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第11章 休息のとき
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休養期間を取ることにした『モナルキア連盟』の君主たちは、それぞれの血盟でのんびりとした時間を過ごすことになった。しばらくは狩りからも離れ、血盟居館でまったりと時間を過ごしている。それはデサフィアンテも同じだった。
「大人しく寝てなさい!」
デサフィアンテをベッドに押し込めながら、夏生梨は言う。
「大袈裟だって」
「風邪は引き始めが肝心! 大人しく寝てなさい」
デサフィアンテは熱を出していた。それに気づいた夏生梨がデサフィアンテを寝室へと追い立てたというわけだ。この世界には医者もいないし病院もないから、無理は禁物だ。
「姐御、氷枕持ってきましたー」
そこにアルシェが氷枕と解熱剤を持って現れる。市販薬ならば注文端末から入手可能だから、その点は有り難かった。
「フィアさん、大人しく寝てないとダメですよー。姐御の言うこと聞いて」
メッと叱るアルシェに、デサフィアンテもようやく観念したのか、大人しくベッドに横たわる。
「じゃあ、フィアさんの看病兼見張りは姐御にお任せしますねー。晩御飯は千珠さんと私で作りますー。あ、フィアさんはお粥のほうがいいですかね」
「それは様子を見て決めるわ。ありがと、アル」
大人しくなったデサフィアンテに体温計を咥えさせ、夏生梨は応じる。しばらくしてピピピと体温計が測定を終えたことを知らせ、デサフィアンテはその示した数値を見た途端に具合の悪さを自覚した。
「38度5分。ほら、やっぱり熱あるし」
呆れたように夏生梨がデサフィアンテを軽く睨む。
「あらあら。じゃあ、フィアさん、お大事にー」
「おう」
熱が高いと判った瞬間から途端に病人の顔になったデサフィアンテに苦笑し、アルシェは部屋を出て行く。部屋の外には心配そうな表情の血盟員たちがいるから、報告しなければ彼らも落ち着かないだろう。
アルシェが出て行き2人になると、デサフィアンテが申し訳なさそうな表情で夏生梨を見遣る。
「悪いな、迷惑かけて」
「気にしないで。慣れてる」
夏生梨はクスリと笑って応じる。かつて現実世界で同棲していたときから慣れていることだ。
デサフィアンテは責任感が強いせいか、仕事でも無理をすることが多々あった。大きな仕事になれば特にそうなってしまい、彼の体調管理や精神状態の把握は夏生梨の役割だった。もっとも、それはお互いにいえることで、互いに管理し合っていたのだ。デサフィアンテ──絢人は大きな仕事を終えると決まって熱を出した。疲れが一気に押し寄せるのだ。平日は平気な顔をしているくせに、週末の休日となると熱を出して寝込むことも少なくなかった。だから風織は食事に気を遣い、彼が無理をしすぎないように注意を払っていたのだ。
「絢、この8ヶ月、気を張りどおしだったもの。まぁ、こうなることは予想の範囲内ね」
「そっか。だよなぁ……。現実世界でも風織がいてくれたから、俺、頑張れたんだもんな」
デサフィアンテはかつての恋人だったころを思い出しながら言う。
「6年前だってそうだ。風織が俺の微妙な変化に気づいてくれたから、早期発見できたんだし」
6年前、絢人は大病を患った。気づくのが遅ければ命に関わるほど重大な病だった。けれど、いち早く彼のわずかな変化に気づいた風織が、無理矢理休みを取らせて病院に引っ張って行ってくれたおかげで早期発見でき、完治することができた。その治療のために【フィアナ・クロニクル】を休止することになり、それが結果的に引退へと繋がったが、命と遊びを秤にはかけられない。
「そうだったかしら。あれから、どう?」
「ちゃんと定期健診には行ってるよ。……大丈夫」
心配そうな夏生梨を安心させるように、デサフィアンテは笑う。
「そう。なら良かったわ。ほら、絢。お喋りしてないで、寝なさい」
子供をあやすように、夏生梨はポンポンと布団を叩く。
「添い寝してくれたら大人しく寝る」
「……熱下げないといけないから『グラキエース・ランケア』で冷凍してあげようか?」
「魔法で凍らせないでください。ごめんなさい、冗談です、スミマセン」
デサフィアンテは笑うと今度は大人しく目を閉じた。やがて寝息を立て始めたのを確認すると、夏生梨はそっと立ち上がり、部屋を出た。
居間に戻ると、全員が夏生梨を見た。どの顔も心配そうだ。
「今のところ発熱以外の症状はないから、風邪じゃなくて過労みたいなものじゃないかしら。今までの疲れが一気に出たんだと思うわ」
夏生梨が言うと、皆が安心したような表情になる。重大な病ではなさそうだと安心したのだ。
「確かに、絢はずっとプリたちの中心になって頑張ってたからなぁ……」
「精神的な疲れが、こっちの肉体にも影響したってわけか。ゲームベースだから、てっきり病気なんかないと思ってたけど、そうじゃなかったってことか」
理也の言葉にイスパーダも応じる。この8ヶ月の間に『病人』が出たという話は聞かなかったが、実際にはこうしてデサフィアンテが熱を出している。病原菌やウィルスによる『病気』はなくとも、疲れや精神的不調による体調不良は有り得るということになる。
「でも、こういう病気とはいわないまでも体調を崩すことがあるなら、医者もいないし病院もないってのはちょっと怖いな」
冥き挑戦者の言葉に幾人かが同意する。
「医者いなきゃ、俺の知識も宝の持ち腐れだしな」
現実世界では薬剤師であるドロフォノスも同意する。医者の診断とそれに基づく処方箋がなければ、いくら彼でも調剤はできない。
「ちょっと聞いてみようかしら。確かアズさんの奥様、看護師だったような記憶があるのよね」
アズラクの【フィアナ・クロニクル】における配偶者・ジェナーがそうだったと以前に聞いたことがある。それを思い出した夏生梨は早速アズラクにウィスパーを送る。
〈今から俺とジェナーがそっちに行くな。あと、プリ連中にクラン員に医者や看護師いないか、確認してみるよ。今後のことも考えれば、確認しておいたほうが安心だしな〉
そうアズラクからの返答を得て、夏生梨は安堵する。医者ではないとはいえ、看護師という専門職に診てもらえるのならば、素人の見立てよりも遥かに安心だ。もっとも、デサフィアンテは今熟睡しているところだからと、約2時間後に来てもらうことになった。
夏生梨からのウィスパーを受けたアズラクは早速デサフィアンテ以外の『モナルキア連盟』の君主たちに連絡を取り、医者や看護師がいないかを確認した。幸いなことにガビールとクリノスのところに内科医が1名ずつ、更に番長のところに心療内科医がいることも判った。看護師はジェナーを含めて5人いた。
これを機に、君主たちの間で診療所を作ることで話がまとまり、実樹がセネノース城主である【レベリオン】血盟の君主フォルカと話をつけ、空き家を1軒提供してもらい、そこに診療所を開くことになった。3人の医師と5人の看護師が交代で診療を行なうことも決まる。話が出てから1週間後には、この世界で初めての診療所が開所する運びとなった。
結局、休養期間とはいいながら、この世界のために動いてしまう君主たちなのである。
ちなみに2時間後にやってきた【曼珠沙華】所属の医師によって、デサフィアンテは過労と診断され、深刻な病気などではないことに皆がホッとしたのであった。
「結局、プリたちって動いちゃうんだよな」
理也はそう言って苦笑する。彼は今、セネノースの酒場にいる。一緒にいるのはガイル・ラベクをはじめとした幹部連の数名だ。情報交換会と称した飲み会だった。
「まぁ、それがプリだしな」
ガイル・ラベクも同じように苦笑している。デサフィアンテの過労をきっかけに診療所を設立したことを言っているのだ。
「プリたちって、なるべくしてなった人たちばっかりだもんな」
そう応じるのは【ふぇんりる騎兵隊】のベラーターだ。
君主たちは『君主』というクラスだからそう行動しているわけではない。きっかけは確かにクラスゆえだが、元々彼らの気質が『君主』なのだ。だから、ゲームでもずっと君主というクラスでプレイし続けていたのだ。メインキャラクターを君主でプレイし続けるには、それは必要な気質だった。
君主の中には他のクラスをメインとしてプレイしつつ、加入や宣戦布告など君主の役目があるときだけ、君主クラスでINしていた者も少なくない。『ファトフ同盟』の君主たちは殆どがそうだし、実際にこの世界に来ている他クラスの者の中にも、血盟持ちの君主をサブキャラクターに持っている者もいる。
「絢なんて、キャラ枠の半分が君主だったしな。あとはナイトとエルフだっけ」
「しかも、ナイトとエルフはLv.45でストップだろ? 俺、あいつがプリ以外でINしてるの見たことないぞ」
理也の言葉に冥き挑戦者が笑いながら言う。
