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第六十八話……オリハルコン製の鎧

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「というか、ここまで登ってきて、用事はそれだけなの?」



 氷雪の巫女の機嫌はすこぶる悪い。





「……ええ、本当にダメですか?」



「絶対に駄目よ! 私の悲しみを分かろうとしない人なんて、みんな死んでしまえばいいのよ!」



 彼女は半ばヒステリックに喚くと、宙に浮かび上がる。

 刹那、私の座っていた椅子の下の床が、その下の地面と共に消えてしまった。





「うわぁぁああ!」



 足場を失った私の体は、重力に囚われ自然落下。

 暫しの後に、激しく地面に叩きつけられた。





「ぐはっ!」



 30m以上は落ちただろうか?

 打ち付けられた背中の肉は裂け、背骨が軋んだ。

 マリーたちを連れて来なくて本当によかった。





「……ふぅ」



 血をぬぐい、ゆっくりと立ち上がると、ここはスクエア状の広い地中の空間のようだった。





「ん?」



 うす暗い中、前方に動くものの気配を察知する。





「灯をともせ! ライト・オブ・マジック!」



 灯の魔法を唱えると、前方に見えたのは全高6mほどのスーツアーマー。

 つまるところ、巨大な全身鎧が、ゆっくりと歩いてきたのだった。



 ……気配から察するに、中身は入ってない。



 まるで生き物の気配がなかったのだ。

 いわゆるプレートアーマーを模した金属ゴーレムなのだろう。





「ヒサシブリノ来客ダナ! ココニ来タカラニハ、残念ダガ死ンデモラウゾ!」



 腹の底に響くような低い声が、私の鼓膜に鋭敏に届く。





「我に慈愛を! メディカル・ヒール!」



 私は背中の傷を、古代竜の復活時に会得した光の魔法で急いで治す。

 そして、ミスリル鋼でできた愛剣であるロングソードを、腰の鞘から抜き放ち両手で構えた。





「……ホォ、巨人族ノクセニ、魔法ヲ操ツルノカ? 殺スノニ惜シイ奴!」



 鎧型金属のゴーレムは、私を褒めてくれたあとに、背中からゆっくりと長大なフランベルジュを取り出した。





――ガシッ



 眼にもとまらぬ速さで間合いを詰められ、鋭い斬撃が浴びせられる。





「ぐっ!?」



 とっさに愛剣で受け止めるが、剣を持つ手が痺れ上がる。

 ……この野郎、なんて馬鹿力だ。





「炎の精霊サラマンダーよ、我が力を増大させよ! エンチャント・ストレングス!」



 不利を悟った私は、肉体強化の魔法を唱える。

 体中の骨格に魔力が流れ、軋むような音と共に筋肥大が施される。



 最近に皮膚に現れていたウロコ状のものも、一気に全身に広がり、表皮を次々に硬質化。

 それは全身を覆う鎧と化した。





「でやっ!」



 準備万端。

 鋭意反撃とばかりに、金属ゴーレムに斬りかかる。



 一撃目で相手のフランベルジュを払いのけ、渾身の二撃目を相手の肩口に叩きつける。





――ガコン



 不思議な衝撃とともに、金属片が散らばる。





「……な、何!?」



 なんと欠けたのは、私の愛剣の方だったのだ。





「ククク……、イイ剣術ダナ。オヌシノヨウナ手練、百年ブリヤモ知レヌ!」



 金属ゴーレムは、こちらの攻撃にも余裕しゃくしゃくと言った感じだった。





「地の質を知らせよ! マテリアル・スキャン!」



 岩石王に習った素材を見抜く魔法を唱える。



 ……!?



 この化け物の素材は、なんとオリハルコン。

 ミスリル鋼を超える伝説の金属だったのだ。





「くそっ! 頼んだぞ! イスカンダル!」



「お任せあれ!」



 私は愛剣を鞘にしまい、魔剣であるイスカンダルを右手に持つ。

 実を言うと、イスカンダルは癖のある重心の剣であり、私はまだ使いこなせてはいなかったのだ。



 左手には背中より取り出した、喋る盾ことデルモンドを構え正眼させた。





――ガシッ

――ガシッ



「……い、痛いですぞ!」



 相手が繰り出す剣戟をデルモンドで受け止める。



 この盾は、ほどよい弾性と柔軟性を持ち、私への衝撃をかなり抑えた。

 流石は古の炎王バーンの盾といったところだった。





――ガキーン

――キンキン



 隙を見て魔剣イスカンダルで反撃するも、オリハルコン製の金属ゴーレムには、かすり傷一つつかない。



 そのため、ほとんど時間を守勢に回らざるを得ない。



 もしも、オリハルコン製のフランベルジュで斬られれば、硬質化した私の皮膚でも容易に深手を負うことが予想できたからだ。





「ウハハ、小僧。守ッテイルダケデハ、勝テンゾ!」



 確かに相手の言う通りだった。



 敵の力を吸収できるはずの魔剣イスカンダルも、僅かな傷もつけられないとなると、力を吸い取る糸口がつかめないようだった。





――カキーン

――ガシュ



「うっ?」



 幾度にもわたる剣戟を受け続け、遂には相手の一撃が左脇腹をかすめる。

 凄まじい切れ味の斬撃が、私の左脇腹の肉を、水が掬うが如くむしり取る。





「ぐはっ!」



 慌てて傷口を抑え、回復魔法を使用するも、口へも血が昇ってきた。



 ……内臓をやられたか?

 ここまで深手だと、私の回復魔法では限界がある。

 かなりの持久力も、出血と共に削がれたのを感じた。



 駄目だ、このままでは確実にやられる。

 何とかせねば……。





「出でよ、地獄の勇者たち! ドラゴントゥース・ウォーリアー!」



 カバンの中から顔だけ出したスコットさんが、骸骨剣士を数体召喚。

 時間稼ぎを図ってくれる。





「旦那様、しっかり!」



「ありがとう」



 急いで盾を構えなおし、相手の次の攻撃に備えた。



 私は一刻も早く、有効な打開策を見出さなければならなかった。

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