雪を溶かすように

春野ひつじ

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第一章

18 side悠

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薫は、裏門まで行く廊下を通る時や暖が届けたパンの話をする時に、明るく振る舞ってはいる。しかし那から閉じ込められていたことを思い出すのか、時折翳りのある表情を見せる。申し訳なさと切なさで胸がいっぱいになり、廊下では自分で考えるよりも先に、彼の冷たい手を握っていた。何故だか目を潤ませる彼に、俺は男でしかも人間だから嫌がっているのかと思い手を離そうとすると、嬉しくて涙が出ちゃった、と俺が傷つかないようにフォローしてくれる。辛い目にあったのに、なんて優しいんだろうと感動する。そのあと、今日はちょうど何もないから買い物に行くのにいいのではないかと思い、提案すると、行きたい!と喜んで言ってくれてよかった。



 家具を買いに行くのであれば、先に部屋を決めておいた方が良いと思い、三つの部屋を紹介すると薫は一番小さい部屋を選んだ。獣人国に住んでいた頃は、王宮に住んでいなかったらしく、広い部屋は落ち着かないと言っていた。部屋の入り口に待機させておいた者に外出の間に掃除を済ませておくことを頼み部屋を出ると、後からついてきた薫も丁寧によろしくお願いします、と言っていた。なんだか視線を感じるなぁと思ったら、今薫が話しかけた者が、驚いた顔で薫を見ていた。理由は明白だ。薫の美しさに驚いているのだろう。弟のせいで痩せていた身体も葉のおかげもあり、徐々に健康さを取り戻しつつある。また表情も豊かになった。そのためか、出会った時よりもますます色気が増しているように思える。しかも本人は無自覚で微笑みかけたりしているのだから、タチが悪い。そんなことを考えていると、隣で歩いている薫が遠慮がちに聞く。

「あの、フードみたいなのないかな?」

「フード?あぁ、今日は寒いもんな。」

すると、ふるふると首を振る。

「えっと、外に出るんだったらできたらピアスを隠したくて…。」

そう言って、右耳の青いピアスを触る。

「気がつかなくてすまなかった。たぶんいらないとは思うが一応持っていくか?」

「要らないの……?どうして?」

さっきまでいた俺の部屋に戻り、フードのついたコートを取り、また来た道を戻りながら話す。

「今から俺が治めている領地に行くんだが、そこの一つの街は獣人と人間が共存しているんだ。」

薫は信じられないという顔をする。

「もちろん対等に、だ。そこだったら安心して薫を連れて行けると思って。まあ、詳しい話は馬車の中でしようか。」

ちょうど用意させておいた馬車があるところに着いたため、先に乗り薫に手を差し伸べ、彼の手をつかんで馬車に乗り込み、俺たちは目的地へと向かった。
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