「絢だけじゃなくて、椎姫さんもアズさんもショウさんも、君主ってクラスに拘ってたよな」
それも血盟を持っている君主であることに拘っていた。血盟を運営することに楽しみと喜び、そしてある種のやり甲斐を感じていたのだ。
君主というクラスは直接戦闘においても魔法に関しても、最も能力値が低いといわれている。単純に戦うゲームを楽しみたいならば、誰もが避けるクラスだ。もっともアイテム保管のために『倉庫プリ』といわれる君主を作る者も多いが、それは大抵血盟倉庫を利用できるLv.10までしか育てず、それ以降は放置されるケースが殆どだ。ワールドチャットが可能なLv.30まで育てる者もいるが、それは少数派にすぎず、ましてや君主をメインキャラクターでプレイする者は更に少ない。全人口の5%しか、君主はいないのだ。
更に血盟を運営するとなれば、その苦労は他のクラスの比ではない。血盟を創設してある程度軌道に乗るまでの間、君主たちは自分が狩りをする時間などあまり持てないのが実情だった。血盟員を集めるための勧誘や、その後の加入手続き、新規血盟員が入ってくればそのプレイヤーが血盟に馴染めるように気を遣う。血盟員が何か問題を起こしたりトラブルに巻き込まれれば、その対応に走り回ることになる。
現在の【フィアナ・クロニクル】は個人主義になっているためそれほどでもなくなってはいるのだが、昔──この世界に召喚されているプレイヤーたちが遊んでいたころの【フィアナ・クロニクル】は、血盟がかなり大きな意味を持っていた。【フィアナ・クロニクル】を楽しめるかどうかは血盟選びにかかっているといえるほどに。
だからなのか、何か起こると各プレイヤー間で話をつけるよりも、間に互いの君主が入ることのほうが多かった。君主同士で話し合って折り合いをつける。問題を起こしたプレイヤーが謝罪するのはもちろん、君主が謝罪することも多かった。そして、そんな血盟としての対応をキッチリと行なう君主の許へ、プレイヤーたちは集まっていった。
現在よりも数倍のプレイヤー人口があった当時、人が多い分だけ問題人物も多かった。仲には言いがかりをつけてトラブルを起こして楽しむプレイヤーもいた。現実世界の『当たり屋』のようにいちゃもんをつけては金を要求するキャラクターもいたほどだ。そんなときには君主たちの横の繋がりが大きな意味を持った。君主たちはそういった問題人物の情報を共有し合い、協力して対応に当たったりもしたものだ。
「あのころのプリは本当に大変だったよな。何かあれば誰それのプリ、話があるって全茶で呼び出されたりしてたもんなぁ……」
本当に大変だったよなと溜息をつくのは【スピリット・スピリッツ】のエルフ、黒竜刃だ。現在君主たちが把握している仲では最年長者で、現実世界では大学生の息子がいる50代の男性である。ちなみにその息子はこの世界には来ていないが、【悠久の泉】に所属していた暴走剣士というナイトだ。そのため、【悠久の泉】のメンバーから彼は『パパさん』『親父さん』と呼ばれている。
「うちの息子も鷹絢さんには面倒かけたからな」
当時を思い出して黒竜刃が話し始める。【フィアナ・クロニクル】では今でも忘れられない出来事のひとつだ。プレイヤーとしてよりも父親として。当時息子の暴走剣士はまだ中学生だった。父と息子が同じゲームをしているということで、夕食の食卓での話題に【フィアナ・クロニクル】が上ることも少なくなかった。そのときに息子はよく自分の血盟を自慢していた。君主のデサフィアンテを兄のように慕っていた。1人っ子だった彼には、血盟の仲間が兄や姉のように思えていたのだろう。
「息子が詐欺と間違えられたことがあってね。全茶で散々、暴走剣士は詐欺師だって騒いでる奴がいたんだ」
それは平日の昼間のことだった。黒竜刃もデサフィアンテもたまたまその日は休日出勤の代休でINしていた日だった。
「ああ、あれね。俺も覚えてる」
それをデサフィアンテに知らせたのは当時大学生で昼間もINしていた迅速だ。そのワールドチャットを聞いてどうしようかと迷っているときにデサフィアンテがINし、知らせたのだ。デサフィアンテは迅速から事情を聞くと、あとは任せておけと請け負ってくれた。それに安心して、午後からの講義のために大学に行こうとログアウトした覚えがある。
迅速から話を聞いたデサフィアンテがしたことはまず、事実確認だった。そのために彼はワールドチャットした。『先ほど暴走剣士が詐欺をしたと仰ってた方、詳しくお話を伺いたいのでお手数ですがウィスをください』と。そして『ただ、ひとつ申し上げれば、彼は決してそんなことをするプレイヤーではありません』と付け加えた。
それから連絡をしてくれた相手とウィスパーで話し、暴走剣士ではないと確信したデサフィアンテはそれを説明した。暴走剣士はそんなことをするプレイヤーではないこと、第一彼が被害にあった時間帯に暴走剣士は学校があるから絶対にINできないこと、暴走剣士と似た名前のプレイヤーも存在していることを説明した。すると、そのプレイヤーはウィスパーのログを遡り、商品売買の詐欺を働いたプレイヤーが似た名前の別人であることを確認してくれた。そして、デサフィアンテに謝罪したうえで、ワールドチャットで『先ほど暴走剣士さんを詐欺だと言ったのは間違いだった。似た名前の爆走剣士が詐欺犯だった。暴走剣士さん、関係者の方、申し訳ありませんでした』と告知と謝罪をしてくれたのだ。
その騒ぎを見ていた黒竜刃は嬉しくなった。父である彼は息子が学校に行っていて無関係であることも、性格的にそんなことをするはずがないことも知っていたから、騒ぎを放置していた。どうせ騒ぎは一過性のものだろうと。昼間でINしているプレイヤーも少ないから大した影響もないだろうと思ったのも一因だった。
けれどデサフィアンテは違った。血盟員が巻き込まれるかもしれないトラブルに即座に対応していた。息子にかかった嫌疑を放置せず、すぐに対応し、誤解を解いてくれた。それが嬉しかった。だから『息子を信頼してくれてありがとう』とウィスパーを送った。するとデサフィアンテもすぐにウィスパーを返してきた。曰く、暴走剣士は大事な血盟員だし、ずっと一緒にプレイしてきたからそんなことをする子じゃないのはよく知っている。自分たちにとって暴走剣士は可愛い弟のようなものだと。
その言葉を聞いて、黒竜刃は息子が彼を慕っていることに納得した。『お父さんもうちに来たらいいのに。楽しいよ』と言っていたことにも。それに、デサフィアンテは親が言えば鬱陶しいと思われるようなことも言ってくれていた。
そろそろ反抗期に入る難しい年頃だった暴走剣士は親の言うことを鬱陶しがるようになっていた。それまではどれだけ五月蝿く勉強しろと言っても聞かなかった息子が、真面目にテスト前だけとはいえ勉強するようになったのは【悠久の泉】の血盟員たちのおかげだった。『ちゃんとテスト勉強してるんだな』と言った彼に、息子は笑って答えたのだ。『だって、プリがテスト前にINしたらBANするって言うんだもん。中学生は勉強が仕事だからって。でも、テスト終わったら、俺が行きたい狩場にクラハン連れて行ってくれるんだって』と。
血盟の皆は普段は彼を子供扱いせずに対等のプレイヤーとして接してくれるが、勉強に関してだけは厳しかった。成績のことは何も言わないが、最低限の勉強──つまり、宿題──をしていないと判れば叱られた。だから、彼は宿題を終えてからINするようになったし、テスト前には【フィアナ・クロニクル】を我慢した。平日には絶対に夜更かしをさせず、午後10時を過ぎれば『ここからは大人の時間だから、暴は寝ろ』と言われた。そのせいでクランハントには殆ど参加できなかったが、長期休暇や連休には暴走剣士の希望を優先して狩場を決めてくれた。それが暴走剣士にはとても嬉しいことだったのだ。
「ああ、それ、姐御の影響だな」
「姐御、教育関係の仕事してたしね」
当時のことを思い出して疾駆する狼と迅速は笑う。
「それに暴ちゃん素直で可愛かったしな。絢と姐御、暴ちゃんみたいな息子ほしいねーとか言ってたし」
息子を褒められて黒竜刃も擽ったい気分になる。今は大学生になって【フィアナ・クロニクル】からは離れた息子だが、時折思い出したように『プリ、今頃どうしてるんだろうな』と言うこともある。それほどに多感な中学生だった彼にとって、対等でいながら時には大人として正してくれる彼らの存在は影響力を持っていたのだ。現実世界に戻ってこの世界の話をしたら、きっと息子は羨ましがるだろうと思う。息子の大好きなプリとその仲間と、こうしてともに過ごしているのだから。もっとも、その前に『オヤジ、頭おかしくなった?』と信じない可能性も高いが。
「なんだかんだとプリたちって鷹絢さんに一目置いてたような」
ベラーターが言う。彼の君主であるアズラクだってそうだ。デサフィアンテが企画するイベントにはいつだって参加していたし、アズラクが何かをやろうとするときには、デサフィアンテに協力を求めていたことも知っている。
