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第三十三話……しゃべる盾

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「お宝を開けるポコ~♪」



「今回はこれだけが、楽しみよね」



 今回の任務である伯爵令嬢の救出は失敗。

 しかし、中型ドラゴンを倒した際の大きな魔石など、お宝は多数獲得していた。





「……では、魔法羊皮紙を開放しますぞ!」



「はい、お願いします!」



 スコットさんに頼み、収集品を仕舞っていた魔法のスクロールを開放。

 鈍い紫色の光と共に、今回の収集品がお目見えした。





「凄い量ポコね!」



「……だね」



 確かに魔法収納であったので、運んだときは重かったのだが、出してみるまで全体量は不明だったのだ。



 量はたくさんあったが、カエルの死体まで入っている。

 ……入れたのはポココだろうか?



 やはり目玉は、ドラゴンから出てきた超特大の魔石。

 直径30cmはあろうかというほどの逸品だった。



 ……他には龍の鱗。

 そして、ポココが入れたであろうゴミのような収集品の中から、古びた盾のようなものが現れた。





「汚いなぁ……、でも洗ったら、伝説の盾だったりとかして?」



「「「あはは……」」」



 みんなで笑っていると、





「うるさいぞ! 貴様ら!」



 ……え!?

 盾がしゃべった。

 というか、盾の表面に顔のような模様が現れている。





「小僧! 貴様が我の新しい主か!?」



「……主かどうかは分かりませんが、ガウと申します」



 重厚な威厳のある盾の声に、少し怯えてしまう。





「怯えずともよい、ガウとやら!」

「我は炎魔王バーン様の武具の一つ、盾公爵デルモンドという。以後よろしく頼むぞ!」



「……はぁ、よろしくお願いします」



 ……伝説の勇者の武具かと噂をすれば、なんと自称魔王の武具。

 しかも公爵様らしい。





「……ZZZ」



「盾さん、寝ちゃったポコね」



 ポココの言うように、盾に描かれた顔が眠りはじめた。

 ……まぁ、喋る盾という珍しい逸品を手にした瞬間だった。





「ガウ、その盾。……売ったら高そうじゃない?」



「マリー様、売るなんてとんでもない! 本当に魔王の武具かもしれませんぞ!」



「だったら、信じられない値段が付くかもよ!?」



「……え!?」



 今回、任務達成できてないので、経費が高くついている。

 そのこともあり、何でもお金にしたいマリーに、スコットさんが大慌て。



 仕方ないので、今回手に入った金貨は、全てマリーの物にすることで、盾の売却を押しとどめた。





「ポココは今回、何が欲しいの?」



「これを貰うポコ!」



 ポココはよくわからないゴミの山を指さす。

 爬虫類の干物だとか、よくわからないのが満載だが、狸には狸の事情があるのだろう。





「ワシはコレを頂きますぞ!」



 スコットさんは謎の古い巻物を指さす。

 あいからわず、彼は古い書物が大好きだ。



 私は結局、この謎のしゃべる盾を貰うことにした。

 なんだか気味が悪いけれどもね。



 ……こうして、今回のお宝の分配は終わった。







☆★☆★☆



――古城2階の執務室。

 朝から、バルガスの大声が響く。





「旦那様、怪しい奴をひっ捕らえました!」



「……え!? どんな種族?」



 古城の守備を担当しているオーク族の戦士バルガスに尋ねる。





「人間ですぞ!」



「あ~、面倒くさいなぁ」



 ……この古城のあたりの土地は、人間が近寄らないと聞いていたから買ったのだ。

 私があまり人間を好きでもないのも相まって、バルガスも決して良い顔はしない。





「処刑いたしますか?」



「……いや、会うだけあってみよう!」



 屈強なオーク族の戦士に両脇を掴まれて、連れて来られたのは一人の老人だった。

 しかも、怪我をしていた。





「……あ!?」



「あ、あんたは!?」



 私が人間の姿をしていたので、相手も気づく。

 ライアン傭兵団で、以前一緒だったシェル爺さんだった。





「この人の縄を早く解いてくれ!」



「旦那様のお知り合いでしたか? 大変失礼いたしました!」



 バルガスが慌てて部下に、縄の束縛を切らせる。

 そしてすぐに、古城1階の食堂に、シェル爺さんを案内した。





「ガウ小隊長、あんたここでなにをやっとるんだ?」



 縄で痛んだ手をさすりながら、シェル爺さんが聞いてくる。





「……いえね、ここでもちょっとした小隊長を……ですね」



 私は頭をかきながら答える。

 二人で廊下を歩くと、すれ違ったオーク達に、恭しく敬礼される。





「……いや、これは小隊長って感じじゃないな、まるで魔物のご貴族様だ!」



 ……ギクッ。



 流石、歴戦の傭兵シェル爺さんだ。

 鋭い所を突いてきた。



 私は魔物側には、魔界の貴公子ベルンシュタイン伯爵の後継者ということになっている。

 ……件の旗のせいだ。



 しかし、人間側での私は、アウトローのライアン傭兵団の一員でしかない。





「まぁ、その話はおいおい説明するというということで……」



 食堂に着いた私は、シェル爺さんにエールを薦めた。



「ありがてぇ、久々の酒だ!」

「ふぅ……五臓六腑にしみわたるわい!」



 ……けがに悪そうだが、喜んでくれるのは嬉しい。





「……でな、ガウよ。いま傭兵団がどうなっとるか知っとるのか?」



 エールのお替わりを頼んだところで、シェル爺さんの顔が曇る。





「……ええ丁度、少し心配していたとこなんですよ!」



「それがな……、俺たちは騙されたんだ! くそう!」



 シェル爺さんは、悔しそうに先日の戦いでの話をし始めたのだった……。
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