宇宙打撃空母クリシュナ ――異次元星域の傭兵軍師――

黒鯛の刺身♪

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第九話……偵察型アイアースの発艦

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「カーヴ殿! 次の用件なのだが……」

「はっ!」

「我々はテロリストであるバーミアンに悩まされている。これを空から偵察して、味方に情報を伝えてほしいのだ」

 フランツさんは資料を捲りながら言葉を続ける。


「気象担当士官によると、幸い今だけは敵地の上空だけが晴れているのだそうだ。このチャンスを逃したくはないが……、できるだろうか?」

 フランツさんは珍しく申し訳なさそうに要望を伝えて来る。
 この惑星アーバレストは、居住コロニーの外は砂嵐が吹き荒れていることが多い。

 ……つまり、視界がほぼ効かない状態での飛行になる。
 この地での空からの航空機による偵察は、命がけの行為だったのだ……。


「とりあえず、試行してみます!」

「ありがたい、頼むよ!」

 私は試行を条件に要請を飲んだ。
 試してみなければ分からないことは多い。
 危険だからと断ることもできたが、私は時に危険を冒し、それに見合った成果を求めることも好きでもあった。



☆★☆★☆

「旦那、出撃ですかい!?」

「ああ、偵察型機体の【アイアース】は出せるか?」

「見てまいりましょう!」

 私はブルーにクリシュナの格納庫を見て来てもらう。
 クリシュナの生体認証セキュリティーは厳しい。
 私とブルー以外は異物と見なされて、主要エリアへの立ち入りは不可能だったのだ。


「どうやら動きそうですよ! 若干燃料が怪しいですが……」

「ふむぅ……」

 クリシュナの艦載機は主に、高純度の特殊な液体燃料を使用していた。
 しかし、如何なる地での運用もできるように、使用燃料に汎用性のある機関を搭載していたのだ。


「混ぜて使うか?」

「……が、よろしいかと?」

 特殊燃料の備蓄は少ない。
 よって、惑星アーバレストで精製される石油製の燃料を混ぜて飛ばすことにした。


『機体状態グリーン、燃料成分解析完了!』
『視界イエロー! 発艦の推奨は出来かねます!』

 クリシュナの自動管制システムが、今日の天気での発艦を押しとどめる。
 外は激しい砂嵐だったのだ。


「緊急発艦を要請する!」

『了解!』

 私は副脳を介して、クリシュナの管制システムに緊急発艦を要請する。
 たとえ外部環境が悪くとも、母艦が危険に晒された時などを想定し、暗号コードを入力しての発艦が可能だったのだ。

 大気圏用の電磁カタパルトが、私の載った機体を大きく空へと跳ね飛ばす。
 畳んでいた主翼を素早く展開し、荒れ狂う大気の流れに乗った。


「発艦成功! 位置データ送れ!」

『了解!』

 クリシュナにいるブルーに、位置データと三次元地図を送ってもらう。
 案の定、砂嵐で前がほぼ見えない。
 しかし、視界を求めて高度を上げて飛行すれば、テロ組織側の対空レーダーに捕まる恐れがあった。

 送ってもらった地理データを頭の中で再生しながら、フライ・バイ・ライトを操り高度を極限まで下げる。
 砂嵐の隙間から、地表や山肌がすぐそこに見える。


 ……こ、怖ぇえええ!

 感覚的に地表から50cmのところを、目隠しして飛んでいる気分だ。
 山肌の谷の部分を縫い、峡谷を伝い、激流に流されるような面持ちで目標地点に着いた。

 ……想定通り!
 ライス伯爵軍の気象士官の予想は正しく、敵地上空だけは砂嵐が無く、奇麗に晴れ渡っていた。


「こちら、アイアース! 敵情データを送る!」

『了解!』

 クリシュナを経由して、撮影した敵地の画像データを送信する。
 過剰な低空飛行で侵入したために、予期していた対空弾幕は薄かった。


『こちら司令部。アイアース、直ちに帰投せよ!』

「了解!」

 敵地上空で反転して、再び砂嵐の中へ。
 来た道とは違うルートで帰還する。

 来た道を通れば、安易に航路を予測され、撃墜される可能性があったためだ。
 しかし、帰り路は高度を上げることが出来、墜落の危険性は大きく減っていた。


「腹が減ったな……」

『旦那、余裕だな!』

 ……あ、マイクのスイッチを切るのを忘れていた。
 安心したところの独り言を、ブルーの奴に聞かれてしまった格好となった。
 恥ずかしい……。

 慌ててマイクを切り、サンドイッチを手にする。
 そもそも操縦中は片手が使えない。
 そんな事情から、私はサンドイッチが好物となってしまっていたのだ。


 ……ん?
 サンドイッチを食べ終わった頃に、地表の砂漠に蒼い点が見える。

 眼をこすってみたが、明らかに水の色だった。
 水蒸気がうっすらとカゲロウを作る様子が、着実に眼下に近づいてきた。
 水を飲む動物たちの姿も見える。


「やったぞ、オアシスの発見だ!」

 急いでマイクのスイッチを入れ、クリシュナで待つブルーに大声で叫ぶ。


『やりましたね、旦那!』

 彼の声色が、興奮と共に祝福の意を告げてくる。
 それは地図に載っていない、新たな水源の発見であった。

 砂漠での水源は黄金にも勝る。
 それは不毛の地で暮らす民にとって、自明の理であった。
 当初の目的である敵情視察よりも、もっと大きな戦果を挙げて帰るアイアースと私だった。


――三時間後。

 砂嵐の裂け目から脱出し、アイアースの銀翼が飛行場に降り立つと、歓喜の渦に包まれたのだった……。


――後日。

 私は居住コロニーの水道料金を幾ばくか下げた【庶民の英雄】として、民放のラジオチャンネルに出演。
 砂嵐での危険な操縦よりも、大いに緊張したのだった……。



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