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前編
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「アルファーロ公爵令嬢エルネスタ! 貴様は俺の愛しいスサニタを散々に苛めたな! そんな心の醜いお前は俺の妃に相応しくない! 俺はお前との婚約を破棄して、スサニタと結婚する!」
最早定番と化しているかのような卒業記念パーティの席上で、第三王子パスクワル殿下はそう仰いました。
周囲は呆れたような目でパスクワル殿下とその胸にコバンザメのごとくくっついているスサニタ嬢を見ています。学生は呆れたような目で、その親世代は一層強い嫌悪感を滲ませた視線を向けていますが、生来鈍感なのかパスクワル殿下もスサニタ嬢も全く気付いていない様子です。
けれど、わたくしは安堵いたしました。国内の主だった貴族が集まるパーティでの宣言です。綸言汗の如しと申しますし、王族の口から一度出た言葉は取り返しがつきません。パスクワル殿下が宣言なされたようにわたくしとの婚約は破棄され、スサニタ嬢との婚姻が認められることでしょう。尤も、パスクワル殿下が王族のままではいられないことは確実ですが。
確か、スサニタ嬢は平民。裕福な商家の末娘で貴族との縁を結ぶために学園に入ったと聞いております。親が期待したのは下位貴族の令嬢との縁でしょうが、スサニタ嬢は上位貴族の男性とばかり縁を結んでおりましたわね。商家にとってはこの3年の決して安くはない学費は無駄になってしまったということでしょう。各貴族家が平民の少女に誑かされて醜態を晒した子息をそのままにしておくことはございませんから。
ともかく、平民のスサニタ嬢と結婚するのであれば、パスクワル殿下は平民となることでしょう。王位を継ぐ、或いは王族として王家に残る以外の王子は臣籍降下することになりますが、その際に与えられる爵位は生母の実家の爵位に準じます。例外は王太子に次いで優秀な王子で、その方は大公家を興されます。パスクワル殿下の場合、生母は王妃でも側室でもない、愛妾。つまりは平民です。ですから、わたくしとの結婚がなくなった時点で、彼は王族でも貴族でもいられません。
それでもわたくしは安堵したのです。わたくしと結婚すれば、彼は3年以内に病に倒れ、そのまま儚くなってしまうのですから。
わたくしアルファーロ公爵家嫡女エルネスタと第三王子パスクワル殿下の婚約が決まったのは5年前、わたくしたちが13歳のときのことでした。
王家からの打診を受けた両親は激怒いたしました。無理もございません。その数日前にわたくしは相思相愛の婚約者エフラインを事故で亡くしたばかりで、王家の使者は彼の葬儀から戻ったばかりのわたくしたちの許へやってきたのですから。まるでエフラインが死ぬのを待っていたと言わんばかりの素早さでございました。
怒りに満ちたお父様は喪服のまま王宮へと伺候されました。普段は屋敷で待つお母様も同行されました。わたくしも王家の余りの為さりように怒りがこみ上げ、その時ばかりは彼を失った悲しみを一時的に忘れてしまったほどでした。
両親が帰宅したのは夜も更けてからのことでした。未だ怒り冷めやらぬ風情で戻った両親から告げられたのは婚約内定。正式決定は半年後とされたのは一応のわたくしへの配慮だったようです。流石に婚約者死去直ぐの公表は王家にとっても拙いとの理解はあったのでしょう。婚約発表自体は2年後の学園入学前に行われることとなりました。
公爵家とはいえど、王命には逆らえません。いいえ、公爵家だからこそ、逆らえません。公爵家は王家に準ずるものであり、王家が間違いを犯そうとしたときに諫める役目もございます。決定的な間違いを犯せば王家を問責する権利も与えられております。だからこそ、そうではない場合には王命には逆らえないのです。此度の婚約も、そういった類の断れない王命でした。時期こそ最悪とはいえ、それ以外の理不尽はないともいえますから。
ですが、両親は、父母両方の祖父母も含め我が一族は、この王命が不服でした。よりによって第三王子との婚姻です。
婚約打診の使者の余りの素早さに両親はエフラインの事故に不審を持ったのでしょう。内密にエフラインの事故を調べ直しました。王家が第三王子とわたくしを婚約させるためにエフラインを殺したのではないかとの疑惑を持ったようです。彼は落馬によって命を落としています。その状況や馬丁、厩番、事故にあった街道の周辺など綿密に調べました。
エフラインの実家にも秘かに彼とわたくしとの婚約解消を王家から求められてないかを尋ねてもいました。結果として、愛妾マノラからの何の権限もない婚約解消を命じる手紙はあったそうですが、後日それは国王自ら内密に謝罪があったそうです。
婚約内定から半年後、婚約が正式に結ばれる前に全ての調査が終わりました。結果は灰色。明確に王家が無関係とも関わっていたとも判断できないものでした。愛妾マノラの平民時代の知り合いが当日の彼の周辺に確認はされましたが、それだけでした。それでも、エフラインの死に愛妾殿が何らかの関与をしていたとわたくしたち家族に思わせるには十分でした。
