1 / 4
前編
しおりを挟む
「アルファーロ公爵令嬢エルネスタ! 貴様は俺の愛しいスサニタを散々に苛めたな! そんな心の醜いお前は俺の妃に相応しくない! 俺はお前との婚約を破棄して、スサニタと結婚する!」
最早定番と化しているかのような卒業記念パーティの席上で、第三王子パスクワル殿下はそう仰いました。
周囲は呆れたような目でパスクワル殿下とその胸にコバンザメのごとくくっついているスサニタ嬢を見ています。学生は呆れたような目で、その親世代は一層強い嫌悪感を滲ませた視線を向けていますが、生来鈍感なのかパスクワル殿下もスサニタ嬢も全く気付いていない様子です。
けれど、わたくしは安堵いたしました。国内の主だった貴族が集まるパーティでの宣言です。綸言汗の如しと申しますし、王族の口から一度出た言葉は取り返しがつきません。パスクワル殿下が宣言なされたようにわたくしとの婚約は破棄され、スサニタ嬢との婚姻が認められることでしょう。尤も、パスクワル殿下が王族のままではいられないことは確実ですが。
確か、スサニタ嬢は平民。裕福な商家の末娘で貴族との縁を結ぶために学園に入ったと聞いております。親が期待したのは下位貴族の令嬢との縁でしょうが、スサニタ嬢は上位貴族の男性とばかり縁を結んでおりましたわね。商家にとってはこの3年の決して安くはない学費は無駄になってしまったということでしょう。各貴族家が平民の少女に誑かされて醜態を晒した子息をそのままにしておくことはございませんから。
ともかく、平民のスサニタ嬢と結婚するのであれば、パスクワル殿下は平民となることでしょう。王位を継ぐ、或いは王族として王家に残る以外の王子は臣籍降下することになりますが、その際に与えられる爵位は生母の実家の爵位に準じます。例外は王太子に次いで優秀な王子で、その方は大公家を興されます。パスクワル殿下の場合、生母は王妃でも側室でもない、愛妾。つまりは平民です。ですから、わたくしとの結婚がなくなった時点で、彼は王族でも貴族でもいられません。
それでもわたくしは安堵したのです。わたくしと結婚すれば、彼は3年以内に病に倒れ、そのまま儚くなってしまうのですから。
わたくしアルファーロ公爵家嫡女エルネスタと第三王子パスクワル殿下の婚約が決まったのは5年前、わたくしたちが13歳のときのことでした。
王家からの打診を受けた両親は激怒いたしました。無理もございません。その数日前にわたくしは相思相愛の婚約者エフラインを事故で亡くしたばかりで、王家の使者は彼の葬儀から戻ったばかりのわたくしたちの許へやってきたのですから。まるでエフラインが死ぬのを待っていたと言わんばかりの素早さでございました。
怒りに満ちたお父様は喪服のまま王宮へと伺候されました。普段は屋敷で待つお母様も同行されました。わたくしも王家の余りの為さりように怒りがこみ上げ、その時ばかりは彼を失った悲しみを一時的に忘れてしまったほどでした。
両親が帰宅したのは夜も更けてからのことでした。未だ怒り冷めやらぬ風情で戻った両親から告げられたのは婚約内定。正式決定は半年後とされたのは一応のわたくしへの配慮だったようです。流石に婚約者死去直ぐの公表は王家にとっても拙いとの理解はあったのでしょう。婚約発表自体は2年後の学園入学前に行われることとなりました。
公爵家とはいえど、王命には逆らえません。いいえ、公爵家だからこそ、逆らえません。公爵家は王家に準ずるものであり、王家が間違いを犯そうとしたときに諫める役目もございます。決定的な間違いを犯せば王家を問責する権利も与えられております。だからこそ、そうではない場合には王命には逆らえないのです。此度の婚約も、そういった類の断れない王命でした。時期こそ最悪とはいえ、それ以外の理不尽はないともいえますから。
ですが、両親は、父母両方の祖父母も含め我が一族は、この王命が不服でした。よりによって第三王子との婚姻です。
婚約打診の使者の余りの素早さに両親はエフラインの事故に不審を持ったのでしょう。内密にエフラインの事故を調べ直しました。王家が第三王子とわたくしを婚約させるためにエフラインを殺したのではないかとの疑惑を持ったようです。彼は落馬によって命を落としています。その状況や馬丁、厩番、事故にあった街道の周辺など綿密に調べました。
エフラインの実家にも秘かに彼とわたくしとの婚約解消を王家から求められてないかを尋ねてもいました。結果として、愛妾マノラからの何の権限もない婚約解消を命じる手紙はあったそうですが、後日それは国王自ら内密に謝罪があったそうです。
婚約内定から半年後、婚約が正式に結ばれる前に全ての調査が終わりました。結果は灰色。明確に王家が無関係とも関わっていたとも判断できないものでした。愛妾マノラの平民時代の知り合いが当日の彼の周辺に確認はされましたが、それだけでした。それでも、エフラインの死に愛妾殿が何らかの関与をしていたとわたくしたち家族に思わせるには十分でした。
最早定番と化しているかのような卒業記念パーティの席上で、第三王子パスクワル殿下はそう仰いました。
周囲は呆れたような目でパスクワル殿下とその胸にコバンザメのごとくくっついているスサニタ嬢を見ています。学生は呆れたような目で、その親世代は一層強い嫌悪感を滲ませた視線を向けていますが、生来鈍感なのかパスクワル殿下もスサニタ嬢も全く気付いていない様子です。
けれど、わたくしは安堵いたしました。国内の主だった貴族が集まるパーティでの宣言です。綸言汗の如しと申しますし、王族の口から一度出た言葉は取り返しがつきません。パスクワル殿下が宣言なされたようにわたくしとの婚約は破棄され、スサニタ嬢との婚姻が認められることでしょう。尤も、パスクワル殿下が王族のままではいられないことは確実ですが。
