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第五十三話……魔将ラムザの奥の手 【side・魔将ラムザ】

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【side・魔将ラムザ】



――小高い丘の上。

 ズン王国軍第三軍、野戦本営幕舎。





「第一陣の総大将、バルバトス様討ち死に!」



「なんだと!?」



 伝令に報告に、魔族の幕僚たちが騒めく。

 古代竜から借り受けたリザードマンの将が死んだらしい。



 俺様の名は魔将ラムザ。

 魔王アトラス様によって、第二の命を頂いている。



 ……頂いているだと?

 冗談じゃない。

 いつの日か、魔王も俺様の足元に跪かせてやる。





「ラムザ様、第一陣の混乱は極めております。撤兵を指示なさいませ!」



 魔王から付けられた参謀が喚く。

 撤兵? 逃げる?

 冗談じゃない。





「退くなと伝えよ! 逃げる奴は皆殺しだ!」



「はっ!」



 俺様のズン王国軍第三軍は、これまでに20もの村や町を攻略。

 占領地はもれなく焼き払い、農地には質の悪い塩を撒いてやった。



 住民も老若男女、漏れなく魔王都へ奴隷として売り払った。

 お陰で魔王からの評価はうなぎ登りだ。





「古代竜の奴からせしめた中型竜を、前線に投入せよ!」



「はっ!」



 古代竜レーヴァティンに、従属の薬を飲ませることに成功して以来、竜族の兵隊を手に入れるのが容易になっている。

 竜族がいくら死のうと、俺様の懐は痛まない。



 ……くっくっくっ。

 竜族とパウルス王国の奴等が、お互いすりつぶし合ってくれ。





「それはそうと、レーヴァティンの孫娘はまだ見つからんのか!?」



「……はっ、未だ捜索中です!」



「ふん! 役立たずが!」



 魔王は古代竜の孫娘をご所望だ。

 古代竜の孫娘を手にすれば、魔族のみならず、竜族の王も名乗れるかもしれない。



 ……まぁ、欲しい気持ちは分からんでもないがな。





「ラムザ様、第一陣が完全に突破された模様!」



「なんだと!? 砦に残っていたのは僅かな敵だけでは無かったのか?」



「……そ、それが、小型のドラゴンに乗った巨人が、一騎だけで我が方を切り崩しております!」



「な、馬鹿な!?」



 第一陣にはリザードマンだけではなく、フレッシュゴーレム等の各種ゴーレムも多数配備していたのだ。

 一騎だけでの突撃で、突破できるわけがない。





「例の巨人が第二陣に切り込んでまいります!」



「……くっ!」



 第二陣は虎の子の攻城兵器を装備した攻城部隊だった。

 野戦のような近接戦闘には弱い。



 配備しているのは、近接戦闘では頼りにならないゴブリンや人間たち。

 しかし、護衛には力自慢のオークやオーガといった面々がついていた。





「第二陣総大将、ジグムンド様お討ち死に!」



「……なんだと!? 相手は鬼神か!?」



 ジグムンドはオーク族最強と言われたオークロード。

 それがあっさりと倒されてしまうとは……。



 遠眼鏡で戦闘地域を見ると、こちらが劣勢なのを感じ取り、川の北側に撤退していたパウルス王国の軍隊までが攻撃を仕掛けてきていた。



 俺様が苦心して作った攻城兵器までが、次々に敵に焼き払われていく。

 衝車や雲梯、投石器やバリスタといった兵器が、次々と敵の手にかかっていったのだ。





「ラムザ様! 敵の勢いは凄まじく、ここは撤退するしかありませぬぞ!」



「……くそう」



 黒騎士エドワードが撤退を進言してくる。

 奴は我が第三軍最強の騎士であり、俺様の親衛隊長でもある。





「エドワードよ、しばらく前線に出て時間を稼げ! その間に古代竜レーヴァティンを召喚する!」



「なんですと!? 魔王様に無断で古代竜をご使用なさるのですか?」



 エドワードの言う通り、古代竜の無断使用は禁じられていた。

 古代竜は我が第三軍のみならず、ズン王国軍最強の秘密兵器だったのだ。





「将を二人も失い、攻城兵器も焼き払われ、おめおめ逃げ帰って魔王様が許してくれると思っているのか!?」



「……そ、それは」



 私は以前に留守中に、重要拠点であるコリオの城を失った。

 それに加えて、今回も大敗に終われば、俺様の出世街道は終わってしまう。

 ここは何が何でも勝ちに行くしかなかったのだ。





「エドワードよ、命令だ。配下のレッサー・デーモンを率いて、敵を足止めせよ!」



「ははっ、かしこまりました!」



 黒い装束に統一した騎士エドワードは、俺様に一礼して戦場へと向かう。

 奴が敵を支えている間に、古代竜を召喚しなくては……。





「古代竜の召喚に使う奴隷を200人ほど連れて来い!」



「はっ!」



 召喚用の生贄を、幕僚のレッサー・デーモンに連れてくるよう告げた。

 奴隷が来る間に、古代の魔法書を頼りに巨大な魔法陣を描く。



 俺様はすでに古代竜とは契約済みであった。

 薬物を使っての無理やりだがな……。

 何をしようが、勝者が絶対なのが魔族の理。



 ……いや、違うな。

 人間の時もそうだった。

 むしろ、人間の方がというべきだろう。





「何卒お助け下さい!」

「命だけは……」



「私の子供たちはまだ小さいのです、御助けを!」

「お願いです、お金ならいくらでも払います!」



 連れて来られた奴隷たちが、次々に泣き喚いて助けを乞う。

 ……嗚呼、いい気分だ。



 弱者の悲鳴ほど心地よいものは無い。

 まさに生きていると実感する。

 いつまでも聞いていたい気分だが、今は時間がないのだ……。





「降臨せよ、全能なる竜。古代より最強の主よ……」



 ……くっくっくっ、ちょっとばかり強くて粋がっている巨人よ。

 それに、形勢が良くなったからと、愚かにも攻勢に出てきた人間どもよ。

 我が僕、古代竜の絶大なる破壊力の下に跪かせてやる。

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