最早定番と化しているかのような卒業記念パーティの席上で、第三王子パスクワル殿下はそう仰いました。
周囲は呆れたような目でパスクワル殿下とその胸にコバンザメのごとくくっついているスサニタ嬢を見ています。学生は呆れたような目で、その親世代は一層強い嫌悪感を滲ませた視線を向けていますが、生来鈍感なのかパスクワル殿下もスサニタ嬢も全く気付いていない様子です。
けれど、わたくしは安堵いたしました。国内の主だった貴族が集まるパーティでの宣言です。綸言汗の如しと申しますし、王族の口から一度出た言葉は取り返しがつきません。パスクワル殿下が宣言なされたようにわたくしとの婚約は破棄され、スサニタ嬢との婚姻が認められることでしょう。尤も、パスクワル殿下が王族のままではいられないことは確実ですが。
確か、スサニタ嬢は平民。裕福な商家の末娘で貴族との縁を結ぶために学園に入ったと聞いております。親が期待したのは下位貴族の令嬢との縁でしょうが、スサニタ嬢は上位貴族の男性とばかり縁を結んでおりましたわね。商家にとってはこの3年の決して安くはない学費は無駄になってしまったということでしょう。各貴族家が平民の少女に誑かされて醜態を晒した子息をそのままにしておくことはございませんから。
ともかく、平民のスサニタ嬢と結婚するのであれば、パスクワル殿下は平民となることでしょう。王位を継ぐ、或いは王族として王家に残る以外の王子は臣籍降下することになりますが、その際に与えられる爵位は生母の実家の爵位に準じます。例外は王太子に次いで優秀な王子で、その方は大公家を興されます。パスクワル殿下の場合、生母は王妃でも側室でもない、愛妾。つまりは平民です。ですから、わたくしとの結婚がなくなった時点で、彼は王族でも貴族でもいられません。
それでもわたくしは安堵したのです。わたくしと結婚すれば、彼は3年以内に病に倒れ、そのまま儚くなってしまうのですから。
わたくしアルファーロ公爵家嫡女エルネスタと第三王子パスクワル殿下の婚約が決まったのは5年前、わたくしたちが13歳のときのことでした。
王家からの打診を受けた両親は激怒いたしました。無理もございません。その数日前にわたくしは相思相愛の婚約者エフラインを事故で亡くしたばかりで、王家の使者は彼の葬儀から戻ったばかりのわたくしたちの許へやってきたのですから。まるでエフラインが死ぬのを待っていたと言わんばかりの素早さでございました。
怒りに満ちたお父様は喪服のまま王宮へと伺候されました。普段は屋敷で待つお母様も同行されました。わたくしも王家の余りの為さりように怒りがこみ上げ、その時ばかりは彼を失った悲しみを一時的に忘れてしまったほどでした。
両親が帰宅したのは夜も更けてからのことでした。未だ怒り冷めやらぬ風情で戻った両親から告げられたのは婚約内定。正式決定は半年後とされたのは一応のわたくしへの配慮だったようです。流石に婚約者死去直ぐの公表は王家にとっても拙いとの理解はあったのでしょう。婚約発表自体は2年後の学園入学前に行われることとなりました。
公爵家とはいえど、王命には逆らえません。いいえ、公爵家だからこそ、逆らえません。公爵家は王家に準ずるものであり、王家が間違いを犯そうとしたときに諫める役目もございます。決定的な間違いを犯せば王家を問責する権利も与えられております。だからこそ、そうではない場合には王命には逆らえないのです。此度の婚約も、そういった類の断れない王命でした。時期こそ最悪とはいえ、それ以外の理不尽はないともいえますから。
ですが、両親は、父母両方の祖父母も含め我が一族は、この王命が不服でした。よりによって第三王子との婚姻です。
婚約打診の使者の余りの素早さに両親はエフラインの事故に不審を持ったのでしょう。内密にエフラインの事故を調べ直しました。王家が第三王子とわたくしを婚約させるためにエフラインを殺したのではないかとの疑惑を持ったようです。彼は落馬によって命を落としています。その状況や馬丁、厩番、事故にあった街道の周辺など綿密に調べました。
エフラインの実家にも秘かに彼とわたくしとの婚約解消を王家から求められてないかを尋ねてもいました。結果として、愛妾マノラからの何の権限もない婚約解消を命じる手紙はあったそうですが、後日それは国王自ら内密に謝罪があったそうです。
婚約内定から半年後、婚約が正式に結ばれる前に全ての調査が終わりました。結果は灰色。明確に王家が無関係とも関わっていたとも判断できないものでした。愛妾マノラの平民時代の知り合いが当日の彼の周辺に確認はされましたが、それだけでした。それでも、エフラインの死に愛妾殿が何らかの関与をしていたとわたくしたち家族に思わせるには十分でした。
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