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第二十四話……石材加工と町造り

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「釣れたポコ~♪」



「姉上! どんどん釣っていきましょう!」



 スコットさんの指導の元、古城の近くの小川で魚釣りを総出で行う。

 ちなみに使い魔になった時系列上、ポココはスコットさんの先輩だ。



 ワイバーンの要求に応えるため、傭兵団にも魚の干物を集めて欲しいとのことだったのだ。





 釣れた魚はすぐに捌いて、塩水につけて天日干しにした。

 前世と違い、塩の値段が高いために、塩漬けや干物は概ね高級品の部類だった。





「ガウ、釣れないね」



「……う、うん」



 傍で見つめるマリーの目線が痛い。

 私はこの世界においても、釣りが下手だったのだ。

 苦手だが、少しでも多くの魚の干物が必要であり、手伝わざるを得なかった。







☆★☆★☆



――二週間後。



 再びガルダ山を訪ねる任務は、私の仕事だった。





「行くのは嫌ぽこ!」



 前回と同じように、道案内をポココに頼むが、行きたくない様子。





「ガウ、無理に連れていかなくてもいいんじゃない?」



 マリーがポココの肩を持つ。





「でも、この仕事は金貨200枚貰えるよ!」



「ポココ! 行ってきなさい!」



 マリーはお金に忠実だった。

 いわゆる資本主義というやつかもしれない。





「酷いぽこ~!」



 ポココはマリーの使い魔であり、その命令は絶対だった。



 結局、前回と同じく、嫌がるポココとスコットさんをお供にガルダ山を登ることになった。

 ……正直、私もあまり行きたくないのだが。







☆★☆★☆



 ……ガルダ山の山頂の洞窟にて。





「おう、干物は持ってきたか?」



「ええ、麓に積載した馬車を停めてあります」



 ワイバーンの族長は、部下に確認させると、まんざらでもない表情になる。





「よかろう、人間どものところへ、我が使いを差し向ける。此度はご苦労だった」



「御計らい感謝です! ……では、失礼いたしますね」



 と言い、洞窟を退室しようとすると、





「まぁ、飯でも食っていけ!」



 と呼び止められた。

 正直、すぐにでも帰りたかったが、機嫌を損ねると拙いため、食事によばれることにした。



 メニューは猪の丸焼きに、アルコール度数の高い酒など。

 魔物の食事とはいえ、塩や香草などの味付けが施されており、案外に美味しかった。





――後日、交渉の末。

 ガルダ山の飛竜たちは、領主さまに協力する情勢となる。

 マッシュ要塞の攻略に、一歩近づいた感じとなっていく気配だった。







☆★☆★☆



 雪が降りしきる中。

 私はオーク達と穴を掘っていた。





「ガウ、何で穴を掘っているの?」



「水を引いて池にするんだよ」



 古城に戻っていた私は、貯水池の建設に取り掛かっていた。



 古城の周りの荒れ地に、水を引いて畑にする計画だったのだ。

 食料事情を多少でもマシにする試みだった。



 他にも貯水池は魚の畜養にも利用できた。

 魚は高たんぱくの良い栄養源である。

 ……また、これなら魚釣りが下手でも大丈夫なはずである。



 この貯水池事業は、ルカニが治めるゴブリン達の集落でも実施。



 季節が寒くはあったが、皆で協力して工事に務めた。

 春には奇麗な景色になるかもしれない。







☆★☆★☆



「旦那様、鎧の試作品が出来ましたぞ!」



 オークのバルガスがニコニコ顔でやって来る。

 彼等オークの鍛冶施設では、鉄の盾は作っていたのだが、鎧は初めての試みだったのだ。





「いい感じの胸当てだね!」



「ええ、強度もかなり出ているはずです!」



 オークの鍛冶師も自慢気だった。

 これはとりあえず、バルガスの配下のオーク戦士に装備させる予定だった。



 他にも、槍や矢じり、剣などの製作も始まっていた。

 鉱石はいくらあっても足らない状況に陥っていたのだ。







☆★☆★☆





「ガウ、こんな岩山を削ってなににするの?」



「うん? いや、トレーニング」



 私は最近、古城の近くの岩山を魔法で切り出していた。

 石材として利用するという側面はあるのだけど、魔法のトレーニングという面が大きかったのだ。





「……そりゃあ、使えば使うほど、筋肉のように強くなりますよ!」



 このスコットさんの教えが決め手だった。



 なにやら、魔法というのは、魔力の限界まで使うと、回復して次に使う時にはさらに大きな魔力が使えるようになるとのことだったのだ。





「出でよ、水の精霊! 濁流を力とせん! ウォーターボール!」



 水の弾を作り出し、岩肌に当てる。



 大した威力は出なかったが、トレーニングとしてはかなり良いらしい。

 私に宿る精霊サラマンダーが、火の精霊の為に、相反する力を出すのは、とても良い負荷がかかるらしいのだ。



 ウォーターカッターのように岩を切り出し、整形したあと、古城の近くまでオーク達に運んでもらった。

 それ功を奏し、今では古城の周りには、石造りの立派な家も立ち始め、小さな町となっていた。

 ルカニたちゴブリン達も一部が移住してきている。





「道も石造りが良いですな! 旦那様、もっと石を切り出してください!」



「あ、はいはい!」



 オークのバルガスが言うには、城下の道は石畳が良いらしい。

 雨が降ってもぬかるまず、馬車などの運用に良いとのことだった。



 他にも小川の護岸工事にも、石材は使われた。

 今では小さな船着き場もある。



 ……こうして、私の魔法トレーニングの副産物である石材が、街づくりに大いに活かされていったのだった。

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