確か、スサニタ嬢は平民。裕福な商家の末娘で貴族との縁を結ぶために学園に入ったと聞いております。親が期待したのは下位貴族の令嬢との縁でしょうが、スサニタ嬢は上位貴族の男性とばかり縁を結んでおりましたわね。商家にとってはこの3年の決して安くはない学費は無駄になってしまったということでしょう。各貴族家が平民の少女に誑かされて醜態を晒した子息をそのままにしておくことはございませんから。
ともかく、平民のスサニタ嬢と結婚するのであれば、パスクワル殿下は平民となることでしょう。王位を継ぐ、或いは王族として王家に残る以外の王子は臣籍降下することになりますが、その際に与えられる爵位は生母の実家の爵位に準じます。例外は王太子に次いで優秀な王子で、その方は大公家を興されます。パスクワル殿下の場合、生母は王妃でも側室でもない、愛妾。つまりは平民です。ですから、わたくしとの結婚がなくなった時点で、彼は王族でも貴族でもいられません。
それでもわたくしは安堵したのです。わたくしと結婚すれば、彼は3年以内に病に倒れ、そのまま儚くなってしまうのですから。
わたくしアルファーロ公爵家嫡女エルネスタと第三王子パスクワル殿下の婚約が決まったのは5年前、わたくしたちが13歳のときのことでした。
王家からの打診を受けた両親は激怒いたしました。無理もございません。その数日前にわたくしは相思相愛の婚約者エフラインを事故で亡くしたばかりで、王家の使者は彼の葬儀から戻ったばかりのわたくしたちの許へやってきたのですから。まるでエフラインが死ぬのを待っていたと言わんばかりの素早さでございました。
怒りに満ちたお父様は喪服のまま王宮へと伺候されました。普段は屋敷で待つお母様も同行されました。わたくしも王家の余りの為さりように怒りがこみ上げ、その時ばかりは彼を失った悲しみを一時的に忘れてしまったほどでした。
両親が帰宅したのは夜も更けてからのことでした。未だ怒り冷めやらぬ風情で戻った両親から告げられたのは婚約内定。正式決定は半年後とされたのは一応のわたくしへの配慮だったようです。流石に婚約者死去直ぐの公表は王家にとっても拙いとの理解はあったのでしょう。婚約発表自体は2年後の学園入学前に行われることとなりました。
公爵家とはいえど、王命には逆らえません。いいえ、公爵家だからこそ、逆らえません。公爵家は王家に準ずるものであり、王家が間違いを犯そうとしたときに諫める役目もございます。決定的な間違いを犯せば王家を問責する権利も与えられております。だからこそ、そうではない場合には王命には逆らえないのです。此度の婚約も、そういった類の断れない王命でした。時期こそ最悪とはいえ、それ以外の理不尽はないともいえますから。
ですが、両親は、父母両方の祖父母も含め我が一族は、この王命が不服でした。よりによって第三王子との婚姻です。
婚約打診の使者の余りの素早さに両親はエフラインの事故に不審を持ったのでしょう。内密にエフラインの事故を調べ直しました。王家が第三王子とわたくしを婚約させるためにエフラインを殺したのではないかとの疑惑を持ったようです。彼は落馬によって命を落としています。その状況や馬丁、厩番、事故にあった街道の周辺など綿密に調べました。
エフラインの実家にも秘かに彼とわたくしとの婚約解消を王家から求められてないかを尋ねてもいました。結果として、愛妾マノラからの何の権限もない婚約解消を命じる手紙はあったそうですが、後日それは国王自ら内密に謝罪があったそうです。
婚約内定から半年後、婚約が正式に結ばれる前に全ての調査が終わりました。結果は灰色。明確に王家が無関係とも関わっていたとも判断できないものでした。愛妾マノラの平民時代の知り合いが当日の彼の周辺に確認はされましたが、それだけでした。それでも、エフラインの死に愛妾殿が何らかの関与をしていたとわたくしたち家族に思わせるには十分でした。
151
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?

婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

品がないと婚約破棄されたので、品のないお返しをすることにしました
斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
品がないという理由で婚約破棄されたメリエラの頭は真っ白になった。そして脳内にはリズミカルな音楽が流れ、華美な羽根を背負った女性達が次々に踊りながら登場する。太鼓を叩く愉快な男性とジョッキ片手にフ~と歓声をあげるお客も加わり、まさにお祭り状態である。
だが現実の観衆達はといえば、メリエラの脳内とは正反対。まさか卒業式という晴れの場で、第二王子のダイキアがいきなり婚約破棄宣言なんてするとは思いもしなかったのだろう。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。



婚約破棄は結構ですけど
久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」
私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。
「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」
あーそうですね。
私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。
本当は、お父様のように商売がしたいのです。
ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。
王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。
そんなお金、無いはずなのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる