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第六十九話……難解な和解条件
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喋る盾であるデルモンドが、灼熱の炎を金属ゴーレムに吹き付ける。
金属ゴーレムが真っ赤に熱した後に、魔剣イスカンダルが凍てつく猛吹雪を叩きつけた。
――ピキピキ
「……やったか?」
ひび割れる音がしたが、それは金属ゴーレムに付いていた氷の部分だけだった。
剥がれ落ちた氷の下から、美しいオリハルコンのゴーレムが現れる。
残念ながら、傷一つ見当たらない。
「……ホウ? 考エタナ、小僧! ダガ、コレクライノ事デ、我ガ体ハ、ビクトモセンワ!」
自慢げに宣う鎧型の金属ゴーレム。
もはや、その無敵の金属光は神々しくもあった。
……やはり、効かないのか。
温度差攻撃は失敗だった。
「暗黒神の咆哮!ダーク・ノヴァ!」
私が使える闇属性の魔法のなかで、最強の攻撃魔法をゴーレムに叩きつける。
「何ダト!?」
実は魔剣と盾に攻撃させていたのは、この魔法の詠唱時間を稼ぐためでもあった。
周囲の光を吸収しながら、漆黒のエネルギーの球体が金属ゴーレムを襲う。
――ドシィィィン
「……ヌウ?」
一定の打撃効果を与えたようだが、やはり傷はついていない。
……が、暗黒オーラの余韻が金属ゴーレムにまとわりつく。
「聖なる雷槍! シャイニング・ドライブ!」
続いて、最近習得したばかりの光属性の魔法を詠唱。
眩い光条が金属ゴーレムに突き刺さる。
――ビシ!
「ぐはぁ!?」
遂に金属ゴーレムにヒビを入れることに成功。
闇属性と光属性は、お互いに物凄い相反作用を持つ。
温度差でダメなら、光と闇の魔法エネルギーの属性差での攻撃だったのだ。
かなりのダメージを与えた様で、金属ゴーレムは片膝をついた。
「貰った!」
私はこの隙を逃さず飛び掛かって、魔剣イスカンダルを金属ゴーレムのひび割れた部分に叩きつけた。
――バリーン
まるで高価な薄い陶器が割れるように、金属ゴーレムの破片が宙を舞った。
「ギャァァアア!」
金属ゴーレムの傷口から、魔剣イスカンダルが力を吸い上げる。
よって、相手は今までと同じ硬度は維持できなくなった。
……金属ゴーレムは観念したように、仰向きになって倒れた。
「吾輩ノ、負ケダ! サア、トドメヲ刺ガイイ……」
止めを刺してもいいのだが、今回はこいつを倒しに来たわけではない。
「助けてやるから、協力してくれないか?」
私は剣と盾を背中にしまい、交戦する気がないことを伝える。
「吾輩ニ、何ヲ求メル?」
「実はこの上の祠に住んでいる巫女様のことなのだけど」
「パウラ様ガ、如何シタ?」
あの巫女様はパウラ様というのか……。
「あの方に下界の寒波を、幾分か和らげて欲しいと願ったら、ここに落とされてね……」
「アハハ、ダロウナ!」
大きく破損している金属ゴーレムが、快活に笑う。
……何が面白いんだ?
なんだか腹が立つ。
「……だろうな? 理由は何?」
「巫女様ノ、機嫌ガ悪イ理由ハナ……、」
金属ゴーレムは意外なほど丁寧に事情を説明してくれた。
……氷雪の巫女は、遥か昔から、魔族の貴公子であるアトラスやベリアルのことを兄のように慕っていたらしい。
この金属ゴーレムは自体、ベリアルが妹のように懐く彼女の為に、希少な材料で作ってあげたものだったらしい。
さらに彼女は、彼らに忠節を誓っていた黒騎士エドワードのことが、とても大好きだったらしかったのだ。
ところが、最近になってアトラスとベリアルが次々に殺されてしまい、大好きなエドワードも行方不明になったことに、大いに悲しんだらしい。
しかも、その原因が下界の住人のせいと聞いて、下界に日々猛烈な寒波を送っているとのことだった。
……なるほどねぇ。
私は金属ゴーレムから事情を聞いた後、この謎の空間の壁をよじ登り、再び氷雪の巫女の祠へと戻った。
☆★☆★☆
「よく戻って来たわね、あそこに落として生きて戻ったのはアンタが初めてよ!」
「そりゃどうも……」
頭をかきながらに応える。
……というか、やはり殺す気だったのか。
可愛いなりして、やることが恐ろしい。
「……で、事情はゴーレムさんから聞きました」
「あっそ」
氷雪の巫女様は相変わらず機嫌が悪い。
「で、相談なのですが、エドワードさんを無事に連れてきたら、この寒波を和らげて貰えますか?」
「え!? 彼の居場所を知ってるの? でも、どこにもいないって聞いてるわ!」
彼女の表情が少しだけ明るくなる。
「いや、居場所は分かってはいないんですけどね」
彼女が再び、不機嫌になる。
「じゃあ、アトラス様とベリアル様の敵を討って、なおかつエドワード様を無事に連れてきてくれたら貴方の願いをかなえてあげるわ」
……うわぁ、厳しい条件だなぁ。
だけど、仕方がないなぁ。
「わかりました!」
かなり難しい条件だが、こちらが他に出せる良い条件がない以上、飲むしかなかった。
ザームエル男爵から聞くところによると、このままではパウルス王国が崩壊してしまいかねないほど、大寒波の影響が甚大だったのだ。
なんとか解決の糸口が見えただけでも、大成功と言ってよかった。
☆★☆★☆
祠から出たところで、
「これを解決したら、旦那様は王国を救った英雄ですな!」
と、スコットさんに笑われる。
彼は寒さが苦手ではないし、そもそも人間たちの事情など知ったことではない節がある。
お気楽なものである。
が、少なくとも私やマリーに協力的なのは確かだ。
来た道を急いで帰る。
絶壁の崖を慎重に降り、無事にマリーたちのもとへと戻った。
「どうしたの? その傷?」
「山で転んで、怪我でもしたポコ?」
マリーが急ぎ回復魔法を掛けてくれる。
「いやぁ、実はね……」
古城までの帰り、ドラゴの牽く幌付きの荷車の中で、マリーとポココに事情を説明したのだった。
金属ゴーレムが真っ赤に熱した後に、魔剣イスカンダルが凍てつく猛吹雪を叩きつけた。
――ピキピキ
「……やったか?」
ひび割れる音がしたが、それは金属ゴーレムに付いていた氷の部分だけだった。
剥がれ落ちた氷の下から、美しいオリハルコンのゴーレムが現れる。
残念ながら、傷一つ見当たらない。
「……ホウ? 考エタナ、小僧! ダガ、コレクライノ事デ、我ガ体ハ、ビクトモセンワ!」
自慢げに宣う鎧型の金属ゴーレム。
もはや、その無敵の金属光は神々しくもあった。
……やはり、効かないのか。
温度差攻撃は失敗だった。
「暗黒神の咆哮!ダーク・ノヴァ!」
私が使える闇属性の魔法のなかで、最強の攻撃魔法をゴーレムに叩きつける。
「何ダト!?」
実は魔剣と盾に攻撃させていたのは、この魔法の詠唱時間を稼ぐためでもあった。
周囲の光を吸収しながら、漆黒のエネルギーの球体が金属ゴーレムを襲う。
――ドシィィィン
「……ヌウ?」
一定の打撃効果を与えたようだが、やはり傷はついていない。
……が、暗黒オーラの余韻が金属ゴーレムにまとわりつく。
「聖なる雷槍! シャイニング・ドライブ!」
続いて、最近習得したばかりの光属性の魔法を詠唱。
眩い光条が金属ゴーレムに突き刺さる。
――ビシ!