「うちの姫は自分でイベントとかやるタイプじゃなかったからな。でも、鷹絢さんがいつもうちの姫に真っ先に声かけてきてくれたおかげで、俺たちも楽しませてもらってた」
「サデ鯖誕生日イベントとかだな。いつもフィアさんが企画して、プリたちに声かけてくれて、それで俺たちも大騒ぎできたんだよな」
「あとプリツアーな。あのころ、プリだけでTOJとか無謀だろうって企画立ててさ」
「そうそう。なのにプリたち嬉々として参加してさー。やっぱアレだな。プリって基本的にマゾだよな」
「マゾじゃなきゃやらないだろ、あんなきついクラス」
幹部たちは笑いながら昔を懐かしむ。それぞれが自分たちの君主を本当に好きだったのだ。ゲーム内の付き合いしかないとはいえ、現実世界とはまた違った友情を感じていた。だからこそ、この世界で再会したとき、複雑な気持ちもあったとはいえ、嬉しかったのだ。
「マゾいっつーか、この世界だと、自己犠牲精神が強すぎるっつーか」
ガイル・ラベクが溜息をつく。君主たちが率先して動いてくれたから、この世界は落ち着き、プレイヤーは生活していくことができているのだ。君主たちが動いていなければ、この世界はきっとバラバラのままだっただろう。血盟ごと、或いは個人が好き勝手に動いて、互いの利益だけを求めて収拾がつかなくなっていたのではないか。恐らく死者も出ていたに違いない。そして、タドミールの討伐も叶わない世界となっていたのではないだろうか。
「まぁ、そんなプリたちが無理をし過ぎないように、俺たちがサポートしないとな」
最年長の黒竜刃の言葉に他のメンバー立ちも頷く。責任感の強い君主たちが必要以上のものを背負わないように、自分たちもこうして集まっては情報交換をしているのだ。
「とりあえず、プリたちの休養期間中に問題が起きないように、クラン員の管理しっかりやるか」
「皆そんな馬鹿じゃないから、大丈夫だろうけどね」
君主たちに感謝して、君主たちをサポートしたいと思っているのは、幹部だけではない。殆どの血盟員たちがそう思っているのだ。
「ってか、【水都華園】と【疾風怒濤】と【奔放な奴ら】は幹部連に参加してないよな……。それも今回の問題の一端か」
「【水都華園】はジートコエ・チェロあたりに声をかけてみるとして、他の2クランは誰か幹部らしいのっているのかね」
「伝手辿って、全クラン幹部連参加もこの休養期間中にやるか。そうすりゃプリたちが活動再開したとき、ちょっとはマシだろ」
更に今回の休養のきっかけになった3つの血盟に対する幹部連としての働きかけも検討する。全ては君主たちのため、ひいてはこの世界に生きる全てのプレイヤーたちのためだ。
「なんかさ、この世界も悪くないよな。現実世界より善人が多い気がする」
「そうそう、それ思うわ。なんつーか、皆思い遣りに溢れてるっつーか?」
「互いに気遣い労わり合ってるしなぁ。現実世界じゃ有り得ねーよな」
普通なら自己の利益を求めようとしたり、大袈裟なものではなくとも大なり小なり衝突や問題は起きそうなものなのに、この世界では、少なくとも各血盟内ではそれがない。これまでにあった対立は『ファトフ同盟』が絡んできたものだけだ。
「まぁ、皆それぞれいい歳した大人だしな。多分、現実世界じゃないからこそ、それができてるんだろうけど」
現実世界ではないから、利害関係がない。学歴も関係ない。社会的地位も関係ない。家族のしがらみもない。そんな世界だから、ただ『自分』としていられる。だから、皆が大人の対応ができるのだろうと思う。『ファトフ同盟』のように利己的な者たちもいるが、『生活』には直結していないから放置もできる。
「どうせ現実世界の時間は止まってるんだから、こんな世界も悪くはないな。皆が善人な世界、いいじゃねーの」
「だな。タドミールが現れるまでのタイムリミットのある世界だけどな。ああ、タイムリミットがあるって判ってるから、皆好い人でいられるのかもしれないな」
所詮現実ではないから。自分たちの日常とはかけ離れた異世界だから。その共通認識があるから、エゴを抑えられるのだろう。現実では難しい、理想的な自分で、『好い人』でいられるのかもしれない。
「にしても、タドミール出ないな」
「いいんじゃね? 少なくともプリたちの休養期間終わるまでは出ないでほしいね。出たら出たで、『ファトフ同盟』との調整とか、プリたちも色々忙しくなるだろうしさ」
君主たちが心身の疲れを癒しきるまで、何も起こらないでほしい。彼らはそう願った。
理也たち幹部連が君主の平穏を願っているとき、デサフィアンテは落ち着かない時間を過ごしていた。心臓はバクバクと早鐘を打ち、掌にはじんわりと汗が滲んでいる。もっとも、彼の緊張はこの世界とは全く関係のないことだった。
「……」
デサフィアンテの正面には夏生梨がいる。場所は夏生梨の部屋だ。夏生梨はデサフィアンテから告げられた内容に驚き、言葉が出ない様子だった。
デサフィアンテは再会してからずっと心に秘めてきた願いを彼女に告げたのだ。
「言わないほうがいいって、ずっと思ってきた。夏生梨には迷惑だろうって判ってる……と思う」
デサフィアンテは告げたのだ。この世界にいる間だけでもいい、もう一度恋人になってほしいと。
「気まずくなるかもしれないと思ったよ。だから、夏生梨が望むなら、椎姫とかファーネさんとか、ロハゴスとか番長とか、別のクランに移っても仕方ないと思ってる……」
沈黙が怖くて、デサフィアンテは言葉を継ぐ。名を挙げた君主の血盟には夏生梨は別キャラクターで在籍したこともあるから、移籍しても歓迎されるだろう。
「……私はEOが好きよ。ここにいる。それに、どうして私が嫌がるって、迷惑に思うって決め付けるの?」
「え?」
「本当に、私でいいの? 私、絢より6つも年上だわ。もうアラフォーのおばさんよ。結婚だってしたわ」
夏生梨はまっすぐにデサフィアンテを見つめる。
「夏生梨がいいんだ。じゃなきゃ、こんなこと言わないだろ。俺ずっと夏生梨の……風織のこと忘れられなかった。今でも愛してる」
その真剣な眼差しに夏生梨は昔を思い出す。彼に始めて求愛されたときと同じ目をしている。あのころデサフィアンテ──絢人はまだ19歳だった。そのころと真摯で一途な瞳は変わっていない。歳を重ねた分だけ、そこに包容力も加わっている。
「浮気、しないって誓う?」
「誓う」
デサフィアンテは即答する。それが2人が別れた直接の原因だ。
「私ね、別れてから気づいたことがあるの。絢人が浮気を繰り返したの、あれって私に絢人を捨てさせるためだったんだよね」
疑問形ではなく確信している口調で夏生梨は言う。
「絢人が完治したあと、私、それでも怖かった。いつ再発するかって……。それに気づいてたから、絢人、あんなことしたんだよね。自分が悪者になって」
「……俺が馬鹿なだけだって」
夏生梨の言うことは間違いではなかった。いつ再発するかもしれないという恐怖は2人ともにあった。そしてそれは自身の問題である絢人よりも、彼を愛している風織に大きな恐怖を与えていたのだ。そういう弱さを風織が持っていることを絢人は知っていた。それに絢人は耐えられなかった。自分のせいで愛する女がいつも心に恐怖を抱えていることが耐えられなかった。だから別れようと思った。しかし、自分から別れを切り出しても風織は納得しないと思った。聡い彼女のことだから、きっとそれが自分を思い遣ってのことだと気づくと思った。それゆえに絢人は風織が自分に愛想を尽かすように浮気を繰り返した。わざと気づかれるようにして。
「私もあなたのこと好きよ。忘れられたと思ってたけど、ずっと心の奥底に眠っていただけだったわ」
結婚はした。お見合い結婚だったけれど、相手は信頼できる人だった。喪ったときには悲しかった。けれど、愛していたかと問われれば判らない。少なくとも絢人に抱いたような情熱的な想いではなかった。そして絢人への思いはずっと心の奥底で眠っていた。夫はそれを知っていた。それを承知の上で彼は風織と結婚したのだ。自分にも忘れられない恋がある。そんな2人だからこそ、信頼の上に夫婦関係を築いていけるのではないかと、そう夫は言ったのだ。そして、そんな関係を作り上げている最中に夫は旅立ってしまった。
「現実世界に戻ってからのことは、戻ってから考えましょう」
夏生梨はそう言って微笑む。素直にデサフィアンテの言葉は嬉しかったのだ。戸惑いはしたが、嫌な気持ちは微塵も湧かなかった。ただ、純粋に嬉しかった。
「ああ。そうだな。現実世界のことは現実世界で考えよう」
嬉しさに表情を綻ばせ、デサフィアンテは夏生梨を抱き締める。一度は自ら捨てた恋。まさか、この世界でもう一度この恋を始められるとは思いもしなかった。この世界の中だけの関係かもしれないけれど、それでも充分だった。
「好きよ、絢」
