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07.【夜会】愚か者の主張・家庭内虐待②
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2ヶ月前、父ペルセヴェランスはそれまで愛人として別館に置いていたヴュルギャリテと正式に婚姻を結んだ。尤も、ヴュルギャリテとメプリは3年前に公爵邸に押し掛けた時点で結婚済みと思い込んでいたが。
ペルセヴェランスと正式に婚姻したことで、ヴュルギャリテとメプリは公爵家所縁の者となった。飽くまでも『所縁の者』であって公爵家の一員ではない。
ピグリエーシュ伯爵はクゥクー公爵の伴侶に与えられる爵位で、1代限りのものだ。ゆえにフィエリテが夫を迎えればペルセヴェランスは爵位を返上し、平民となる。
平民となることが前提であるからペルセヴェランスはヴュルギャリテにもメプリにも社交をさせるつもりは皆無だった。貴族としての教育も受けさせる意味はないと考えていた。平民になるのだから当然だ。だから、貴族の通う学院にもメプリは通っていない。
尤もフィエリテとしては父が平民として生きるのは大変だろうと、公爵領の中でも風光明媚な隠居地であるパラディ領を貸与し、1代限りのパラディ子爵位を与えるべく手続きを進めている。
フィエリテの提案を受けてペルセヴェランスもメプリが下位貴族に嫁ぐ可能性を考えもしたが、彼女を見てそれも無理だろうと判断している。ゆえにやはり社交をさせず、学院にも通わせなかった。
「貴様、リュゼを学院にも通わせていないそうだな! 貴様の反対で通えないとリュゼは泣いているんだぞ!」
メプリとヴュルギャリテの一方的な主張を信じたブリュイアンはフィエリテを責める。
しかし、学院は高等教育機関であり、通うことは義務ではない。当然入学試験もあるし、不合格で入学できない者もいる。
「それはお父様の判断ですわ。メプリは学院に入学できるだけの学力がなく、自宅で学ぶことになりましたの」
フィエリテは事実だけを告げる。貴族ではないメプリには入学資格そのものがない。しかし、今それを言ってもブリュイアンもメプリも更に騒ぐだけだ。
「でも自宅で学ぶって、教師もつけてくれないじゃない! メイドとか使用人に教えさせるってあたしのこと馬鹿にしてる証拠でしょ!」
キャンキャンとメプリは喚く。全く以って令嬢らしくない。そんな程度の礼儀作法も身についていないから、教師をつけられなかったのだろうと周囲は納得する。
ヴュルギャリテが父と再婚し、父の思惑はともかく、最低限貴族らしい立ち居振る舞いは出来ないと公爵家の恥になる。そこで公爵家の使用人が時間を取って教育を施していた。どうやら市井の館に住んでいたころにはまともな教育がなされていなかったらしい。ペルセヴェランスは教師を手配していたのだが、メプリの我儘と給料を渋るヴュルギャリテに辟易して次々と辞めていった。数回それを繰り返すとペルセヴェランスはこれも2人の自己責任だと教師の手配をやめた。
専任の教師をつけないことにヴュルギャリテは不平不満を漏らしていた。だが、メプリは基礎学力がなく、辛うじて文字の読み書きが出来る程度だ。教師に教えてもらえるレベルにまで達していない。ゆえにその前段階の予備教育を使用人が担当しているのだ。
そもそも使用人とはいえ、侍女やメイドたちは全て伯爵家もしくは子爵家の令嬢だ。きちんとした教育を受けているし、中にはフィエリテの教師の助手を務めていた者もいる。
ヴュルギャリテは零落した貧乏男爵家の娘だったことから一応の貴族としての礼儀作法は学んでいる。しかし下位貴族の作法であっても不出来だったヴュルギャリテのそれは、公爵家所縁を名乗り伯爵夫人となるには大きく足りない。生まれたときから平民であるメプリは更に推して知るべしというところだ。