「ぐはぁ!?」
遂に金属ゴーレムにヒビを入れることに成功。
闇属性と光属性は、お互いに物凄い相反作用を持つ。
温度差でダメなら、光と闇の魔法エネルギーの属性差での攻撃だったのだ。
かなりのダメージを与えた様で、金属ゴーレムは片膝をついた。
「貰った!」
私はこの隙を逃さず飛び掛かって、魔剣イスカンダルを金属ゴーレムのひび割れた部分に叩きつけた。
――バリーン
まるで高価な薄い陶器が割れるように、金属ゴーレムの破片が宙を舞った。
「ギャァァアア!」
金属ゴーレムの傷口から、魔剣イスカンダルが力を吸い上げる。
よって、相手は今までと同じ硬度は維持できなくなった。
……金属ゴーレムは観念したように、仰向きになって倒れた。
「吾輩ノ、負ケダ! サア、トドメヲ刺ガイイ……」
止めを刺してもいいのだが、今回はこいつを倒しに来たわけではない。
「助けてやるから、協力してくれないか?」
私は剣と盾を背中にしまい、交戦する気がないことを伝える。
「吾輩ニ、何ヲ求メル?」
「実はこの上の祠に住んでいる巫女様のことなのだけど」
「パウラ様ガ、如何シタ?」
あの巫女様はパウラ様というのか……。
「あの方に下界の寒波を、幾分か和らげて欲しいと願ったら、ここに落とされてね……」
「アハハ、ダロウナ!」
大きく破損している金属ゴーレムが、快活に笑う。
……何が面白いんだ?
なんだか腹が立つ。
「……だろうな? 理由は何?」
「巫女様ノ、機嫌ガ悪イ理由ハナ……、」
金属ゴーレムは意外なほど丁寧に事情を説明してくれた。
……氷雪の巫女は、遥か昔から、魔族の貴公子であるアトラスやベリアルのことを兄のように慕っていたらしい。
この金属ゴーレムは自体、ベリアルが妹のように懐く彼女の為に、希少な材料で作ってあげたものだったらしい。
さらに彼女は、彼らに忠節を誓っていた黒騎士エドワードのことが、とても大好きだったらしかったのだ。
ところが、最近になってアトラスとベリアルが次々に殺されてしまい、大好きなエドワードも行方不明になったことに、大いに悲しんだらしい。
しかも、その原因が下界の住人のせいと聞いて、下界に日々猛烈な寒波を送っているとのことだった。
……なるほどねぇ。
私は金属ゴーレムから事情を聞いた後、この謎の空間の壁をよじ登り、再び氷雪の巫女の祠へと戻った。
☆★☆★☆
「よく戻って来たわね、あそこに落として生きて戻ったのはアンタが初めてよ!」
「そりゃどうも……」
頭をかきながらに応える。
……というか、やはり殺す気だったのか。
可愛いなりして、やることが恐ろしい。
「……で、事情はゴーレムさんから聞きました」
「あっそ」
氷雪の巫女様は相変わらず機嫌が悪い。
「で、相談なのですが、エドワードさんを無事に連れてきたら、この寒波を和らげて貰えますか?」
「え!? 彼の居場所を知ってるの? でも、どこにもいないって聞いてるわ!」
彼女の表情が少しだけ明るくなる。
「いや、居場所は分かってはいないんですけどね」
彼女が再び、不機嫌になる。
「じゃあ、アトラス様とベリアル様の敵を討って、なおかつエドワード様を無事に連れてきてくれたら貴方の願いをかなえてあげるわ」
……うわぁ、厳しい条件だなぁ。
だけど、仕方がないなぁ。
「わかりました!」
かなり難しい条件だが、こちらが他に出せる良い条件がない以上、飲むしかなかった。
ザームエル男爵から聞くところによると、このままではパウルス王国が崩壊してしまいかねないほど、大寒波の影響が甚大だったのだ。
なんとか解決の糸口が見えただけでも、大成功と言ってよかった。
☆★☆★☆
祠から出たところで、
「これを解決したら、旦那様は王国を救った英雄ですな!」
と、スコットさんに笑われる。
彼は寒さが苦手ではないし、そもそも人間たちの事情など知ったことではない節がある。
お気楽なものである。
が、少なくとも私やマリーに協力的なのは確かだ。
来た道を急いで帰る。
絶壁の崖を慎重に降り、無事にマリーたちのもとへと戻った。
「どうしたの? その傷?」
「山で転んで、怪我でもしたポコ?」
マリーが急ぎ回復魔法を掛けてくれる。
「いやぁ、実はね……」
古城までの帰り、ドラゴの牽く幌付きの荷車の中で、マリーとポココに事情を説明したのだった。
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