上 下
34 / 73

第三十四話……ミスリル鋼の鉱石

しおりを挟む
――シェル爺さんの話に驚く。





「……それで、味方に後ろから撃たれたのですか?」



「そうじゃよ、まったくひどいもんじゃ!」



「どうしてですか?」



「誰かが、騎士団長にライアン団長が裏切ったと讒言したらしい」



「……そんな、馬鹿な?」



「じゃろう?」



 傭兵団は領主様からの報酬金で、日々運営されている。

 安易な裏切りなど、あるはずは無かった。





「まぁ、妬みじゃろうなぁ……、ライアン団長は手柄を立てすぎたのじゃ」



「ふむぅ」



 ……よくある話だった。

 会社関係でも、弱者が頑張って手柄を立てるのを、既存の強者が黙ってみていることはまずない。

 私の前世での嫌な記憶だった。





「……で、ジークルーンは無事ですか?」



「いや、詳細は分からんが、無傷なものはいなかったと聞いている……、すまん」



 シェル爺さんも味方の追撃を受け、ここまで逃げ延びたらしい。

 他のメンバーのことは、よくわからないとのことだった。





「傷が治るまで、ここにいてください。ご飯はタダにしときますよ」



「ついでに毎食、酒もつけといてくれ!」



 状況の悪さに比べ、シェル爺さんの顔色は悪くない。

 味方の裏切りなど、嫌われ者の傭兵団にはよくあるといった感じだったのかもしれない。







☆★☆★☆



――その日の晩。

 古城2階の執務室。





「それは酷いポコ!」



「味方を後ろから攻撃するとは、卑怯者ですな!」



 ポココとスコットさんも憤る。





「……とりあえず、団長やジークルーンを探そう! まずはそれからだ!」



 私は皆に、ライアン傭兵団員を探そうと提案する。





「賛成ポコ!」



「早速、さがしましょうぞ!」



 みんなが意気込むところに、





「御館様、私の一族は数が多いです! ここはこのルカニに、お任せください!」



 ルカニが団員捜索の任を、任せて欲しいといってきた。

 たしかに、彼女の配下のゴブリン達は、数の多さだけは、ピカイチだった。





「じゃあ、とりあえずルカニ頼もう。他の皆はいつもどおりで!」



「わかったポコ!」



 とりあえず、遠距離の捜索をルカニ配下のゴブリン達に一任。

 近距離での捜索を、バルガス配下のオーク達に頼むことにした。







☆★☆★☆



――翌日。

 久々に、鉱山の坑道へと出向く。





「あ、旦那様。ここは危険ですよ!?」



 鉱山夫のドワーフに、山で挨拶される。

 たしかに、危険な場所ではあったが、試したいことがあったのだ。





「地霊よ、その眼と耳を貸し給え、トレジャー・サーチ!」



 スコットさんが前回の洞窟で拾ってきた古書にあった魔法だ。

 いわゆる貴金属の探知機のような効果を発揮するはずった。





「エンチャント・ストレングス!」



 巨人の体に戻り、力を増幅する魔法を唱える。





――ガキッ

――ガキッ



 坑道でドワーフたちと大きなつるはしを振り回した。





……掘り出されたのは、



――鉄鉱石。

――銅鉱石。

――金鉱石。



 金鉱石は旨いが、新しい魔法を使った割に、効果が薄い。





「意外と良いのがでないね……」



「旦那様、忍耐が足りませんぞ!」



「あはは!」



 スコットさんに嗜められた姿を、ドワーフの鉱山夫たちに笑われた。





――カチーン!



 さらに掘っていくと、硬いものに当たった音がする。

 よく見ると、鋼鉄製のつるはしが欠けていた。





「おお!」



 ベテランのドワーフが感嘆の声を上げる。





「旦那様、これはミスリル鉱石ですぞ!」



「やりましたな!」



 スコットさんも喜ぶ。

 ……ぉ、これは、いいものGETぽい?







☆★☆★☆



「旦那様、この溶けない石はなんですかな?」



「ミスリル鉱石かな?」



 喜び勇んで、古城の溶鉱炉施設に、鉱石をもちかえったところ、オークの技師に渋い顔をされる。



 この古城にある炉では、この石が溶けないのだ。

 もちろん、溶かせないことには、製品は作れない。





「旦那様、その石は、後でもようございますかな?」



 戦士長のバルガスにも諭される。



 いま、古城の溶鉱炉は、金の精製が巧くいっているのだ。

 ……たしかに、溶けない鉱石の実験に使うわけにはいかなかった。





「スコットさん、どうしよう?」



 何とか、この鉱石で何かを作ってみたい。

 それは、スコットさんも同じ気持ちらしかった。





「どうしたものですかな?」

「いっそのこと、溶鉱炉を増やしてみてはいかがですかな?」



「いいねぇ~♪」



 マリーは街にドラゴンの魔石を売りに行っているので、暇そうなポココを誘う。

 事情を話すと……、





「やるポコ~♪」



 ……人材は揃った。

 後は炉を作るだけだったのだ。







☆★☆★☆



――古城1階の食堂。





「今までの炉の温度では溶けませんな」



「温度が足らないぽこ!」



 確かにミスリル鋼が、既存の温度で溶けたら、ドラゴンの炎などに抗すべきもない。

 高い品質は、やはり高い製造コストが必要らしかった。





「……まず、いい灼熱石が必要ですな!」



 木炭や石炭で炉を運用するのだが、この世界の炉では、その核に灼熱石という魔石を使うのが常識だった。

 灼熱石は貴重品で、手に入れるには大金が必要だった。





「お金が足りないポコ!」



「我々は貧乏ですな……」



 皆でお金を出し合うが、全然足りそうにない。

 ……うーむ、早速計画がとん挫しそうだ。





 そこへ、ドラゴの鳴き声が響く。





「ただいま~♪」



 ……お金を沢山持っていそうな、大魔法使いマリー様のお帰りだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました

Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。 男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。 卒業パーティーの2日前。 私を呼び出した婚約者の隣には 彼の『真実の愛のお相手』がいて、 私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。 彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。 わかりました! いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを かまして見せましょう! そして……その結果。 何故、私が事故物件に認定されてしまうの! ※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。 チートな能力などは出現しません。 他サイトにて公開中 どうぞよろしくお願い致します!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...