侍女たちはメプリの授業が終わると疲れ切っていたし、侍女たちの控室や厨房などでは愚痴大会になっていたほどだ。公爵家の侍女・メイドとして品位を損なうと侍女長やメイド長に叱られてもいた。
尤も侍女長にしてもメイド長にしても彼女たちが愚痴を言いたくなる気持ちはよく判った。だが、立場上叱責しないわけにはいかなかった。
フィエリテも彼女たちの苦労を知っていた。ゆえに彼女たちの公休日には侍女やメイドとしてではなく、伯爵令嬢や子爵令嬢としてお茶会に招き、その労をねぎらっていた。
しかし、彼女たちから話を聞くだけでも、メプリの愚かさが十二分に判る。
自分は公爵令嬢だと誤解し、いくら周囲(父含む)が違うと説明しても理解しない。公爵令嬢の自分に逆らうのかと教師役のメイドや侍女を威嚇し脅迫する。
尤も彼女たちは公爵家に雇われていて、公爵家の格式を汚さぬよう、公爵家のために教育を施しているのだ。自称公爵令嬢の平民の言葉など意にも介さず、厳しく教育した。
メプリは両親や何故か毎日のように出入りするブリュイアンにメイドたちの横暴を訴えた。ヴュルギャリテやブリュイアンは教育係たちを叱責するが、彼女たちは『公爵閣下のご意向です』と言うのみ。
ペルセヴェランスは『最低限必要なことを身に着けなさい』と言うだけでメプリたちの味方になることはない。このままではクゥクー公爵家に迷惑をかけることになるからとメプリの癇癪を宥めはしたが。
それにペルセヴェランスとしても不本意な行為の結果出来てしまったらしい娘ではあるものの、一応父親としての責任もある。フィエリテの結婚後も子爵位に下がるとはいえ貴族であることに変わりはない。ならば、メプリが伯爵以下の貴族に嫁ぐ可能性も限りなくゼロに近いがゼロではない。
であれば、最低限の礼儀作法や教養は必要になるのだ。だから、メプリに『最低限のことも出来なければ貴族の妻にはなれない』と動機付けをしようとした。
だが、それもあまり効果はなかった。ブリュイアンと結婚して公爵夫人となると勘違いしているメプリは必要性を感じていなかったのだ。
ともかく、全く進まぬ教育にフィエリテは一肌脱ぐことにした。問題の多い少女とはいえ、縁あって義妹となったのだから、と。
ペルセヴェランスと正式に婚姻したことで、ヴュルギャリテとメプリは公爵家所縁の者となった。飽くまでも『所縁の者』であって公爵家の一員ではない。
ピグリエーシュ伯爵はクゥクー公爵の伴侶に与えられる爵位で、1代限りのものだ。ゆえにフィエリテが夫を迎えればペルセヴェランスは爵位を返上し、平民となる。
平民となることが前提であるからペルセヴェランスはヴュルギャリテにもメプリにも社交をさせるつもりは皆無だった。貴族としての教育も受けさせる意味はないと考えていた。平民になるのだから当然だ。だから、貴族の通う学院にもメプリは通っていない。
尤もフィエリテとしては父が平民として生きるのは大変だろうと、公爵領の中でも風光明媚な隠居地であるパラディ領を貸与し、1代限りのパラディ子爵位を与えるべく手続きを進めている。
フィエリテの提案を受けてペルセヴェランスもメプリが下位貴族に嫁ぐ可能性を考えもしたが、彼女を見てそれも無理だろうと判断している。ゆえにやはり社交をさせず、学院にも通わせなかった。
「貴様、リュゼを学院にも通わせていないそうだな! 貴様の反対で通えないとリュゼは泣いているんだぞ!」
メプリとヴュルギャリテの一方的な主張を信じたブリュイアンはフィエリテを責める。
しかし、学院は高等教育機関であり、通うことは義務ではない。当然入学試験もあるし、不合格で入学できない者もいる。
「それはお父様の判断ですわ。メプリは学院に入学できるだけの学力がなく、自宅で学ぶことになりましたの」
フィエリテは事実だけを告げる。貴族ではないメプリには入学資格そのものがない。しかし、今それを言ってもブリュイアンもメプリも更に騒ぐだけだ。
