雪を溶かすように

春野ひつじ

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第三章

1 side悠

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 朝になった。窓から外を見ると、どんよりとした雲が立ち込めていて、今にも雪が降りそうな寒さだ。急いで支度をして、部屋から出ると、もうそこには凱と葉が待っていた。

「おはよう」

「おはようございます」

 そう挨拶してくれる二人に、おはよう、と返しつつ、薫の部屋へと向かう。

「一旦薫様の部屋へ寄って行かれるのですか?」

「あぁ、そうだ。暖と那にも行ってくると言いたいからな」

 着いた。ノックをした後ドアを開けると、暖と那が部屋にいる。

「おはようございます、兄上」

 丁寧に頭を下げる那の目が少し腫れているような気がする。

「おはよう」

「もうこれから出発するのか?」

「出来るだけ早く行きたくて」

「わかった」

 暖と少し話した後、ベッドに横になっている薫に近づく。頬を撫でると、体温が奪われるほど冷たい。白い肌と相まって、本当に陶器のように思えてしまう。

「行ってくるな、薫」

 返事はない。予想通りだが、やっぱり悲しみが込み上げてくる。

「行ってくる。薫、待っとけよ」

「薫様、行って参ります。目を覚まされましたら、パンをたくさん焼きますね」

 しんみりとした空気が流れる。俺も不安で仕方ない。もし花が見つからなかったら、もし見つかっても帰ってきた時には薫はどうなのか。ふるふると首を振り、不安を吹き飛ばす。必ず助ける。昔薫に助けてもらった分を、返したい。そして、あの優しい笑顔を見せて欲しい。

「よし。出かけよう」

 俺の言葉に凱と葉が頷く。そして俺たちは王宮の外へと向かった。
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