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第六十四話……大寒波による食料高騰。
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登って来る朝日が美しい、とある高い山にある祭壇にて、悲しみの涙を浮かべる巫女がいた。
「アトラス様の次は、ベリアル様まで……。私の愛した人は次々に……。もうこの世界などどうなっても良いわ!」
「皆、氷に閉ざされて死ぬがいい!」
☆★☆★☆
「御館様、とても困りました」
「どうかしたの?」
ルカニが珍しく朝から、私の執務室に顔を出している。
「秋に撒く小麦なのですが、あれ以降に雪が全く解けず、種まきが出来ておりません。このままだと春に収穫できる小麦は一粒も無くなってしまいます!」
「……そ、それは困る!」
私は顔を青くした。
この世界の小麦は、秋の終わりに種を撒き、春に収穫を行う。
今年の冬はいつもより早く雪が降ったのだが、本格的に冬に入る前に、一度は解けると思っていたのだ。
それが一向に溶けない。
種まきの時期を逸した形となっていた。
……しかも、我が領の小麦自給率はとても低かったのだ。
「困ったポコね」
「ガウ、どうしよう?」
マリーもポココも心配そうだ。
「うーん、とりあえず行商人に聞いてみるよ」
とりあえず、城下に来ている大手の商人たちに聞いてみることにした。
最悪の場合に備えて、小麦を大量に買い入れる腹積もりであった。
☆★☆★☆
「これは、マリー準男爵様の家宰のガウ様! どうか致しましたかな?」
パウルス王国の王都にある大手の商館は、我が古城の城下に小さな支店を出していた。
その支店の一つを訪ねたのだ。
「小麦の余剰があれば売ってほしい。しかも、できるだけ多く……」
そう伝えると、商人は少し難しい顔をして、少し意地悪く笑ったあとに、
「……あはは、家宰様。今は小麦一袋いくらだと思います?」
「銀貨3枚か4枚ですか?」
「……いえ、もう16枚くらいが相場ですよ」
「な、馬鹿な。4枚でも高値でしょう?」
私が驚くと、商人はヤレヤレといった顔つきで、
「この地だけでなく、今やパウルス王国の農地全域が、極度の寒波に晒されているのです。来年の小麦は近年にない大不作に間違いありません!」
……くっ、遅かったか。
商人はこういうことに非常に目ざとい。
しかし、遅くとも、少しでも食料を買い付ける必要性はあった。
「……で、16枚払うとして、譲ってもらえる小麦はどんな品ですか?」
「並の品だと、こちらになります」
見本の小麦を見せて貰う。
驚くことに、かなり質の悪いものだった。
「これが並の質とは、おかしくないですか?」
「おかしくありません! 家宰様、今回の寒波を甘く見ていらっしゃいませんか!?」
商人に説教されてしまう。
我々農地を持つものが、食料を買いに来るような情勢自体がおかしいのだと……。
……しかし、その通りだった。
作る者が買うようでは、商人に売る者などいない。
品不足になるのは当然のことだった。
「また来るよ、勉強になったよ」
「それはようございました。今後ともごひいきに!」
商人に御礼を言って、とりあえず古城に戻ることにした。
☆★☆★☆
――三日後。
周辺の他領に、偵察に出ていたバルガスが戻って来る。
「バルガス、他の領地も種まきが出来ていないのか?」
「はっ、間違いございませぬ。このままだと未曾有の大不作になることは間違いないかと……」
商人の言っていることは正しかった。
他の地域でも、小麦に限らず食料価格は急騰していたのだ。
「バルガス、急いで領境の関所に伝令を出せ! 領地を出る食料には、今までの10倍の関税を掛けろ!」
「はっ!」
「ガウ、流石に10倍はやりすぎじゃない? 商売する人が困るよ!」
「こまるポコ!」
「そんなことは無い! 一切領外に食料を出さないようにするんだ。それでも出ていくようなら20倍、30倍にするつもりだよ!」
「ええ~!」
マリーは驚くが、領民を飢えさせないようにするのが、先ずは急ぐべき最善手であった。
前世の世界で、『自由貿易は素晴らしい!』みたいな考え方があったが、それはみんなに食料が行きわたる生産量があってのことだった。
「旦那様、それは良いとして、新しい作物を探した方が良いですな! この調子だとズン王国領でも食料不足になるでしょうし……」
「そうだね。早速探しに行こう!」
スコットさんが新しい代替食料を探すべきだと提案。
パウルス王国の地の雪は既に深いが、南方のズン王国の地は、まだ雪がないであろう地域が予測された。
「あと、ジークルーン。後で古城の金庫から銀貨を出すので、パウルス王都からできるだけ安く、小麦を買ってきてくれ!」
「わかりました!」
……多分既に高値だろうが、高いからと言って、全く買わないのも領民に対して無責任だと思ったのだ。
☆★☆★☆
「出発ぽこ!」
私達は再びドラゴに幌つきの荷車を牽かせ、食べられる植物を探しに、まだ温かいであろう南方へと旅立った。
領外の地も雪が既に深く、普通の馬車で走るのは、主要街道でさえ厳しい状況となっていた。
この点、ドラゴがいてくれて本当に助かった。
――10日後。
小麦価格はさらに高騰。
並の品質で一袋銀貨20枚を突破した。
それにも増して、さらに値上がりを見せる雰囲気だった。