人生の中で一番好きだった人。一番愛した人。仮想現実の異世界で再会して、ともに戦ってきた。この世界だからこそ、現実のしがらみのない世界だからこそ、素直に彼への想いも、彼の想いも受け容れることができた。
2人は顔を見合わせるとどちらともなくくすっと笑う。照れ臭くて、擽ったい気分になる。けれど、幸福感に満たされていた。
恋人同士に戻ったとはいえ、2人は別にそれを宣言したりはしなかった。しかし、数日経ったころ、2人の関係の変化に千珠が気づいた。恋人として復縁したとはいえ、2人の態度に大きな変化は見られなかった。かつて恋人同士だったころも、現実世界の2人の関係はべったりとしたところもなく、友人たちからは熟年夫婦みたいだと笑われていたくらいだった。それでもやはりというか、わずかな変化から千珠が気づき、デサフィアンテは隠すことでもないと復縁を認めた。
密かに心配していた血盟員たちはそれを喜んだ。そして、彼らは2人が【フィアナ・クロニクル】で婚姻関係にあることも知っていた。この世界に来てからFCH婚したわけではなく、引退前にしていたものを解消していなかっただけではあるのだが。
「FCH婚してるわけだし、復縁したんだし、いっそ、結婚式やらね? 確か、絢と姐御、FCHで結婚式しなかったよな」
2人がいない席でイスパーダがそう提案した。
ゲーム内での結婚はテレポート(配偶者の許へのみ転移可能)機能の付いたペアの指輪を持ち、求婚のコマンドを入力、相手がそれを受けることで成立する。しかし、それだけではなく結婚式を行なう者も少なくない。殊、君主が結婚する場合は血盟イベントとして行なうことも多い。しかし、デサフィアンテたちは鷹村絢からのキャラクター移行期にFCH婚していたこともあって、結婚式はしていなかった。
「いいな、それ。盛大にお祝いしようぜ」
「プリ友たちにも来てもらって、来賓祝辞とかな」
盛り上がる男性陣に対して、現実世界で夏生梨が未亡人であることを知っている千珠とアルシェは複雑そうな表情をしている。デサフィアンテとの復縁は夏生梨のためにもいいことだと思いはするものの、結婚式となれば夏生梨は複雑なのではないかと。
「サプライズでやるか?」
「あ、それはやめて」
冥き挑戦者の言葉に咄嗟に千珠は反対する。結婚式となれば、やはり夏生梨の気持ちを確かめたほうがいい。
怪訝そうな表情の男性陣に、しかし夏生梨のデリケートなプライベートを勝手に明かすわけにもいかず、千珠は慌てて言葉を繕う。
「結婚式となれば、女にとっては色々重要なのよ。夢とかあるし。たとえ異世界でのこととはいっても、結婚式には変わりないんだし」
「そうですねー。それに、姐御にウェディングドレスとか着てほしくないですか? フィアさんもそのほうが嬉しいと思うし。そうなったらサプライズは難しいですよー」
アルシェもフォローするように言い添える。女性2人の言葉に男たちはそれもそうかと納得する。結婚式となれば主役は当然ながら新郎新婦だ。その主役に内緒で結婚式というのは、考えてみれば有り得ないことだ。
「んじゃ、俺らから結婚式を挙げてほしい、準備は俺たちがやるってことで、絢たちに提案するか」
理也の言葉に反対する者はいなかった。千珠とアルシェにしても夏生梨がそれを望むなら是非とも祝いたいところだ。善は急げとばかりに、理也とイスパーダがデサフィアンテたちに提案しに行く。それを見送りながら、残ったメンバーは早速結婚式についてあれこれと話を進める。つまり理也たちは結婚式を提案しに行ったのではなく、許可をもぎ取りに、許可が出なければ出るまで説得するためにデサフィアンテたちの所へ行ったのだ。
「絢のダチには招待状を送って……介添え人とかいるよな。椎姫さん夫妻かアズラクさん夫妻かな?」
「それって仲人だろ。絢の介添え人は理也がやりたがるんじゃね?」
「姐御の父親役は年齢的に冥さんか黒竜パパさんかな。あ、いっそ姐御憧れのうめ蔵さんに依頼するとか?」
「それ、夏生梨のテンション上がりすぎて、絢君拗ねると思うわよ」
「まぁ、うちのクランはスタッフすることになるから、よそのクランの人に頼んだほうがいいよな」
「私たちの結婚式は夏生梨さんが仕切ってくれましたね。とてもいい結婚式を演出してくださった」
「ああ、あれかー。俺たちも挙式スタッフやったよな」
「それぞれの友人代表挨拶とかあったし。ライスシャワーならぬ花火シャワーとかな。やっぱ、友人挨拶するなら、姐御の友人代表は千珠さんかな? 絢のは……揉めそう。1人じゃ済まなさそうだぞ」
あれこれと盛り上がる。ここのところあまりいいニュースがなかったフィアナだけに、ここはひとつお祝い事で盛り上がりたいのだ。デサフィアンテは今やこの世界では最も有名な君主の1人だ。そのデサフィアンテの慶事ともなれば、君主仲間とその血盟員も多いに盛り上がるだろう。
「絢と姐御からOK出たぞー」
そこに理也たちが戻ってくる。2人も初めは戸惑ったらしいが、血盟員が祝ってくれるというのを断ることはできなかったようだ。それにお祝い事をやることに意味を見出したのだろう。それが自分たちの結婚式というのは気恥ずかしいし、思うところがないでもないが、お祝い事を行なうことで少しでも皆の気持ちが明るくなるのであれば、それもいいと思ったのだ。
「じゃあ、早速明日にでも椎姫さんたちに連絡して、結婚式の準備始めよう。あ、絢と姐御はなんか希望とかあるのかな?」
「特にないらしいよ。任せるってさ。ああ、でもあんまりマルクはかけるな、大袈裟にはするなとは言ってた」
「うん、無理。俺ら、盛大に祝いたいもん」
「俺らにしては大袈裟にしてないんだよーって言い訳。それでOK」
明るく笑い合う。当事者以上に彼らがこの結婚を喜んでいるのだ。
「ウェディングドレスとかどうするよ? 注文端末にはさすがにないよな?」
「洋裁できる人とかいるかな?」
「私は無理ですよー……」
「私もさすがにそれは……」
向けられた視線にアルシェと千珠は首を振る。
「絢の結婚式だぜ? この世界に貢献半端ないんだから、きっとイル・ダーナもウェディングドレスとタキシードくらい準備してくれるって」
いつの間にか商品の増える『フィアナ・モール』──注文端末からアクセスするページにはいつの間にかそんな名前がついていた──だ。きっとこの会話もイル・ダーナは聞いているに違いない。そうチャルラタンが言えば、皆が笑った。
「そうと決まれば、招待客リストアップな。プリさんたちは皆で、あとは絢や姐御と仲のいい人か。となると……」
自分のパソコンを開いて、招待客のリストアップを迅速が始める。招待状は『便箋』と呼ばれるゲーム内のメール機能で送ることになるが、その文面も考えなくてはならない。
「披露宴はミレシアの宿屋でいいよな。大聖堂の隣にあっただろ」
「料理の仕出しとかあるのかね? てか、宿屋で料理や酒とか準備してくれるように交渉できるかな」
和気藹々と盛り上がる。心配していた千珠とアルシェも、夏生梨が承諾したことで安心して会話に加わる。
「夏生梨の事に関しては女同士で色々と決めるわね。椎姫さんとか三色菫さんとかと」
「ですねー。姐御、美人でスタイルもいいから、ウェディングドレスはどんな者でも似合いそうですし」
こうして、翌日には各君主の許へデサフィアンテと夏生梨の結婚式を行なうことが伝えられ、【悠久の泉】血盟員と『モナルキア連盟』の君主たちが揃って準備に走り回ることになった。主役のデサフィアンテと夏生梨は希望を聞かれただけで、準備に携わらせてもらえなかった。
「俺たちが祝いたいからやることだからな。絢と姐御は何もしなくていいよ。全部俺らに任せてくれ」
口出しも手出しも拒否されたデサフィアンテと夏生梨は苦笑するしかなく、準備してくれる友人たちに言われるままに衣装合わせをしたり、決定事項を聞かされたりするだけだった。
「俺たちの結婚に託けて騒ぎたいだけじゃねーのか」
「皆楽しそうだし、それでいいんじゃないの?」
何もすることのない新郎新婦は、お茶を飲みながらそんな会話をするのだった。
そして約10日後、ミレシアの大聖堂において2人の結婚式が、その隣の宿屋で披露宴が盛大に行なわれたのである。しっかりフィアナ・モールに入荷していたタキシードとウェディングドレスを新郎新婦は身にまとっていた。
結婚式は誰でも自由に参加でき、その後の披露宴は料理やキャパシティの関係から、血盟員と君主仲間、2人と近しい者、合わせて50人ほどで行なわれた。
デサフィアンテの友人代表祝辞は椎姫・アズラク・ショウグンが、夏生梨側は千珠とファーネ、三色菫が述べた。デサフィアンテ側は立候補が多かったため、血盟員は遠慮することになった。もっとも、友人代表という形ではなく、血盟員代表として理也が大泣きしながら祝辞を述べたのではあるが。ちなみに血盟代表を誰がやるかでジャンケン大会となったのはデサフィアンテには内緒である。
デサフィアンテと夏生梨の結婚式は明るいニュースとなってフィアナを沸かせた。そしてこれをきっかけにフィアナでは一大結婚ブームが起こり、澱んでいたフィアナの空気は一気に明るさを取り戻したのである。