「でも自宅で学ぶって、教師もつけてくれないじゃない! メイドとか使用人に教えさせるってあたしのこと馬鹿にしてる証拠でしょ!」
キャンキャンとメプリは喚く。全く以って令嬢らしくない。そんな程度の礼儀作法も身についていないから、教師をつけられなかったのだろうと周囲は納得する。
ヴュルギャリテが父と再婚し、父の思惑はともかく、最低限貴族らしい立ち居振る舞いは出来ないと公爵家の恥になる。そこで公爵家の使用人が時間を取って教育を施していた。どうやら市井の館に住んでいたころにはまともな教育がなされていなかったらしい。ペルセヴェランスは教師を手配していたのだが、メプリの我儘と給料を渋るヴュルギャリテに辟易して次々と辞めていった。数回それを繰り返すとペルセヴェランスはこれも2人の自己責任だと教師の手配をやめた。
専任の教師をつけないことにヴュルギャリテは不平不満を漏らしていた。だが、メプリは基礎学力がなく、辛うじて文字の読み書きが出来る程度だ。教師に教えてもらえるレベルにまで達していない。ゆえにその前段階の予備教育を使用人が担当しているのだ。
そもそも使用人とはいえ、侍女やメイドたちは全て伯爵家もしくは子爵家の令嬢だ。きちんとした教育を受けているし、中にはフィエリテの教師の助手を務めていた者もいる。
ヴュルギャリテは零落した貧乏男爵家の娘だったことから一応の貴族としての礼儀作法は学んでいる。しかし下位貴族の作法であっても不出来だったヴュルギャリテのそれは、公爵家所縁を名乗り伯爵夫人となるには大きく足りない。生まれたときから平民であるメプリは更に推して知るべしというところだ。
侍女たちはメプリの授業が終わると疲れ切っていたし、侍女たちの控室や厨房などでは愚痴大会になっていたほどだ。公爵家の侍女・メイドとして品位を損なうと侍女長やメイド長に叱られてもいた。
尤も侍女長にしてもメイド長にしても彼女たちが愚痴を言いたくなる気持ちはよく判った。だが、立場上叱責しないわけにはいかなかった。
フィエリテも彼女たちの苦労を知っていた。ゆえに彼女たちの公休日には侍女やメイドとしてではなく、伯爵令嬢や子爵令嬢としてお茶会に招き、その労をねぎらっていた。
しかし、彼女たちから話を聞くだけでも、メプリの愚かさが十二分に判る。
自分は公爵令嬢だと誤解し、いくら周囲(父含む)が違うと説明しても理解しない。公爵令嬢の自分に逆らうのかと教師役のメイドや侍女を威嚇し脅迫する。
尤も彼女たちは公爵家に雇われていて、公爵家の格式を汚さぬよう、公爵家のために教育を施しているのだ。自称公爵令嬢の平民の言葉など意にも介さず、厳しく教育した。
メプリは両親や何故か毎日のように出入りするブリュイアンにメイドたちの横暴を訴えた。ヴュルギャリテやブリュイアンは教育係たちを叱責するが、彼女たちは『公爵閣下のご意向です』と言うのみ。
ペルセヴェランスは『最低限必要なことを身に着けなさい』と言うだけでメプリたちの味方になることはない。このままではクゥクー公爵家に迷惑をかけることになるからとメプリの癇癪を宥めはしたが。
それにペルセヴェランスとしても不本意な行為の結果出来てしまったらしい娘ではあるものの、一応父親としての責任もある。フィエリテの結婚後も子爵位に下がるとはいえ貴族であることに変わりはない。ならば、メプリが伯爵以下の貴族に嫁ぐ可能性も限りなくゼロに近いがゼロではない。
であれば、最低限の礼儀作法や教養は必要になるのだ。だから、メプリに『最低限のことも出来なければ貴族の妻にはなれない』と動機付けをしようとした。
だが、それもあまり効果はなかった。ブリュイアンと結婚して公爵夫人となると勘違いしているメプリは必要性を感じていなかったのだ。
ともかく、全く進まぬ教育にフィエリテは一肌脱ぐことにした。問題の多い少女とはいえ、縁あって義妹となったのだから、と。
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