現実的な異世界召喚聖女

章槻雅希

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聖女側の思惑

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 アルフォンソとナサニエルが慌てて出て行った扉を見つめ、美琴はため息をつき、ソファの背もたれに身体を預けた。

 本当に異世界召喚されるとは。それが今の正直な感想だ。

 突然の異世界召喚とはいうが、実は1か月ほど前からこの日が来ることは知っていた。何しろ、伊邪那美尊と月読命、他に幾柱かの神が美琴の許にお出ましになったのだ。そして告げられた。近々異世界召喚が行われる。美琴に異世界に行ってほしいと。

 そうして神々は事情を説明してくれた。

 神々は怒っていた。それはもう、怒髪天を衝く勢いで。

 何に怒っていたのか。それは簡単にホイホイと行われる異世界召喚に、だ。そして凡そ100%の割合で日本人の中高生が召喚される事態にだ。

 実は日本の年間未成年失踪者数の3割ほどは様々な異世界に召喚された被害者なのだという。この地球において何故か日本人ばかりが召喚対象にされる。

 これはラノベやアニメ、ゲームといったサブカルの所為で、ある一定の年齢層や人種(オタクやその予備軍)には馴染みが深いのが原因だ。馴染みが深いイコール受け入れやすいというわけだ。

 そして、最も重要なのが、日本人の宗教観だ。元々、日本人が外来の物をうまく取り込み昇華する民族だ。外からの物を受け入れるのに忌避感が少なく、自分たちに合わせた形で取り込む器用さと強かさを持っている。クリスマスにハロウィン(キリスト教)、除夜の鐘(仏教)に初詣(神道)、お年玉(宗教ではないが儒教)と、色々な宗教行事をイベントとして受け入れている。元々万物に神は宿るという考えが日本人の根底にある。だから、どんな宗教もあっさりと受け入れ、生活に溶け込ませてしまう。信仰するわけではないが受け入れる。なんだったら、悪魔だって怨霊だって妖怪だって受け入れるし、可愛くデフォルメしてキャラクターとして愛でてしまう。近年ではアマビエ様がそれだろう。それが日本人という民族だ。

 だから、異世界に召喚されてもそこの宗教を信仰し染まることなく受け入れることが出来るのだ。そういったところが異世界には都合がいいらしい。

 だが、召喚される側にとってはとんでもないことだ。迷惑極まりない。高天原に坐す神々──八百万の神々といわれる天津神や国津神も日ノ本の民を愛している。愛する子らが勝手に異世界に攫われて、都合よく使われて、最後には打ち捨てられるか使い潰されるのだ。異世界で幸せな生涯を送った日本人は少ないだろう。ラノベでよくある展開が異世界の彼方此方で起こっているらしい。

 召喚された男女の中高生が愚かだというのはある。俺TUEEEしたりハーレムしたり、ヒロインムーブぶちかましたり逆ハーレムしたり、お花畑恋愛脳やお花畑ヒーロー脳を炸裂させたり。そして、最後には現地人にざまぁされて使い捨てられるのだ。

 やらかした日本人も馬鹿ではあるが、世間を知らない中高生が見目麗しい異性に囲まれて道を踏み外すのはある意味当然だろう。彼らは異世界召喚されなければ平凡な中高生であり、多少の若気の至りによるおイタはあるかもしれないが、世界そのものに迷惑をかけるような存在になるわけではない。彼らが痛いヤツになってしまうのは、異世界召喚された後の環境によるものだ。多少の素質はあるのだろうが、異世界に行かなければそれが開花することはなかっただろうと神々は推察した。

 なので、神々は考えた。

 異世界召喚されるのはラノベでは高校生が定番だが、社会を知らず、家族と友人と学校という狭い世界で生き、ネットで世間を知った気になっている未成年ではそういうおイタをやらかしてしまうのもある意味仕方ないのかもしれない。

 だったら、成人、もっと言えば人生経験を積んだ中高年以降に行ってもらおう。中高生じゃなくて中高年だ。召喚を拒否する手立てがないので、呼ばれれば行ってしまう。異世界召喚が発動すれば誰かを送るまで終わらない。

