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第四十六話……伯爵の心の臓を探せ!

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「魔力元素にまで分解、還元してやる!」



 怒りに震える伯爵7体が、剣を握りしめて、じわじわと近づいてくる。





「旦那様が一人で戦っていた間、ワシが何もしていなかったと思うか?」



 スコットさんが伯爵に語り掛ける。



「なんだと?」



「……旦那様、ワシに足りない魔力をお借りしますぞ!」

「大地よ咆えろ! 大気よ唸れ! 石礫を雨の如く降らせたまえ! メテオストーム!」



 スコットさんがそう唱えると、伯爵の屋敷の一面に、小さな魔法陣が幾千万と描かれる。

 それは一つの美しい幾何学模様のようだった。



 ……と同時に、気を張り詰めていないと、気を失いそうなほどに魔力が吸い上げられるのを感じた。





――ドバババババ



 目の前が真っ白に明るくなるほどに、天井を貫いて空から大量に石が降って来る。

 落石の速度はとても速く、空気との摩擦で赤熱していた。

 その一つ一つは小さくとも、その数は数万数千といった感じだった。



 その石の嵐に対して、盾を掲げ防ぐ。

 あまりの威力に、盾もいくらか貫かれる。



 盾で防げない分は、スコットさんが形成してくれた鎧がいくらか弾いてくれた。





 ……終わったかな?

 石礫の暴風雨が終わった後には、伯爵の屋敷はボロボロに壊れ、上の屋根は全て壊れていた。





「……ぐふっ」



 眼の前に起き上がる人影。

 パール伯爵だ。



 彼は盾も鎧も持ち合わせないために、全身血まみれになっていた。

 皮は裂け、肉はただれ、一部には骨も見え隠れしている。

 高位魔法が解けたのか、伯爵の体は一体に戻っていた。





「旦那様、ちと疲れました。寝ます……」



 スコットさんが念話で休むことを伝えて来る。

 これにて、竜の骨でできた鎧も瓦解する。





「巨人風情がぁぁ!!」



 凄まじく黒い闘気を纏わせながら、伯爵が斬りかかって来る。

 彼の魔剣には、不気味な悪鬼の顔が蠢いている。



 一体となった伯爵の体。

 しかも手負いで動きは緩慢。





――ズシュ



 私は伯爵の左胸に剣を尽き立てた。

 血が噴水のように噴き出る。



 ……ようやっと、勝った。





「小僧! 油断したな!」



 心の臓を貫かれたはずなのに、伯爵はその状態のまま、鋭く剣を振り下ろしてくる。



「!?」



 確かに私は油断した。

 私の剣が伯爵の胸に深く刺さったままなので、一瞬避けるのが遅れる。

 伯爵の魔剣が、私の左肩の肉を裂き、骨を砕いた。





「ぐぁ!」



 私は痛みに苦悶の表情を浮かべる。

 背中には大量の脂汗が流れた。





「……くっくっく」



 血まみれの伯爵の笑顔に合わせ、彼の魔剣も不気味に笑う。





「……う、不味い!?」



 私は剣を離し、素早く飛びのいた。

 彼の魔剣は、私の傷口から魔力を大きく吸っていのだ。



 ……その魔力を使って、伯爵の体が再生していく。





「くくっく、我が魔剣イスカンダルの味はどうだね?」



 ……形勢逆転だ。

 私は左肩に重傷を負い、伯爵は傷をある程度まで回復させていたのだ。



 私は腰に差していた、魔法のマインゴーシュを右手で抜く。





「死ね!」



 伯爵が振り下ろした魔剣を躱し、今度は彼の右胸にマインゴーシュを突き立てる。



 ……不味い、手ごたえがない。

 私はすぐに後ろに跳び、間合いをとる。





「くっくっく、私の心の臓を探しておるのだろう?」

「……いい考えだ。確かに私は心の臓をやられると死んでしまう。だがそれがどこにあるかわかるかな?」



 ……くそ。

 やつの心の臓は、どこにあるんだ?

 そもそも、伯爵の胸はズタズタで、普通に生きているのが不思議な感じだ。





「もういい加減、死ね!」



 そう言い放って、斬りかかって来る伯爵を避け、大腿部や腕、腹など思いつく限りの部位を次々に刺した。

 ……が、





「小僧、もう終わりか?」



 伯爵は血まみれながら、ピンピンしている。

 血色まで良くなっている感じだ。





「小僧、どうせ誰かに、私を倒して来いと頼まれたのだろう?」

「……しかしな、暗殺者に狙われる事1000年。未だに私は無事なのだぞ!」



 伯爵はもう勝ったとばかりに流暢に話す。



 確かに、このままでは私が負ける。

 左の肩口の傷を、魔力で封じていられるのも、時間の問題だったのだ。





「……あ? ヤメロ! 痛い! やめてくれ!」



「!?」



 突然伯爵が胸を押さえつつ、悶え始める。

 一体どうしたのだろう?





「誰だ? 私の心の臓を舐めるのは?」



 後ろから、懐かしく温かい気配がやって来るのを感じる。

 振り返ってみると、ポココの姿だった。





「!?」



 なんと口に血まみれの心の臓を咥えている。

 きっと伯爵の心臓だろう。

 どこかで見つけてきたのだろう。





「やめてくれ! 助けてくれ! お願いだ……」

「……な、なんでも言うことを聞きます。後生でございます……」



 突然に伯爵が床にひれ伏し、丁寧に助けを請うてくる。





「ポココおいで、その心の臓を頂戴」



「ぽここ~?」



 私はポココから心の臓を貰い、右手で掴んだ。





「何卒、御助け下さい!」



 端麗な顔立ちの伯爵が、涙を流している。



 ……私は、決断した。





「よろしい。では、我と共に生きよ!」



 伯爵の顔に、喜びの色が見える。





――ガブッ



「ギャァッァァァアアア!!!」



 伯爵の断末魔の悲鳴が、屋敷中に響き渡る。



 ……私は彼の心の臓を、一口で食べてしまったのだった。



 もう二度と戦いたくない強敵だ。



 そして、せめて生きるなら、私の体と共に生きて欲しい。

 何だか、前世の感覚では説明できない感情だった。



 私の心も、すっかり魔物になったのだろうか?

 なんだかそんな想いを感じてしまった自分の行動だった。





「新しい主はそなたかな?」



 ……気が付くと目の前で、伯爵の魔剣が笑っていたのだった。
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