それは、やがて巻き起こる嵐の前の、一時の平和な時間だった。
「大人しく寝てなさい!」
デサフィアンテをベッドに押し込めながら、夏生梨は言う。
「大袈裟だって」
「風邪は引き始めが肝心! 大人しく寝てなさい」
デサフィアンテは熱を出していた。それに気づいた夏生梨がデサフィアンテを寝室へと追い立てたというわけだ。この世界には医者もいないし病院もないから、無理は禁物だ。
「姐御、氷枕持ってきましたー」
そこにアルシェが氷枕と解熱剤を持って現れる。市販薬ならば注文端末から入手可能だから、その点は有り難かった。
「フィアさん、大人しく寝てないとダメですよー。姐御の言うこと聞いて」
メッと叱るアルシェに、デサフィアンテもようやく観念したのか、大人しくベッドに横たわる。
「じゃあ、フィアさんの看病兼見張りは姐御にお任せしますねー。晩御飯は千珠さんと私で作りますー。あ、フィアさんはお粥のほうがいいですかね」
「それは様子を見て決めるわ。ありがと、アル」
大人しくなったデサフィアンテに体温計を咥えさせ、夏生梨は応じる。しばらくしてピピピと体温計が測定を終えたことを知らせ、デサフィアンテはその示した数値を見た途端に具合の悪さを自覚した。
「38度5分。ほら、やっぱり熱あるし」
呆れたように夏生梨がデサフィアンテを軽く睨む。
「あらあら。じゃあ、フィアさん、お大事にー」
「おう」
熱が高いと判った瞬間から途端に病人の顔になったデサフィアンテに苦笑し、アルシェは部屋を出て行く。部屋の外には心配そうな表情の血盟員たちがいるから、報告しなければ彼らも落ち着かないだろう。
アルシェが出て行き2人になると、デサフィアンテが申し訳なさそうな表情で夏生梨を見遣る。
「悪いな、迷惑かけて」
「気にしないで。慣れてる」
夏生梨はクスリと笑って応じる。かつて現実世界で同棲していたときから慣れていることだ。
デサフィアンテは責任感が強いせいか、仕事でも無理をすることが多々あった。大きな仕事になれば特にそうなってしまい、彼の体調管理や精神状態の把握は夏生梨の役割だった。もっとも、それはお互いにいえることで、互いに管理し合っていたのだ。デサフィアンテ──絢人は大きな仕事を終えると決まって熱を出した。疲れが一気に押し寄せるのだ。平日は平気な顔をしているくせに、週末の休日となると熱を出して寝込むことも少なくなかった。だから風織は食事に気を遣い、彼が無理をしすぎないように注意を払っていたのだ。
「絢、この8ヶ月、気を張りどおしだったもの。まぁ、こうなることは予想の範囲内ね」
「そっか。だよなぁ……。現実世界でも風織がいてくれたから、俺、頑張れたんだもんな」
デサフィアンテはかつての恋人だったころを思い出しながら言う。
「6年前だってそうだ。風織が俺の微妙な変化に気づいてくれたから、早期発見できたんだし」
6年前、絢人は大病を患った。気づくのが遅ければ命に関わるほど重大な病だった。けれど、いち早く彼のわずかな変化に気づいた風織が、無理矢理休みを取らせて病院に引っ張って行ってくれたおかげで早期発見でき、完治することができた。その治療のために【フィアナ・クロニクル】を休止することになり、それが結果的に引退へと繋がったが、命と遊びを秤にはかけられない。
「そうだったかしら。あれから、どう?」
「ちゃんと定期健診には行ってるよ。……大丈夫」
心配そうな夏生梨を安心させるように、デサフィアンテは笑う。
「そう。なら良かったわ。ほら、絢。お喋りしてないで、寝なさい」
子供をあやすように、夏生梨はポンポンと布団を叩く。
「添い寝してくれたら大人しく寝る」
「……熱下げないといけないから『グラキエース・ランケア』で冷凍してあげようか?」
「魔法で凍らせないでください。ごめんなさい、冗談です、スミマセン」
デサフィアンテは笑うと今度は大人しく目を閉じた。やがて寝息を立て始めたのを確認すると、夏生梨はそっと立ち上がり、部屋を出た。
居間に戻ると、全員が夏生梨を見た。どの顔も心配そうだ。
「今のところ発熱以外の症状はないから、風邪じゃなくて過労みたいなものじゃないかしら。今までの疲れが一気に出たんだと思うわ」
夏生梨が言うと、皆が安心したような表情になる。重大な病ではなさそうだと安心したのだ。
「確かに、絢はずっとプリたちの中心になって頑張ってたからなぁ……」
「精神的な疲れが、こっちの肉体にも影響したってわけか。ゲームベースだから、てっきり病気なんかないと思ってたけど、そうじゃなかったってことか」
理也の言葉にイスパーダも応じる。この8ヶ月の間に『病人』が出たという話は聞かなかったが、実際にはこうしてデサフィアンテが熱を出している。病原菌やウィルスによる『病気』はなくとも、疲れや精神的不調による体調不良は有り得るということになる。
「でも、こういう病気とはいわないまでも体調を崩すことがあるなら、医者もいないし病院もないってのはちょっと怖いな」
冥き挑戦者の言葉に幾人かが同意する。
「医者いなきゃ、俺の知識も宝の持ち腐れだしな」
現実世界では薬剤師であるドロフォノスも同意する。医者の診断とそれに基づく処方箋がなければ、いくら彼でも調剤はできない。
「ちょっと聞いてみようかしら。確かアズさんの奥様、看護師だったような記憶があるのよね」
アズラクの【フィアナ・クロニクル】における配偶者・ジェナーがそうだったと以前に聞いたことがある。それを思い出した夏生梨は早速アズラクにウィスパーを送る。
〈今から俺とジェナーがそっちに行くな。あと、プリ連中にクラン員に医者や看護師いないか、確認してみるよ。今後のことも考えれば、確認しておいたほうが安心だしな〉
そうアズラクからの返答を得て、夏生梨は安堵する。医者ではないとはいえ、看護師という専門職に診てもらえるのならば、素人の見立てよりも遥かに安心だ。もっとも、デサフィアンテは今熟睡しているところだからと、約2時間後に来てもらうことになった。
夏生梨からのウィスパーを受けたアズラクは早速デサフィアンテ以外の『モナルキア連盟』の君主たちに連絡を取り、医者や看護師がいないかを確認した。幸いなことにガビールとクリノスのところに内科医が1名ずつ、更に番長のところに心療内科医がいることも判った。看護師はジェナーを含めて5人いた。
これを機に、君主たちの間で診療所を作ることで話がまとまり、実樹がセネノース城主である【レベリオン】血盟の君主フォルカと話をつけ、空き家を1軒提供してもらい、そこに診療所を開くことになった。3人の医師と5人の看護師が交代で診療を行なうことも決まる。話が出てから1週間後には、この世界で初めての診療所が開所する運びとなった。
結局、休養期間とはいいながら、この世界のために動いてしまう君主たちなのである。
ちなみに2時間後にやってきた【曼珠沙華】所属の医師によって、デサフィアンテは過労と診断され、深刻な病気などではないことに皆がホッとしたのであった。
「結局、プリたちって動いちゃうんだよな」
理也はそう言って苦笑する。彼は今、セネノースの酒場にいる。一緒にいるのはガイル・ラベクをはじめとした幹部連の数名だ。情報交換会と称した飲み会だった。
「まぁ、それがプリだしな」
ガイル・ラベクも同じように苦笑している。デサフィアンテの過労をきっかけに診療所を設立したことを言っているのだ。
「プリたちって、なるべくしてなった人たちばっかりだもんな」
そう応じるのは【ふぇんりる騎兵隊】のベラーターだ。
君主たちは『君主』というクラスだからそう行動しているわけではない。きっかけは確かにクラスゆえだが、元々彼らの気質が『君主』なのだ。だから、ゲームでもずっと君主というクラスでプレイし続けていたのだ。メインキャラクターを君主でプレイし続けるには、それは必要な気質だった。
君主の中には他のクラスをメインとしてプレイしつつ、加入や宣戦布告など君主の役目があるときだけ、君主クラスでINしていた者も少なくない。『ファトフ同盟』の君主たちは殆どがそうだし、実際にこの世界に来ている他クラスの者の中にも、血盟持ちの君主をサブキャラクターに持っている者もいる。
「絢なんて、キャラ枠の半分が君主だったしな。あとはナイトとエルフだっけ」
「しかも、ナイトとエルフはLv.45でストップだろ? 俺、あいつがプリ以外でINしてるの見たことないぞ」
理也の言葉に冥き挑戦者が笑いながら言う。
「絢だけじゃなくて、椎姫さんもアズさんもショウさんも、君主ってクラスに拘ってたよな」
それも血盟を持っている君主であることに拘っていた。血盟を運営することに楽しみと喜び、そしてある種のやり甲斐を感じていたのだ。
