宇宙打撃空母クリシュナ ――異次元星域の傭兵軍師――

黒鯛の刺身♪

文字の大きさ
上 下
4 / 56

第四話……クリシュナ発進! ~でも、鍵がない!?~

しおりを挟む
「よっこらしょっと……」

 私はここ数日間。
 この惑星アーバレストの砂漠に埋もれたクリシュナの整備をしていた。

 ざっと船内を見渡したかぎり、こちら側へやってきた人間は、死体も含めて一人もいそうになかった。
 しかし、船内は不思議と清潔に保たれ、妙な静寂さを保っていた。


「カーヴさん、お邪魔してもよろしいですか?」

 ……うん?
 声がする方を見ると、ライス伯爵さまことセーラさんが、出入り口用のハッチから顔を覗かせていた。


「お嬢様、どうぞ!」

「セーラでよろしくてよ?」

「……と、とんでもない」

「ふふふ」

 セーラさんは笑うが、雇われの身で主人を馴れ馴れしく名前で読んだら、家宰のフランツさんに殺されかねない。


「もうすぐお昼でしょう? サンドイッチを作りましてよ!」

「あ、有難うございます!」

 セーラさんがもってきた籠には、二人分のサンドイッチと飲み物が入っていた。


「どうぞ、こちらへ!」

「はい」

 私は、この世界での上官を艦長室に招く。
 幸いエレベータなどを動かすくらいのエネルギーは残されていた。


「どうぞ、お召し上がりになって」

「いただきます!」

 とりあえず、好物の卵サンドに手を伸ばす。
 柔らかいパンの感触が食欲をそそった。


「美味しいです!」

「お口にあってよかったわ」

 私達は談笑しながら、サンドイッチをお腹に詰め込み、食後のお茶を愉しんだ。


「失礼かもしれませんが、カーヴさんは機械ですの? 生き物ですの?」

 セーラさんに唐突に聞かれる。


「一応、分類は機械です。人間ではありません。ただ、人間のお相手が出来るように、お酒や食べ物からもエネルギーを補充できるようになっているのですよ」

「へぇ、そうなのですね」

 セーラさんが屈託のない笑顔を浮かべる。
 その笑顔に油断したのか、私は食後のデザートであるリンゴを床に落としてしまう。

 刹那、そのリンゴに黒い影が忍び寄ってきた。


「え!?」

 セーラさんが驚くも、私はその黒い影を素早く捕まえた。


「ぽこ!?」

「お前はポコリン!?」

 それは、このクリシュナの前艦長のペットのタヌキだった。

 ……しかし、なんで人間はいなくて、タヌキはいるのだろう?
 私が発見した、クリシュナの生存者一号はタヌキだった。


「ぽこぽこぽこ」

「この子、可愛いわね!」

 セーラさんはポコリンを抱き上げ、撫でている。
 ポコリンは尻尾を忙しなく振っていた。


「……ですが、空腹になると狂暴化しますよ! 気を付けてくださいね」

「あはは、食いしん坊さんなのね!」

 セーラさんはその後しばらくして、館のあるコロニーへと帰っていった。



☆★☆★☆

 午後からも、私はクリシュナの点検に追われた。
 なにしろ、マーダ連邦とかいうものと戦うにも、この船の戦力は必要だったのだ。

 この船は亜光速戦闘機12機(内、補用4機)を運用する打撃型宇宙空母であり、前面装甲厚はなんと28975ミリという重装甲がウリである。
 このフロントヘビーな重装甲を活かして、格上相手との砲撃戦も可能としていたのだ。

 主兵装は、艦首固定式25cmビーム砲が32門。
 さらに、上部甲板には砲塔型36cm連装レールガン3基を搭載してあった。
 更に艦体外壁には、追加装備を収納できる兵装ハードポイントが備わっていた。

 全長は300m全幅76mであり、さほど巨艦という訳ではないが、大きさの割に戦闘力が評価されていた名鑑であった。


「……ふう、エンジンは良しッと!」

 主機である対消滅機関にも異常はない。
 少なくとも、通常航行に影響が出そうな損傷は見当たらなかった。

 ……しかし、この船は動かない。
 いわば、この船を始動させるキーが無いのだ。


「どこにあるのかな?」

 私は隅々まで艦内を調べる。
 クリシュナは宇宙用の軍艦としてはあまり大きくないサイズだが、探し物をするには超巨大な容積を誇っていた。


「ぽこぽこぽん」

 気付くと、後ろからポコリンが付いてくる。

 餌でも欲しいのだろうか?
 ……って、さっき食べたばかりだろ。


「……!? よく考えたら、ポコリンって艦長のペットだったよな!?」

「ぽんぽこ!?」

 急いでポコリンを抱き上げ、艦橋へ駆けあがる。
 そして、艦長用の戦術モニターの上に、ポコリンの肉球を押し付けた。


『キー照合完了! 打撃空母型クリシュナ再起動いたします!』

 ……やった!
 動いたぞ!

 艦内の電灯が次々に灯り、各種機器の稼働音が、耳に心地よく響き始める。
 空調も入ってくれたことで、汗が気持ちよく引いていった。


『新任の艦長名の登録、お願いいたします!』

 ……ぉ!?
 私はカーヴと書き込み、ついでに生体認証も登録した。


『登録完了!』

 そして、主機である対消滅機関のスイッチを押した。


『メインエンジン始動、各種兵装にエネルギー供給致します!』

 ……やった。
 主機も動いたぞ!
 クリシュナの主機である対消滅機関はほとんど永久機関で、燃料はありとあらゆるものが使用できた。

 艦橋外部の艦長不在ランプが消える。
 それと同時に、外部にも様々なランプが灯っていった。



☆★☆★☆

 各種手続きを終えたころには、もう外は暗くなっていた。
 その暗闇の中から、黎明ともいえるクリシュナの再始動だった。


「大気圏ブラスター始動、クリシュナ発進せよ!」

『了解! 発進!』

 戦術用モニターが、先ほど登録した私の音声に反応。
 私の意を承諾して、艦首が持ち上がり、そして赤い砂に埋もれていた艦体も、ゆっくりと浮上したのだった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
 脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...