逆行転生って胎児から!?

章槻雅希

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逆行転生って胎児から!?

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 あら、わたくし、どうしたのかしら。何故か水の中にいるわ。
 でもなんて落ち着くのかしら。こんなに穏やかで安らげるなんて生まれて初めてですわ。
 待って、何故わたくし意識があるの? わたくし、死んだのではなかったのかしら!?
 いいえ、そう、死んだわ。そして、生まれ変わるのね。ここはお母様のお腹の中。わたくしは胎児だわ。
 まさか胎児で意識があるなんて驚きですわ。
 もっと驚きなのは、わたくしが『わたくし』として生まれるということかしら。
 根拠は何もないけれど、確信しておりますのよ。わたくしは死ぬ前と同じ『ログス公爵家長女シャンセ・グリフォス』として生まれるのだと。
 逆行転生というものですわね。……なんでこんな言葉を知っているのかしら。
 恐らく死の間際の願いを神様が叶えてくださったのね。やり直したいという願いを。
 まさか胎児からやり直すとは思いもしませんでしたけれど。
 でも考えてみれば、わたくしの不幸の始まりは、産褥でお母様が亡くなられたこと。わたくしの膨大な魔力にお母様の御体が耐えきれなかったと聞いております。
 お母様の命と引き換えに生まれたわたくしは、お母様を愛していたお父様にもお兄様にも疎まれ、美しいお母様に執着していた赤の他人の陛下にも疎まれておりましたわ。
そして、陛下は『エスポーザの命を奪ったのだから、国のためにその魔力を使うことで償え』と仰って、わたくしを王家に縛るために王太子の婚約者にしたのでしたわね。
 今考えると理不尽ではなくて?
 これがお父様がいうならまだ判りますわよ。最愛の妻であり領地経営のパートナーを失ったのですもの。
 でも、何故赤の他人、ぶっちゃけていえばヘタれで告白も出来ずに振られることすら出来ずにお父様とお母様の結婚を指をくわえてみていただけの陛下に何故そんな要求をされないといけませんの!?
 あら、また、本来のわたくしにはないはずの語彙が出てまいりましたわね……。
 それに死んだからでしょうか、言葉遣いも悪くなっておりますし、性格も変わっているように思います。
 本来のわたくしは自分に自信がなくて、人の言いなりになる主体性のないネガティブで根暗な令嬢でしたのに。
 まぁいいでしょう。
 ああ、そうだわ。先ずはわたくしの不幸の根本を解消しましょう。
 ええと……まぁ、お母様の御体、弱ってます……って毒!?
 でしたら、まずは解毒魔法ですわ! これは……ガイラの毒。魔力中毒によって発生するものではありませんわね。明らかに誰かに盛られてますわ!
 よし、解毒成功ですわ。
 次に御体が弱ってますから、内側から治癒魔法を……これも成功しましたわ!
 それから……心肺機能と消化器の強化をして、毒無効の魔法をかけておきましょう。
 ふぅ……一先ずこれで大丈夫ですわね。ああ、疲れましたわ。お休みなさいまし……。



『あら、眠ったのかしら。さっきまでの魔力を感じないわ』
『信じられんな……胎児が魔法を使うなど。しかも高度な解毒・治癒・身体強化に毒無効化魔法とは……どれも高位魔法だ』
『わたくしを守るために?』
『だろうな。母を守りたかったのだろうな。ありがとう、まだ見ぬ我が子よ。しかし解毒魔法と毒無効化魔法か……すぐさま調べよう』
 眠ってしまったわたくしは、お父様とお母様がわたくしの魔法に気付いていたことも、そんな話をしていたことも知らなかったのですわ。
 けれどそれからも目覚めるたびにお母様の御体をチェックしては魔法をかけるたびに、お父様やお母様が優しくお母様のお腹を撫でながら『ありがとう』と仰ってくださることから、魔法に気付かれていることを知りましたの。
 たびたびお母様だけではなくお父様もお兄様もわたくしに語り掛けてくださって、わたくしが生まれるのを楽しみにしてくださって、とても嬉しくなりました。



『エスポーザに毒を盛っていた者が判った。王妃殿下の指示だったそうだ。そして、そのついでのように陛下が私を陥れようとしていることも判った』
 ある日、衝撃の発言をお父様がなさいました。
 わたくしが解毒魔法と毒無効化魔法を使ったことで、お父様は色々とお調べになっていたようです。その結果、未だに陛下に執着されているお母様を疎んだ王妃殿下がお母様を亡き者にしようとメイドの一人を買収。
 お父様は慎重に証拠固めを行ない、その捜査の過程で陛下がお父様を陥れて処刑し、お母様を手に入れようとしていたことが発覚。
 その証拠も掴み、そのうえで陛下と対立していた王弟殿下にその全てを明かし……色々な政治的なあれこれの後、国王と王妃は退位後幽閉となり、王弟殿下が新たな国王としてご即位なさったとのこと。
 なお、幽閉された元国王・元王妃は数年の後に病に倒れ果敢無くなられたそうですわ。まぁ、ぶっちゃければ毒杯を賜ったということですわね。
 因みに生まれて間もなかった王子は元王妃の実家に養子に入り、元王妃の実家は爵位を剥奪されていたことから、平民としてお過ごしになられたそうです。尤も、養子先が落ちぶれていったことから、幼いころに栄養失調で亡くなられたようです。
 厳しい処理かもしれませんけれど、我が家は筆頭公爵家でしたし、お母様は隣国(我が国よりも大きな強国)の王女でいらしたので、ある意味当然の処置かもしれませんわね。
 一国の王妃が自国の功臣たる公爵家の夫人を毒殺しようとして、しかもその夫人は隣国の王女ですもの。処罰を間違えば戦争ですわ。



 こうして、前回とは打って変わって、生まれる前に環境が全く異なるものへと変化しておりましたのよ。
 わたくしは無事ログス公爵家の長女として生まれ、お母様もお命を落とされることなくお健やかで。
 今日も元気にわたくしはお母様のお乳をいただくのですわ。





 因みに、15年後、前回の生で王太子がのぼせ上った男爵令嬢が『シャンセ様、ご無事ですかぁぁぁぁぁ』と突撃してくることになるとは思いませんでしたが。
 なんでも、彼女、転生前に愛読していた少女漫画では悪役令嬢押しだったそうで、その悪役令嬢を幸せにしたいと願っていたそうですの。
 でも、気づけば国王は違うし、王太子は別人だし、戸惑っていたそうですわ。それでも学院に入り、わたくしの無事を確かめたかったと。
 そしてすっかり変わったわたくしを見て『シャンセ様が幸せそう……嬉しい』と号泣。わたくしは呆気に取られてしまいましたが、まぁ、その後彼女と友誼を築き、彼女はわたくしの侍女となりました。
 そう、この世界、わたくしの前世(前回もあるから前々世ですかしら)で愛読していた少女漫画の舞台だった世界でしたの。そしてわたくしは登場人物である悪役令嬢に転生していたのですわ。
 前回の時には前世を思い出しておらず、漫画通りの生涯を歩んだのですけれど。男爵令嬢も同じだそうですわ。
 だから、胎児時代のわたくしの思考言語が令嬢らしくなかったのですわねぇ。

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