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第三十四話……ミスリル鋼の鉱石

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――シェル爺さんの話に驚く。





「……それで、味方に後ろから撃たれたのですか?」



「そうじゃよ、まったくひどいもんじゃ!」



「どうしてですか?」



「誰かが、騎士団長にライアン団長が裏切ったと讒言したらしい」



「……そんな、馬鹿な?」



「じゃろう?」



 傭兵団は領主様からの報酬金で、日々運営されている。

 安易な裏切りなど、あるはずは無かった。





「まぁ、妬みじゃろうなぁ……、ライアン団長は手柄を立てすぎたのじゃ」



「ふむぅ」



 ……よくある話だった。

 会社関係でも、弱者が頑張って手柄を立てるのを、既存の強者が黙ってみていることはまずない。

 私の前世での嫌な記憶だった。





「……で、ジークルーンは無事ですか?」



「いや、詳細は分からんが、無傷なものはいなかったと聞いている……、すまん」



 シェル爺さんも味方の追撃を受け、ここまで逃げ延びたらしい。

 他のメンバーのことは、よくわからないとのことだった。





「傷が治るまで、ここにいてください。ご飯はタダにしときますよ」



「ついでに毎食、酒もつけといてくれ!」



 状況の悪さに比べ、シェル爺さんの顔色は悪くない。

 味方の裏切りなど、嫌われ者の傭兵団にはよくあるといった感じだったのかもしれない。







☆★☆★☆



――その日の晩。

 古城2階の執務室。





「それは酷いポコ!」



「味方を後ろから攻撃するとは、卑怯者ですな!」



 ポココとスコットさんも憤る。





「……とりあえず、団長やジークルーンを探そう! まずはそれからだ!」



 私は皆に、ライアン傭兵団員を探そうと提案する。





「賛成ポコ!」



「早速、さがしましょうぞ!」



 みんなが意気込むところに、





「御館様、私の一族は数が多いです! ここはこのルカニに、お任せください!」



 ルカニが団員捜索の任を、任せて欲しいといってきた。

 たしかに、彼女の配下のゴブリン達は、数の多さだけは、ピカイチだった。





「じゃあ、とりあえずルカニ頼もう。他の皆はいつもどおりで!」



「わかったポコ!」



 とりあえず、遠距離の捜索をルカニ配下のゴブリン達に一任。

 近距離での捜索を、バルガス配下のオーク達に頼むことにした。







☆★☆★☆



――翌日。

 久々に、鉱山の坑道へと出向く。





「あ、旦那様。ここは危険ですよ!?」



 鉱山夫のドワーフに、山で挨拶される。

 たしかに、危険な場所ではあったが、試したいことがあったのだ。





「地霊よ、その眼と耳を貸し給え、トレジャー・サーチ!」



 スコットさんが前回の洞窟で拾ってきた古書にあった魔法だ。

 いわゆる貴金属の探知機のような効果を発揮するはずった。





「エンチャント・ストレングス!」



 巨人の体に戻り、力を増幅する魔法を唱える。





――ガキッ

――ガキッ



 坑道でドワーフたちと大きなつるはしを振り回した。





……掘り出されたのは、



――鉄鉱石。

――銅鉱石。

――金鉱石。



 金鉱石は旨いが、新しい魔法を使った割に、効果が薄い。





「意外と良いのがでないね……」



「旦那様、忍耐が足りませんぞ!」



「あはは!」



 スコットさんに嗜められた姿を、ドワーフの鉱山夫たちに笑われた。





――カチーン!



 さらに掘っていくと、硬いものに当たった音がする。

 よく見ると、鋼鉄製のつるはしが欠けていた。





「おお!」



 ベテランのドワーフが感嘆の声を上げる。





「旦那様、これはミスリル鉱石ですぞ!」



「やりましたな!」



 スコットさんも喜ぶ。

 ……ぉ、これは、いいものGETぽい?







☆★☆★☆



「旦那様、この溶けない石はなんですかな?」



「ミスリル鉱石かな?」



 喜び勇んで、古城の溶鉱炉施設に、鉱石をもちかえったところ、オークの技師に渋い顔をされる。



 この古城にある炉では、この石が溶けないのだ。

 もちろん、溶かせないことには、製品は作れない。





「旦那様、その石は、後でもようございますかな?」



 戦士長のバルガスにも諭される。



 いま、古城の溶鉱炉は、金の精製が巧くいっているのだ。

 ……たしかに、溶けない鉱石の実験に使うわけにはいかなかった。





「スコットさん、どうしよう?」



 何とか、この鉱石で何かを作ってみたい。

 それは、スコットさんも同じ気持ちらしかった。





「どうしたものですかな?」

「いっそのこと、溶鉱炉を増やしてみてはいかがですかな?」



「いいねぇ~♪」



 マリーは街にドラゴンの魔石を売りに行っているので、暇そうなポココを誘う。

 事情を話すと……、





「やるポコ~♪」



 ……人材は揃った。

 後は炉を作るだけだったのだ。







☆★☆★☆



――古城1階の食堂。





「今までの炉の温度では溶けませんな」



「温度が足らないぽこ!」



 確かにミスリル鋼が、既存の温度で溶けたら、ドラゴンの炎などに抗すべきもない。

 高い品質は、やはり高い製造コストが必要らしかった。





「……まず、いい灼熱石が必要ですな!」



 木炭や石炭で炉を運用するのだが、この世界の炉では、その核に灼熱石という魔石を使うのが常識だった。

 灼熱石は貴重品で、手に入れるには大金が必要だった。





「お金が足りないポコ!」



「我々は貧乏ですな……」



 皆でお金を出し合うが、全然足りそうにない。

 ……うーむ、早速計画がとん挫しそうだ。





 そこへ、ドラゴの鳴き声が響く。





「ただいま~♪」



 ……お金を沢山持っていそうな、大魔法使いマリー様のお帰りだった。
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