いた通りには絶対動かないものです。常に三歩先を読んで行動を….」

「また始まったよ説教!ドラゴンなんか怖くないって!あんなのただのデカいトカゲじゃん?私達には聖装っていう奥の手もあるんだしさ!」

「ドロシー、あなたはいざという時に聖装を装備させられる人間がいないではないですか。屈辱ですが、聖装は人間の存在ありきの能力です。俺のように禁断の果実で人間を強化する術を持っておくか、セアルダアトのように信頼できる人間を取り入れるかをしなければ」

「あー面倒くさ!人間なんて洗脳してそれで聖装使って、肉体が耐えきれないから死んだら、それでまた新しいの探せば良いんじゃない?そうね、イレインの王族にマーガレットっていう15歳くらいの女がいるんだけど、そいつ今牢獄に入れられてんのよ。利用しようかなーって思ってる!」

「まあ、どうするかはあなたの自由ですが。でも報告はしてくださいよ?二人とも次はありませんからね」

「はーい!!もう、うるさいんだからマクスは」

マクスウェルは二人の天使をたしなめた。

♢♢♢

舞台は再びスマイルソーサリーに移る。

「(チェス、オイラの声が聞こえるかな?)」

「あっシエル!うん聞こえるよ」

「(良かった~!オイラあの後ブライゼとノストラに君の精神世界に幽閉されちゃってさ、鎖でぐるぐる巻きにされたんだよ!)」

「そ、そうなの…なんか可哀想だな…」

「(まあオイラは確かに人間とか魔物を洗脳したりする能力は持ってるから仕方ないんだけどね…うう、君をモフモフしたいのに触れなくて歯痒いっ!マルタンとか触り心地良いんだろうなぁ…)」

「でもボクはシエルの事は悪いやつじゃないって思ってるよ。ちょっと強者に媚びへつらう都合良いところはあるかなって思ってるけど」

「(ありがとう信じてくれて!でも最後のは余計だよ!!)」

はははとチェスとシエルは笑いながら会話をする。そこにブライゼとノストラが現れた。

「シエルを吸収してからどうだ?何か変化はあるか?」

「あ、ブライゼにノストラ!変化…か。なんかブライゼがボクの中に入ってた時みたいな変身とかできるかな?」

「何ですかそれは?」

「説明するね。ブライゼが傷を負った時にボクの中に匿ったんだけど、その時にブライゼに身体の主導権を渡すと、ボクの体をベースにして、身体にブライゼの特徴が現れたんだよね!で、ブライゼの力も使えるようになったの!それがシエルでもできるかなーって」

「なるほど。映像で見せてもらいましたが、あの竜の羽が生えた黒猫の姿になったのはそういう事でしたか。….ん?少し待ってください」

「何?」

「シエルの特徴がチェスの身体に現れる?え?何の冗談?ちょ、まってそれはキモい。キモすぎる」

「どうしたのさノストラ…」

「そいつマジでキモいんですよ。チェスの精神世界に幽閉された時、鎖と拘束具にぐるぐる巻きにされて興奮するとか言ってましてね。しかも勃起してたんですよ。ホントありえない。ああ、思い出して不快になってきた…死ねよ」

「え!?何それ!シエル、君そんな事言ってたの!?」

「(誤解だよー!!確かに興奮するって言ったし勃起もしたけど!)」

「したんじゃん!!誤解じゃないじゃん!!」

「ああ。だからシエルがチェスの身体の主導権を握るのは不安があるのだ。猫の身体を利用してイルミナ達をはじめとするメンバーにセクハラもしかねない可能性も捨てきれない」

「(オイラそんな事しないって~!!)」

「わかった。なら誓え。あの子達には手を出すな。手を出したら…わかっているな?」

ブライゼのただならぬ威圧感に、シエルは精神世界で怯えていた。

「(じゃあ、とりあえず練習してみよっか!チェス、身体の主導権をオイラに渡して!)」

「うん!」

チェスはシエルに身体の主導権を渡した。すると、チェスの身体は光に包まれた。光が消えると、そこには全身が雪のように白く、青い模様が描かれ、天使の羽が生え、頭上には輪が浮いた猫がいた。

「お!やったー!成功したよチェス!」

「(良かった!でも、シエルの力を放出してる時の感覚ってなんか冷たいね。ブライゼの時みたいな暖かさがないや)」

「そうなの?オイラが天使だからかなぁ」

「まあ、成功はしたな。何か能力を使って見せろ」

「うん!いくよ!光体化(パーティクルボディ)!!」

シエルはブライゼとノストラと戦った時に使った自身の身体を光の粒子に変える技を使った。チェスとシエルが一体化した身体は光となり、高速で辺りを飛行した。

「うむ、技やスキルは問題なく使えるようだな」

「ふう、良かった。どんなキモい融合体が出てくるかと思ったらビジュアルは問題ないですね。キモかったらわたしが殺してました」

「ちょっとー!これはチェスの身体でもあるんだ!殺すならオイラだけにしてよ!それにオイラはキモくないっ!」

「そのつもりですよ。後お前はキモいだろうが」

ノストラは平然とそう答えた。シエルは涙目になっている。

「後こんな事もできるよ!見えざるもの(インビジブル)」

シエルは光の屈折を利用し、透明になった。その場から突然消えた為、ブライゼもノストラも少しだけびっくりしている。

「これは光の屈折を利用してオイラの身体を見えなくしたんだ!他人も見えなくできるよ!」

「ふむ、地味だが中々に利便性はあるな」

「隠密行動に役立ちますね」

「でしょー!これでイルミナとかユーディットが風呂入ってる時に覗き放題….」

「シエル」

とてつもない怒りのオーラを放つブライゼを前に、シエルは萎縮した。

「もう良いんで早くチェスの中に帰れ変態天使が」

「わかったよぉ….」

シエルはチェスに身体の主導権を返し、再び精神世界に帰っていった。

「さて、今後の流れだが、私の血液を加工、希釈する為に素材を取ってこようか」

「そうですね。あなたの血は強すぎますものね」

「それって何を取ればいいの?」

「そうだな。素材はイルリットの森や、蜃気楼の海岸線といった場所にある。少しイレインからは遠いが、行くか」

「うん!行こうか!」

チェス達は次の計画へと駒を進めた。

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