君主というクラスは直接戦闘においても魔法に関しても、最も能力値が低いといわれている。単純に戦うゲームを楽しみたいならば、誰もが避けるクラスだ。もっともアイテム保管のために『倉庫プリ』といわれる君主を作る者も多いが、それは大抵血盟倉庫を利用できるLv.10までしか育てず、それ以降は放置されるケースが殆どだ。ワールドチャットが可能なLv.30まで育てる者もいるが、それは少数派にすぎず、ましてや君主をメインキャラクターでプレイする者は更に少ない。全人口の5%しか、君主はいないのだ。
更に血盟を運営するとなれば、その苦労は他のクラスの比ではない。血盟を創設してある程度軌道に乗るまでの間、君主たちは自分が狩りをする時間などあまり持てないのが実情だった。血盟員を集めるための勧誘や、その後の加入手続き、新規血盟員が入ってくればそのプレイヤーが血盟に馴染めるように気を遣う。血盟員が何か問題を起こしたりトラブルに巻き込まれれば、その対応に走り回ることになる。
現在の【フィアナ・クロニクル】は個人主義になっているためそれほどでもなくなってはいるのだが、昔──この世界に召喚されているプレイヤーたちが遊んでいたころの【フィアナ・クロニクル】は、血盟がかなり大きな意味を持っていた。【フィアナ・クロニクル】を楽しめるかどうかは血盟選びにかかっているといえるほどに。
だからなのか、何か起こると各プレイヤー間で話をつけるよりも、間に互いの君主が入ることのほうが多かった。君主同士で話し合って折り合いをつける。問題を起こしたプレイヤーが謝罪するのはもちろん、君主が謝罪することも多かった。そして、そんな血盟としての対応をキッチリと行なう君主の許へ、プレイヤーたちは集まっていった。
現在よりも数倍のプレイヤー人口があった当時、人が多い分だけ問題人物も多かった。仲には言いがかりをつけてトラブルを起こして楽しむプレイヤーもいた。現実世界の『当たり屋』のようにいちゃもんをつけては金を要求するキャラクターもいたほどだ。そんなときには君主たちの横の繋がりが大きな意味を持った。君主たちはそういった問題人物の情報を共有し合い、協力して対応に当たったりもしたものだ。
「あのころのプリは本当に大変だったよな。何かあれば誰それのプリ、話があるって全茶で呼び出されたりしてたもんなぁ……」
本当に大変だったよなと溜息をつくのは【スピリット・スピリッツ】のエルフ、黒竜刃だ。現在君主たちが把握している仲では最年長者で、現実世界では大学生の息子がいる50代の男性である。ちなみにその息子はこの世界には来ていないが、【悠久の泉】に所属していた暴走剣士というナイトだ。そのため、【悠久の泉】のメンバーから彼は『パパさん』『親父さん』と呼ばれている。
「うちの息子も鷹絢さんには面倒かけたからな」
当時を思い出して黒竜刃が話し始める。【フィアナ・クロニクル】では今でも忘れられない出来事のひとつだ。プレイヤーとしてよりも父親として。当時息子の暴走剣士はまだ中学生だった。父と息子が同じゲームをしているということで、夕食の食卓での話題に【フィアナ・クロニクル】が上ることも少なくなかった。そのときに息子はよく自分の血盟を自慢していた。君主のデサフィアンテを兄のように慕っていた。1人っ子だった彼には、血盟の仲間が兄や姉のように思えていたのだろう。
「息子が詐欺と間違えられたことがあってね。全茶で散々、暴走剣士は詐欺師だって騒いでる奴がいたんだ」
それは平日の昼間のことだった。黒竜刃もデサフィアンテもたまたまその日は休日出勤の代休でINしていた日だった。
「ああ、あれね。俺も覚えてる」
それをデサフィアンテに知らせたのは当時大学生で昼間もINしていた迅速だ。そのワールドチャットを聞いてどうしようかと迷っているときにデサフィアンテがINし、知らせたのだ。デサフィアンテは迅速から事情を聞くと、あとは任せておけと請け負ってくれた。それに安心して、午後からの講義のために大学に行こうとログアウトした覚えがある。
迅速から話を聞いたデサフィアンテがしたことはまず、事実確認だった。そのために彼はワールドチャットした。『先ほど暴走剣士が詐欺をしたと仰ってた方、詳しくお話を伺いたいのでお手数ですがウィスをください』と。そして『ただ、ひとつ申し上げれば、彼は決してそんなことをするプレイヤーではありません』と付け加えた。
それから連絡をしてくれた相手とウィスパーで話し、暴走剣士ではないと確信したデサフィアンテはそれを説明した。暴走剣士はそんなことをするプレイヤーではないこと、第一彼が被害にあった時間帯に暴走剣士は学校があるから絶対にINできないこと、暴走剣士と似た名前のプレイヤーも存在していることを説明した。すると、そのプレイヤーはウィスパーのログを遡り、商品売買の詐欺を働いたプレイヤーが似た名前の別人であることを確認してくれた。そして、デサフィアンテに謝罪したうえで、ワールドチャットで『先ほど暴走剣士さんを詐欺だと言ったのは間違いだった。似た名前の爆走剣士が詐欺犯だった。暴走剣士さん、関係者の方、申し訳ありませんでした』と告知と謝罪をしてくれたのだ。
その騒ぎを見ていた黒竜刃は嬉しくなった。父である彼は息子が学校に行っていて無関係であることも、性格的にそんなことをするはずがないことも知っていたから、騒ぎを放置していた。どうせ騒ぎは一過性のものだろうと。昼間でINしているプレイヤーも少ないから大した影響もないだろうと思ったのも一因だった。
けれどデサフィアンテは違った。血盟員が巻き込まれるかもしれないトラブルに即座に対応していた。息子にかかった嫌疑を放置せず、すぐに対応し、誤解を解いてくれた。それが嬉しかった。だから『息子を信頼してくれてありがとう』とウィスパーを送った。するとデサフィアンテもすぐにウィスパーを返してきた。曰く、暴走剣士は大事な血盟員だし、ずっと一緒にプレイしてきたからそんなことをする子じゃないのはよく知っている。自分たちにとって暴走剣士は可愛い弟のようなものだと。
その言葉を聞いて、黒竜刃は息子が彼を慕っていることに納得した。『お父さんもうちに来たらいいのに。楽しいよ』と言っていたことにも。それに、デサフィアンテは親が言えば鬱陶しいと思われるようなことも言ってくれていた。
そろそろ反抗期に入る難しい年頃だった暴走剣士は親の言うことを鬱陶しがるようになっていた。それまではどれだけ五月蝿く勉強しろと言っても聞かなかった息子が、真面目にテスト前だけとはいえ勉強するようになったのは【悠久の泉】の血盟員たちのおかげだった。『ちゃんとテスト勉強してるんだな』と言った彼に、息子は笑って答えたのだ。『だって、プリがテスト前にINしたらBANするって言うんだもん。中学生は勉強が仕事だからって。でも、テスト終わったら、俺が行きたい狩場にクラハン連れて行ってくれるんだって』と。
血盟の皆は普段は彼を子供扱いせずに対等のプレイヤーとして接してくれるが、勉強に関してだけは厳しかった。成績のことは何も言わないが、最低限の勉強──つまり、宿題──をしていないと判れば叱られた。だから、彼は宿題を終えてからINするようになったし、テスト前には【フィアナ・クロニクル】を我慢した。平日には絶対に夜更かしをさせず、午後10時を過ぎれば『ここからは大人の時間だから、暴は寝ろ』と言われた。そのせいでクランハントには殆ど参加できなかったが、長期休暇や連休には暴走剣士の希望を優先して狩場を決めてくれた。それが暴走剣士にはとても嬉しいことだったのだ。
「ああ、それ、姐御の影響だな」
「姐御、教育関係の仕事してたしね」
当時のことを思い出して疾駆する狼と迅速は笑う。
「それに暴ちゃん素直で可愛かったしな。絢と姐御、暴ちゃんみたいな息子ほしいねーとか言ってたし」
息子を褒められて黒竜刃も擽ったい気分になる。今は大学生になって【フィアナ・クロニクル】からは離れた息子だが、時折思い出したように『プリ、今頃どうしてるんだろうな』と言うこともある。それほどに多感な中学生だった彼にとって、対等でいながら時には大人として正してくれる彼らの存在は影響力を持っていたのだ。現実世界に戻ってこの世界の話をしたら、きっと息子は羨ましがるだろうと思う。息子の大好きなプリとその仲間と、こうしてともに過ごしているのだから。もっとも、その前に『オヤジ、頭おかしくなった?』と信じない可能性も高いが。
「なんだかんだとプリたちって鷹絢さんに一目置いてたような」
ベラーターが言う。彼の君主であるアズラクだってそうだ。デサフィアンテが企画するイベントにはいつだって参加していたし、アズラクが何かをやろうとするときには、デサフィアンテに協力を求めていたことも知っている。
「うちの姫は自分でイベントとかやるタイプじゃなかったからな。でも、鷹絢さんがいつもうちの姫に真っ先に声かけてきてくれたおかげで、俺たちも楽しませてもらってた」
「サデ鯖誕生日イベントとかだな。いつもフィアさんが企画して、プリたちに声かけてくれて、それで俺たちも大騒ぎできたんだよな」