それに引っ張られる形で、魚や肉なども3~4倍の価格となっていった。
……本格的な冬を前に、とんでもない状況となっていったのだった。
「アトラス様の次は、ベリアル様まで……。私の愛した人は次々に……。もうこの世界などどうなっても良いわ!」
「皆、氷に閉ざされて死ぬがいい!」
☆★☆★☆
「御館様、とても困りました」
「どうかしたの?」
ルカニが珍しく朝から、私の執務室に顔を出している。
「秋に撒く小麦なのですが、あれ以降に雪が全く解けず、種まきが出来ておりません。このままだと春に収穫できる小麦は一粒も無くなってしまいます!」
「……そ、それは困る!」
私は顔を青くした。
この世界の小麦は、秋の終わりに種を撒き、春に収穫を行う。
今年の冬はいつもより早く雪が降ったのだが、本格的に冬に入る前に、一度は解けると思っていたのだ。
それが一向に溶けない。
種まきの時期を逸した形となっていた。
……しかも、我が領の小麦自給率はとても低かったのだ。
「困ったポコね」
「ガウ、どうしよう?」
マリーもポココも心配そうだ。
「うーん、とりあえず行商人に聞いてみるよ」
とりあえず、城下に来ている大手の商人たちに聞いてみることにした。
最悪の場合に備えて、小麦を大量に買い入れる腹積もりであった。
☆★☆★☆
「これは、マリー準男爵様の家宰のガウ様! どうか致しましたかな?」
パウルス王国の王都にある大手の商館は、我が古城の城下に小さな支店を出していた。
その支店の一つを訪ねたのだ。
「小麦の余剰があれば売ってほしい。しかも、できるだけ多く……」
そう伝えると、商人は少し難しい顔をして、少し意地悪く笑ったあとに、
「……あはは、家宰様。今は小麦一袋いくらだと思います?」
「銀貨3枚か4枚ですか?」
「……いえ、もう16枚くらいが相場ですよ」
「な、馬鹿な。4枚でも高値でしょう?」
私が驚くと、商人はヤレヤレといった顔つきで、
「この地だけでなく、今やパウルス王国の農地全域が、極度の寒波に晒されているのです。来年の小麦は近年にない大不作に間違いありません!」
……くっ、遅かったか。
商人はこういうことに非常に目ざとい。
しかし、遅くとも、少しでも食料を買い付ける必要性はあった。
「……で、16枚払うとして、譲ってもらえる小麦はどんな品ですか?」
「並の品だと、こちらになります」
見本の小麦を見せて貰う。
驚くことに、かなり質の悪いものだった。
「これが並の質とは、おかしくないですか?」
「おかしくありません! 家宰様、今回の寒波を甘く見ていらっしゃいませんか!?」
商人に説教されてしまう。
我々農地を持つものが、食料を買いに来るような情勢自体がおかしいのだと……。
……しかし、その通りだった。
作る者が買うようでは、商人に売る者などいない。
品不足になるのは当然のことだった。
「また来るよ、勉強になったよ」
「それはようございました。今後ともごひいきに!」
商人に御礼を言って、とりあえず古城に戻ることにした。
☆★☆★☆
――三日後。
周辺の他領に、偵察に出ていたバルガスが戻って来る。
「バルガス、他の領地も種まきが出来ていないのか?」
「はっ、間違いございませぬ。このままだと未曾有の大不作になることは間違いないかと……」
商人の言っていることは正しかった。
他の地域でも、小麦に限らず食料価格は急騰していたのだ。
「バルガス、急いで領境の関所に伝令を出せ! 領地を出る食料には、今までの10倍の関税を掛けろ!」
「はっ!」
「ガウ、流石に10倍はやりすぎじゃない? 商売する人が困るよ!」
「こまるポコ!」
「そんなことは無い! 一切領外に食料を出さないようにするんだ。それでも出ていくようなら20倍、30倍にするつもりだよ!」
「ええ~!」
マリーは驚くが、領民を飢えさせないようにするのが、先ずは急ぐべき最善手であった。
前世の世界で、『自由貿易は素晴らしい!』みたいな考え方があったが、それはみんなに食料が行きわたる生産量があってのことだった。
「旦那様、それは良いとして、新しい作物を探した方が良いですな! この調子だとズン王国領でも食料不足になるでしょうし……」
「そうだね。早速探しに行こう!」
スコットさんが新しい代替食料を探すべきだと提案。
パウルス王国の地の雪は既に深いが、南方のズン王国の地は、まだ雪がないであろう地域が予測された。
「あと、ジークルーン。後で古城の金庫から銀貨を出すので、パウルス王都からできるだけ安く、小麦を買ってきてくれ!」
「わかりました!」
……多分既に高値だろうが、高いからと言って、全く買わないのも領民に対して無責任だと思ったのだ。
☆★☆★☆
「出発ぽこ!」
私達は再びドラゴに幌つきの荷車を牽かせ、食べられる植物を探しに、まだ温かいであろう南方へと旅立った。
領外の地も雪が既に深く、普通の馬車で走るのは、主要街道でさえ厳しい状況となっていた。
この点、ドラゴがいてくれて本当に助かった。
――10日後。
小麦価格はさらに高騰。
並の品質で一袋銀貨20枚を突破した。
それにも増して、さらに値上がりを見せる雰囲気だった。
それに引っ張られる形で、魚や肉なども3~4倍の価格となっていった。
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