 八百万の神々はこれまでに散々試行錯誤して召喚を阻止しようとしたり、召喚先の神と交渉したりしようとした。でもダメだった。なんだったら、ゼウスをはじめとしたオリンポスの神々、オーディンをはじめとするアスガルドの神々、シヴァを初めとするヒンドゥーの神々、アメンを初めとするエジプトの神々、エンリルをはじめとしたメソポタミアの神々、或いは西王母や神農といった中国の神々、世界中の多神教の神々に協力を求めた。求めてないのは一神教だけだ。あちらのほうが多神教の存在を認めないので接触できないかったらしい。世界中の多神教の神々と『視野と心が狭いねよー』なんてプチ愚痴ったらしい。

 ともあれ、異世界召喚は避けられない。だが、いつまでも大人しく召喚されているとは思うなよ、というわけで高天原の神々は異国の神々と協力しながら対策を練った。『全世界異世界召喚対策委員会』なんてものが神々によって組織された。どうやら神々は退屈していたらしい。なんせ、世界三大宗教が幅を利かせて、古来の多神教の神々はそれなりに暇になってしまっていたのだ。現役で動いていたのは高天原の神々くらいなものだった。

 そういった退屈した異国の神々の積極的な協力もあり、対策は練られた。そして『異世界召喚したら世界滅ぶんじゃね的な危機感を持たせるか。いや、いっそいくつか滅ぼしてしまおう』なんて結論に達した。一部の戦神がその急先鋒だった。流石に実行するのは異世界に強制召喚される一般人なので、精神的負担を考えて『異世界召喚は面倒すぎる、異世界人ヤバイ』と思わせる程度にしようという結論に落ち着いた。

 そこで、召喚される日本人にはサポートの神をつけることにした。守護霊として。神としてはかなり神格は低いが、それでも様々な神から与えられた権能により召喚者の生命と安全と尊厳を守るために様々な力を使えるのだ。おまけに異世界の『神』であるから、召喚された世界の理に縛られない。誘拐犯側の神が何か言ってきたとしても正論ぶちかまして論破する気満々だ。此方の世界中の正義とか弁論とか法律とか断罪とか、そういった権能を持つ神々が力を分け与えているので、十二分に渡り合える、否やり込められるだろう。

 美琴が選ばれたのは、そこそこの社会人経験があり、元教育者(教師じゃないが)であり、それなりの役職も経験した50代、おまけに天涯孤独ということもあってのことだった。神々にとって幸いなことにちょうど健康を害して退職したので、失踪(異世界転移)しても迷惑が最小限に留められるというわけである。

 そういった事情を説明されて、美琴は悩んだ。が、色々検討した結果、受け入れることにした。そして、異世界召喚に向けて様々な対策が取られた。

 まず、容姿と年齢の変更。美琴は50代半ばのおばさんだったが、異世界トリップに際してラノベ定番の女子高生年齢17歳に若返っている。ついでに見た目もかなり上方修正されている。ラノベ定番の庇護欲をそそる見た目ではなく、どっちかというとざまぁする悪役令嬢に多いタイプの美女系だ。庇護欲をそそる見た目に合わせた『きゃぴ♪』なんて言動は無理なので、可愛い系ではなく綺麗系にした。

 それから守護神として登利津芙媛が傍に就くことになった。更にラノベやゲーム定番の異空間収納を習得した。そこに着換えや日用品、食品を大量に収納した。特に食品と薬。ラノベでは召喚された人物が風邪やインフルエンザにかかっていて、それが異世界では未知の病原菌だったために国が滅びたなんて話もあった。流石にそういうことになっては面倒なので、完全健康体になる加護も与えられた。

 ついでに日本語と同様に現地語全てを操れる語学能力も付与された。発した言葉聞いた言葉が自動翻訳されるのではなく、美琴の意志で言語を使い分けられるようにしたのだ。これで日本語で愚痴や暴言の吐き放題になる。

 更に認識阻害の魔法も与えられた。これで不要な時に面倒に巻き込まれないよう存在を認識されにくくなる。いざ逃げ出すときにも有用だろう。

 そういった準備を整えて、美琴は異世界召喚されたのだった。
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