「あとプリツアーな。あのころ、プリだけでTOJとか無謀だろうって企画立ててさ」
「そうそう。なのにプリたち嬉々として参加してさー。やっぱアレだな。プリって基本的にマゾだよな」
「マゾじゃなきゃやらないだろ、あんなきついクラス」
幹部たちは笑いながら昔を懐かしむ。それぞれが自分たちの君主を本当に好きだったのだ。ゲーム内の付き合いしかないとはいえ、現実世界とはまた違った友情を感じていた。だからこそ、この世界で再会したとき、複雑な気持ちもあったとはいえ、嬉しかったのだ。
「マゾいっつーか、この世界だと、自己犠牲精神が強すぎるっつーか」
ガイル・ラベクが溜息をつく。君主たちが率先して動いてくれたから、この世界は落ち着き、プレイヤーは生活していくことができているのだ。君主たちが動いていなければ、この世界はきっとバラバラのままだっただろう。血盟ごと、或いは個人が好き勝手に動いて、互いの利益だけを求めて収拾がつかなくなっていたのではないか。恐らく死者も出ていたに違いない。そして、タドミールの討伐も叶わない世界となっていたのではないだろうか。
「まぁ、そんなプリたちが無理をし過ぎないように、俺たちがサポートしないとな」
最年長の黒竜刃の言葉に他のメンバー立ちも頷く。責任感の強い君主たちが必要以上のものを背負わないように、自分たちもこうして集まっては情報交換をしているのだ。
「とりあえず、プリたちの休養期間中に問題が起きないように、クラン員の管理しっかりやるか」
「皆そんな馬鹿じゃないから、大丈夫だろうけどね」
君主たちに感謝して、君主たちをサポートしたいと思っているのは、幹部だけではない。殆どの血盟員たちがそう思っているのだ。
「ってか、【水都華園】と【疾風怒濤】と【奔放な奴ら】は幹部連に参加してないよな……。それも今回の問題の一端か」
「【水都華園】はジートコエ・チェロあたりに声をかけてみるとして、他の2クランは誰か幹部らしいのっているのかね」
「伝手辿って、全クラン幹部連参加もこの休養期間中にやるか。そうすりゃプリたちが活動再開したとき、ちょっとはマシだろ」
更に今回の休養のきっかけになった3つの血盟に対する幹部連としての働きかけも検討する。全ては君主たちのため、ひいてはこの世界に生きる全てのプレイヤーたちのためだ。
「なんかさ、この世界も悪くないよな。現実世界より善人が多い気がする」
「そうそう、それ思うわ。なんつーか、皆思い遣りに溢れてるっつーか?」
「互いに気遣い労わり合ってるしなぁ。現実世界じゃ有り得ねーよな」
普通なら自己の利益を求めようとしたり、大袈裟なものではなくとも大なり小なり衝突や問題は起きそうなものなのに、この世界では、少なくとも各血盟内ではそれがない。これまでにあった対立は『ファトフ同盟』が絡んできたものだけだ。
「まぁ、皆それぞれいい歳した大人だしな。多分、現実世界じゃないからこそ、それができてるんだろうけど」
現実世界ではないから、利害関係がない。学歴も関係ない。社会的地位も関係ない。家族のしがらみもない。そんな世界だから、ただ『自分』としていられる。だから、皆が大人の対応ができるのだろうと思う。『ファトフ同盟』のように利己的な者たちもいるが、『生活』には直結していないから放置もできる。
「どうせ現実世界の時間は止まってるんだから、こんな世界も悪くはないな。皆が善人な世界、いいじゃねーの」
「だな。タドミールが現れるまでのタイムリミットのある世界だけどな。ああ、タイムリミットがあるって判ってるから、皆好い人でいられるのかもしれないな」
所詮現実ではないから。自分たちの日常とはかけ離れた異世界だから。その共通認識があるから、エゴを抑えられるのだろう。現実では難しい、理想的な自分で、『好い人』でいられるのかもしれない。
「にしても、タドミール出ないな」
「いいんじゃね? 少なくともプリたちの休養期間終わるまでは出ないでほしいね。出たら出たで、『ファトフ同盟』との調整とか、プリたちも色々忙しくなるだろうしさ」
君主たちが心身の疲れを癒しきるまで、何も起こらないでほしい。彼らはそう願った。
理也たち幹部連が君主の平穏を願っているとき、デサフィアンテは落ち着かない時間を過ごしていた。心臓はバクバクと早鐘を打ち、掌にはじんわりと汗が滲んでいる。もっとも、彼の緊張はこの世界とは全く関係のないことだった。
「……」
デサフィアンテの正面には夏生梨がいる。場所は夏生梨の部屋だ。夏生梨はデサフィアンテから告げられた内容に驚き、言葉が出ない様子だった。
デサフィアンテは再会してからずっと心に秘めてきた願いを彼女に告げたのだ。
「言わないほうがいいって、ずっと思ってきた。夏生梨には迷惑だろうって判ってる……と思う」
デサフィアンテは告げたのだ。この世界にいる間だけでもいい、もう一度恋人になってほしいと。
「気まずくなるかもしれないと思ったよ。だから、夏生梨が望むなら、椎姫とかファーネさんとか、ロハゴスとか番長とか、別のクランに移っても仕方ないと思ってる……」
沈黙が怖くて、デサフィアンテは言葉を継ぐ。名を挙げた君主の血盟には夏生梨は別キャラクターで在籍したこともあるから、移籍しても歓迎されるだろう。
「……私はEOが好きよ。ここにいる。それに、どうして私が嫌がるって、迷惑に思うって決め付けるの?」
「え?」
「本当に、私でいいの? 私、絢より6つも年上だわ。もうアラフォーのおばさんよ。結婚だってしたわ」
夏生梨はまっすぐにデサフィアンテを見つめる。
「夏生梨がいいんだ。じゃなきゃ、こんなこと言わないだろ。俺ずっと夏生梨の……風織のこと忘れられなかった。今でも愛してる」
その真剣な眼差しに夏生梨は昔を思い出す。彼に始めて求愛されたときと同じ目をしている。あのころデサフィアンテ──絢人はまだ19歳だった。そのころと真摯で一途な瞳は変わっていない。歳を重ねた分だけ、そこに包容力も加わっている。
「浮気、しないって誓う?」
「誓う」
デサフィアンテは即答する。それが2人が別れた直接の原因だ。
「私ね、別れてから気づいたことがあるの。絢人が浮気を繰り返したの、あれって私に絢人を捨てさせるためだったんだよね」
疑問形ではなく確信している口調で夏生梨は言う。
「絢人が完治したあと、私、それでも怖かった。いつ再発するかって……。それに気づいてたから、絢人、あんなことしたんだよね。自分が悪者になって」
「……俺が馬鹿なだけだって」
夏生梨の言うことは間違いではなかった。いつ再発するかもしれないという恐怖は2人ともにあった。そしてそれは自身の問題である絢人よりも、彼を愛している風織に大きな恐怖を与えていたのだ。そういう弱さを風織が持っていることを絢人は知っていた。それに絢人は耐えられなかった。自分のせいで愛する女がいつも心に恐怖を抱えていることが耐えられなかった。だから別れようと思った。しかし、自分から別れを切り出しても風織は納得しないと思った。聡い彼女のことだから、きっとそれが自分を思い遣ってのことだと気づくと思った。それゆえに絢人は風織が自分に愛想を尽かすように浮気を繰り返した。わざと気づかれるようにして。
「私もあなたのこと好きよ。忘れられたと思ってたけど、ずっと心の奥底に眠っていただけだったわ」
結婚はした。お見合い結婚だったけれど、相手は信頼できる人だった。喪ったときには悲しかった。けれど、愛していたかと問われれば判らない。少なくとも絢人に抱いたような情熱的な想いではなかった。そして絢人への思いはずっと心の奥底で眠っていた。夫はそれを知っていた。それを承知の上で彼は風織と結婚したのだ。自分にも忘れられない恋がある。そんな2人だからこそ、信頼の上に夫婦関係を築いていけるのではないかと、そう夫は言ったのだ。そして、そんな関係を作り上げている最中に夫は旅立ってしまった。
「現実世界に戻ってからのことは、戻ってから考えましょう」
夏生梨はそう言って微笑む。素直にデサフィアンテの言葉は嬉しかったのだ。戸惑いはしたが、嫌な気持ちは微塵も湧かなかった。ただ、純粋に嬉しかった。
「ああ。そうだな。現実世界のことは現実世界で考えよう」
嬉しさに表情を綻ばせ、デサフィアンテは夏生梨を抱き締める。一度は自ら捨てた恋。まさか、この世界でもう一度この恋を始められるとは思いもしなかった。この世界の中だけの関係かもしれないけれど、それでも充分だった。
「好きよ、絢」
人生の中で一番好きだった人。一番愛した人。仮想現実の異世界で再会して、ともに戦ってきた。この世界だからこそ、現実のしがらみのない世界だからこそ、素直に彼への想いも、彼の想いも受け容れることができた。
2人は顔を見合わせるとどちらともなくくすっと笑う。照れ臭くて、擽ったい気分になる。けれど、幸福感に満たされていた。
恋人同士に戻ったとはいえ、2人は別にそれを宣言したりはしなかった。しかし、数日経ったころ、2人の関係の変化に千珠が気づいた。恋人として復縁したとはいえ、2人の態度に大きな変化は見られなかった。かつて恋人同士だったころも、現実世界の2人の関係はべったりとしたところもなく、友人たちからは熟年夫婦みたいだと笑われていたくらいだった。それでもやはりというか、わずかな変化から千珠が気づき、デサフィアンテは隠すことでもないと復縁を認めた。
密かに心配していた血盟員たちはそれを喜んだ。そして、彼らは2人が【フィアナ・クロニクル】で婚姻関係にあることも知っていた。この世界に来てからFCH婚したわけではなく、引退前にしていたものを解消していなかっただけではあるのだが。
「FCH婚してるわけだし、復縁したんだし、いっそ、結婚式やらね? 確か、絢と姐御、FCHで結婚式しなかったよな」
2人がいない席でイスパーダがそう提案した。
ゲーム内での結婚はテレポート(配偶者の許へのみ転移可能)機能の付いたペアの指輪を持ち、求婚のコマンドを入力、相手がそれを受けることで成立する。しかし、それだけではなく結婚式を行なう者も少なくない。殊、君主が結婚する場合は血盟イベントとして行なうことも多い。しかし、デサフィアンテたちは鷹村絢からのキャラクター移行期にFCH婚していたこともあって、結婚式はしていなかった。
「いいな、それ。盛大にお祝いしようぜ」
「プリ友たちにも来てもらって、来賓祝辞とかな」
盛り上がる男性陣に対して、現実世界で夏生梨が未亡人であることを知っている千珠とアルシェは複雑そうな表情をしている。デサフィアンテとの復縁は夏生梨のためにもいいことだと思いはするものの、結婚式となれば夏生梨は複雑なのではないかと。
「サプライズでやるか?」
「あ、それはやめて」
冥き挑戦者の言葉に咄嗟に千珠は反対する。結婚式となれば、やはり夏生梨の気持ちを確かめたほうがいい。
怪訝そうな表情の男性陣に、しかし夏生梨のデリケートなプライベートを勝手に明かすわけにもいかず、千珠は慌てて言葉を繕う。
「結婚式となれば、女にとっては色々重要なのよ。夢とかあるし。たとえ異世界でのこととはいっても、結婚式には変わりないんだし」
「そうですねー。それに、姐御にウェディングドレスとか着てほしくないですか? フィアさんもそのほうが嬉しいと思うし。そうなったらサプライズは難しいですよー」
アルシェもフォローするように言い添える。女性2人の言葉に男たちはそれもそうかと納得する。結婚式となれば主役は当然ながら新郎新婦だ。その主役に内緒で結婚式というのは、考えてみれば有り得ないことだ。
「んじゃ、俺らから結婚式を挙げてほしい、準備は俺たちがやるってことで、絢たちに提案するか」
理也の言葉に反対する者はいなかった。千珠とアルシェにしても夏生梨がそれを望むなら是非とも祝いたいところだ。善は急げとばかりに、理也とイスパーダがデサフィアンテたちに提案しに行く。それを見送りながら、残ったメンバーは早速結婚式についてあれこれと話を進める。つまり理也たちは結婚式を提案しに行ったのではなく、許可をもぎ取りに、許可が出なければ出るまで説得するためにデサフィアンテたちの所へ行ったのだ。
「絢のダチには招待状を送って……介添え人とかいるよな。椎姫さん夫妻かアズラクさん夫妻かな?」
「それって仲人だろ。絢の介添え人は理也がやりたがるんじゃね?」
「姐御の父親役は年齢的に冥さんか黒竜パパさんかな。あ、いっそ姐御憧れのうめ蔵さんに依頼するとか?」
「それ、夏生梨のテンション上がりすぎて、絢君拗ねると思うわよ」
「まぁ、うちのクランはスタッフすることになるから、よそのクランの人に頼んだほうがいいよな」
「私たちの結婚式は夏生梨さんが仕切ってくれましたね。とてもいい結婚式を演出してくださった」
「ああ、あれかー。俺たちも挙式スタッフやったよな」
「それぞれの友人代表挨拶とかあったし。ライスシャワーならぬ花火シャワーとかな。やっぱ、友人挨拶するなら、姐御の友人代表は千珠さんかな? 絢のは……揉めそう。1人じゃ済まなさそうだぞ」
あれこれと盛り上がる。ここのところあまりいいニュースがなかったフィアナだけに、ここはひとつお祝い事で盛り上がりたいのだ。デサフィアンテは今やこの世界では最も有名な君主の1人だ。そのデサフィアンテの慶事ともなれば、君主仲間とその血盟員も多いに盛り上がるだろう。
「絢と姐御からOK出たぞー」
そこに理也たちが戻ってくる。2人も初めは戸惑ったらしいが、血盟員が祝ってくれるというのを断ることはできなかったようだ。それにお祝い事をやることに意味を見出したのだろう。それが自分たちの結婚式というのは気恥ずかしいし、思うところがないでもないが、お祝い事を行なうことで少しでも皆の気持ちが明るくなるのであれば、それもいいと思ったのだ。
「じゃあ、早速明日にでも椎姫さんたちに連絡して、結婚式の準備始めよう。あ、絢と姐御はなんか希望とかあるのかな?」
「特にないらしいよ。任せるってさ。ああ、でもあんまりマルクはかけるな、大袈裟にはするなとは言ってた」
「うん、無理。俺ら、盛大に祝いたいもん」
「俺らにしては大袈裟にしてないんだよーって言い訳。それでOK」
明るく笑い合う。当事者以上に彼らがこの結婚を喜んでいるのだ。
「ウェディングドレスとかどうするよ? 注文端末にはさすがにないよな?」
「洋裁できる人とかいるかな?」
「私は無理ですよー……」
「私もさすがにそれは……」
向けられた視線にアルシェと千珠は首を振る。
「絢の結婚式だぜ? この世界に貢献半端ないんだから、きっとイル・ダーナもウェディングドレスとタキシードくらい準備してくれるって」
いつの間にか商品の増える『フィアナ・モール』──注文端末からアクセスするページにはいつの間にかそんな名前がついていた──だ。きっとこの会話もイル・ダーナは聞いているに違いない。そうチャルラタンが言えば、皆が笑った。
「そうと決まれば、招待客リストアップな。プリさんたちは皆で、あとは絢や姐御と仲のいい人か。となると……」
自分のパソコンを開いて、招待客のリストアップを迅速が始める。招待状は『便箋』と呼ばれるゲーム内のメール機能で送ることになるが、その文面も考えなくてはならない。
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「料理の仕出しとかあるのかね? てか、宿屋で料理や酒とか準備してくれるように交渉できるかな」
和気藹々と盛り上がる。心配していた千珠とアルシェも、夏生梨が承諾したことで安心して会話に加わる。
「夏生梨の事に関しては女同士で色々と決めるわね。椎姫さんとか三色菫さんとかと」
「ですねー。姐御、美人でスタイルもいいから、ウェディングドレスはどんな者でも似合いそうですし」
こうして、翌日には各君主の許へデサフィアンテと夏生梨の結婚式を行なうことが伝えられ、【悠久の泉】血盟員と『モナルキア連盟』の君主たちが揃って準備に走り回ることになった。主役のデサフィアンテと夏生梨は希望を聞かれただけで、準備に携わらせてもらえなかった。
「俺たちが祝いたいからやることだからな。絢と姐御は何もしなくていいよ。全部俺らに任せてくれ」
口出しも手出しも拒否されたデサフィアンテと夏生梨は苦笑するしかなく、準備してくれる友人たちに言われるままに衣装合わせをしたり、決定事項を聞かされたりするだけだった。
「俺たちの結婚に託けて騒ぎたいだけじゃねーのか」
「皆楽しそうだし、それでいいんじゃないの?」
何もすることのない新郎新婦は、お茶を飲みながらそんな会話をするのだった。
そして約10日後、ミレシアの大聖堂において2人の結婚式が、その隣の宿屋で披露宴が盛大に行なわれたのである。しっかりフィアナ・モールに入荷していたタキシードとウェディングドレスを新郎新婦は身にまとっていた。
結婚式は誰でも自由に参加でき、その後の披露宴は料理やキャパシティの関係から、血盟員と君主仲間、2人と近しい者、合わせて50人ほどで行なわれた。
デサフィアンテの友人代表祝辞は椎姫・アズラク・ショウグンが、夏生梨側は千珠とファーネ、三色菫が述べた。デサフィアンテ側は立候補が多かったため、血盟員は遠慮することになった。もっとも、友人代表という形ではなく、血盟員代表として理也が大泣きしながら祝辞を述べたのではあるが。ちなみに血盟代表を誰がやるかでジャンケン大会となったのはデサフィアンテには内緒である。
デサフィアンテと夏生梨の結婚式は明るいニュースとなってフィアナを沸かせた。そしてこれをきっかけにフィアナでは一大結婚ブームが起こり、澱んでいたフィアナの空気は一気に明るさを取り戻したのである。
それは、やがて巻き起こる嵐の前の、一時の平和な時間だった。
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